白夜館

 

 

 

幻想館

 

この声なき叫び

トラベルミステリで有名な西村京太郎氏の初期作品の映画化。

内容は謎解きと言うよりも「冤罪もの」に近く、特にコミュニケーションが取りにくい身体的ハンデがある人物が疑われると言う悲劇が描かれており、疎外されながらも懸命に生きるハンデを持つ人達の孤独な姿や貧しい家庭環境の境遇など途中何度も涙を誘うシーンがある。

つまり、社会派テーマがあると同時に「泣けるミステリ」なのだ。

殺人容疑をかけられる青年を演じているのが若き日の田村正和さんなので、「容疑者古畑任三郎」みたいな雰囲気がないではないが、当時の正和さんはまだあどけなさが残る甘い風貌なので謎解きはしない。

代わって事件の謎を追うのは、田村さんと親しくなったバーのホステス役の香山美子さんとイケメンの園井啓介コンビ。

園井さんは「事件記者」の山さんのイメージそのままに記者役と言う設定になっている。

南田洋子さんが口うるさいバーのママ、北村和夫さんが弁護士、当時東宝所属だった志村喬さんが医者役で、貧乏長屋のおばさん役で菅井きんさんも登場している。

さらに聾学校の先生として笠智衆さんと倍賞千恵子さんと云う松竹のお馴染みも登場しており、素材の地味さを補おうとしているように見える。

白黒作品でもあるし、事件内容も毒殺と言う地味なもので、特に派手な要素はないし、正直地味な作品ではあるが、後半からの展開は正直意外性があるし「冤罪もの」としても満足度が高い。

ミステリの形を借りた感動作と言っても良いかもしれない。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1965年、松竹、西村京太郎「四つの終止符」原作、柳井隆雄+石田守良+今井金次郎脚色、市村泰一監督作品。

※文中、今では差別用語とされる言葉が出てきますが、内容を考えると、今その部分を消してしまうと意味が通じにくいと判断し、そのまま書いています、ご理解のほど宜しくお願い致します。

神様って本当にいるんですか?

もしいるのなら

僕の耳を直して下さい (と詩が出て来る)

タイトル(江東区の川をバックに)

バーに来ていた2人の男性客が、新人ホステスの石母田幸子(香山美子)に絡むが、ママの松浦時枝(南田洋子)が、その子まだ入ったばかりなんだから触っちゃだめよ、代わりに私じゃどう?などと割って入る。

そこにやって来た新客佐々木晋一(田村正和)がカウンターに座り、ビールを下さいと言うので、幸子が応対する。

それに気付いた時枝が、あの子どこの子?あんた達の仲間なんでしょう?と2人の客に聞くと、仲間じゃねえよと翁声で言うので、聞こえるじゃない!と時枝が慌てて注意すると、あいつは大丈夫なんだよ、聞こえないんだよ、ツンボなんだよ、あいつ良く来るのかい?などと先客2人が嘲るように時枝に聞く。

ここんところ来るみたい、でも今、ビールくださいって言ったわ、ツンボってしゃべれないんじゃない?と時枝が不思議がると、ママ、古いよ、今は何とか教育って奴でしゃべれるんだよ、それにあいつ、生まれつきじゃないらしいからと客が教えるので、道理でしゃべり方が変だと思ったわ、最初三国人かと思ったのよと知己絵が言うと、あいつ、砂町の玩具工場で働いているよと客は言い、2人はそのまま店を出る。

すると佐々木も僕も帰りますと言い、帰って行ったので、誰もいなくなった店内で、あの子ツンボなんだってね、知ってた?と時枝が聞くと、ええと幸子が答えたので、嘘!何で分かったの?と時枝が聞くと、そんな感じがしたんですと幸子が言うと、あの子、あんたに惚れてるんじゃないの?と時枝はからかう。

まだそんな年じゃ…と幸子が苦笑すると、もう20にはなるでしょう?あんた、どうしたの?まさかツンボなんかに興味持った訳じゃないでしょう?と時枝は真顔で案ずる。

そこに又3人客が来る。

翌朝、工場へ出かけようとしていた佐々木は、川沿いに幸子が経っているのに気付き近づくと、私、今日、お店休みなの…と幸子が言うので、うれしくなって一緒にレストランへ食事に行く。

京子は、ランチのライスを懸命に頬張る佐々木の姿に微笑みながらも、何か飲まない?私、紅茶、晋一さんは?遠慮しなくて良いのよ、当ててみようか?オレンジジュース?コーヒー?クリームソーダ?と聞くと、どうして僕に親切になんですか?と佐々木は聞く。

弟みたいな気がするのと幸子が答えると、僕も姉さんのような気がしますと佐々木もうれしそうに答える。

その後、ハモニカ長屋と呼ばれる貧しい自宅に戻って来た佐々木は幸子を連れて来ており、布団の上に起きていた母親の佐々木辰子(荒木道子)に、お母さん、この人いつも話す…と紹介する。

幸子が部屋に上がると、佐々木は買い物に出て行ったので、晋一が親切にしていただいているそうで、どうも…と2人きりになった辰子が礼を言うと、長いご病気だそうで…と側に座った幸子が聞くと、もう2年になるんですよ、悪性の心臓病なんで動けないんですよ…と病状を話した辰子は、晋一は可哀想なんですよ、父親を早く亡くなったんで、可哀想にあんなに働いて…、たまにはビールくらい飲んでお出でよって私が勧めたんですとと明かす。

幸子は部屋の棚の上に木琴が置いてあることに気づき、木琴弾くんですね?と聞くと、聾学校を出る時もらったんですよ、あの子、4つの時に肺炎から高熱を出し耳をやられちゃたんです。

その時、良い医者にかからしてやれなかったことを悔やんでいます。 あの子もきっと恨んでいるはずです。

私なんかこの病気で死んだ方が良いんですけどねと辰子が弱音を吐く。

そこへ戻って来た佐々木が、買って来た菓子などを出そうとするので、こんなことしなくて良いんです。それより木琴聞かせて、私聞くから…と佐々木に頼む。

僕、下手だから…とはにかんだ佐々木だったが、弾いてごらんよ、せっかくだからと辰子が進めると、棚の上から木琴を降ろし、「月の砂漠」を弾き出す。

それを聞いていた幸子は途中から歌い出したので、それに気付いた佐々木はうれしそうに微笑む。

部屋には、牛乳瓶に入れた水の中にバラが一輪刺してあるだけだった。

翌日、佐々木は玩具工場で懸命に働いていた。

そこに肩を叩いて終業を知らせに来た同僚の町村(世志凡太)が、時間だよ、良い加減にしろよ、はた迷惑だぜと嫌みを言い、他の工員達も女の事でも考えてたのでは?色気づいたんだよなどと口々に佐々木をからかう。

人気のない水辺で幸子と会った佐々木は、良く来るの?と聞かれ、色々考え事できるから…と答えると、仕事このこと?と聞かれたので、僕の夢です、昼休みにも良く町の大きな会社を見に行きます、でも僕には絶対入れません、今の町工場にさえ邪魔者扱いされていますと愚痴る。

それを聞いた幸子が、でもみんなだんだん分かってくれるようになるわよ、お母さんもきっと良くなるわと慰めると、佐々木は、僕うれしいです、1人ぽっちだったのが、お姉さんと友達になれたんですから…と感謝して来る。

これ、お母さんのお見舞いに、良いのよ、ほんの気持、ビタホルンでも買ってね…と良いながら金を渡す。

うれしくなって帰宅した佐々木だったが、床の上で辰子がうつぶせになっていたので、お母さん!どうしたの?苦しいの?大坪先生、呼んで来る!と声を掛けるが、大丈夫よ、ちょっと苦しかっただけ…と辰子が言うので、ご免ね、遅くなって…、僕もう遊ばないよ…と佐々木は詫びる。

私のことなんか良いんだよ、本当に早く死んでしまった方が…などと辰子が言うので、嫌だよ、死んじゃ!と佐々木が頼むと。ごめんよ、愚痴言って…、お母さん、死にやしないよと辰子は詫びる。

長生きしてね?と言う佐々木に、良いとも…と辰子は答える。

すると佐々木は、お母さん、明日僕、千葉に行って、ワカサギ買って来るよ、前から食べたいって言ってたじゃない、幸子さんが、お母さんにってお金くれたんだ、だからこれ買って来たんだ、ビタホルン、大坪先生が言っていた栄養剤だよ、早く良くなってね、僕、うんと働いてお母さん、楽させるからね、本当に先生呼ばなくて良いの?と佐々木は確認する。

しかし辰子の様子は悪そうだった。 翌日、雨の中、傘をさしてハモニカ長屋に来た医者の大坪(志村喬)は、長屋の住人田辺ウメ(菅井きん)と出会う。

土方殺すにゃ刃物はいらずってね…などと愚痴るウメに、それにしちゃ豪勢じゃないか?そろそろ別れた亭主が恋しくなったか、立派な身体じゃないかなどと大坪が下品な冗談を言い、差しつ差されつ四畳半〜♩などと鼻歌まじりでやって来たのは辰子の部屋だった。

中に入ると、辰子が布団の上で突っ伏しているので、寝ちゃってるよと入り口から覗き込んだウメが言う。

しかし、酷く吐いとるな…と言いながら枕元に近づき、辰子の眼球などを覗いた大坪は、死んでるねと驚く。

お辰っあん!とウメが近づこうとすると、触っちゃいかん!ウメさん、晋一君は?と大坪が聞く。

もう帰って来る頃なんだけどね、残業だよとウメが教えると、呼びに行ってくれんか?わしゃ警察へ届けに行く。

まだ断定は出来んが、毒物死のようなんだ…と大坪は言う。

ウメは玩具工場へ行くが、佐々木は定時に帰ったと主任らしき男は言うので、4時だね?とウメは確認する。

側にいた町村は、女の所だよ、あいつ二枚目気取りだからなどと悪口を言って来る。

教えられたバーに来たウメだったが、時枝は、今日はうちへも一度も来てませんと教える。

その頃、佐々木は列車に乗っていた。 江東警察署では、帰って来ない佐々木の行方を探していた。

署長(野々村潔)と木崎警部補(高野真二)の元に、ビタホルンを分析した結果、ひ素が混入されていた、瓶からは辰子と晋一の指紋しか出て来ないなどと広瀬刑事(宗方勝巳)の報告が届き、行方が知れない佐々木への疑いが増していた。

一方、駅前の食堂に入って注文した佐々木は、TVのニュースで佐々木辰子50歳が毒殺され、息子の晋一君20歳を重要参考人として探していると言っているのを見て唖然とし、店を飛び出して行く。

佐々木の家の様子を見に行ってバーに帰って来た幸子に、客が、あいつやったんだろう?と聞き、時枝が、さっちゃん、どうだった?と聞くと、警察の人がいて全然近づけませんと幸子は辛そうに答える。

あの子は?と時枝が聞くと、全然帰ってないんですと幸子が言うので、だから言ったじゃない、あんたと一緒になりたくてやったのかも知れないよと時枝は注意する。

それを聞いた幸子は、私のせいで人殺しが起きたんでしょうか?と苦しむ。 ああいう人にお金をやるのが間違いよと時枝は言い聞かすが、私、あの人がやったとは思いませんと幸子は言う。

その頃、自宅前に帰って来た佐々木だったが、自宅前に警察が張っていることに気付くと、持っていたワカサギの包みを落し、その場から逃げ去る。

暗い海辺にやって来た佐々木は、お母さん、お母〜さ〜ん!と海に向かって叫ぶ。 ハモニカ長屋での毒殺事件は新聞にも載る。

玩具工場に聞きに来た刑事に対し、主任は、ひ素は工場では扱っていません、もう身体障害者はたくさんですよ、先生に頼まれて無理に使っていたけど、こんな騒ぎを起こされたんじゃ…、慈善事業も大概にしないと…とぼやく。

同じく同僚として町村は、1年も一緒に働いていたんでしょう?と佐々木のことを聞かれると、呼んでも聞こえないので、何か用事があるときはいちいち肩を叩かないといけないし、そんなことしてたら自然に付き合わなくなるでしょうとうるさそうに答える。

ビタホルンを佐々木に売った薬局にひ素の在庫を調べに来た広瀬、田島両刑事に、半年前に整理したままですからひ素はそのままです。今度のことで、ビタホルンの売上もぱったりですわと調剤師の樫村富子(木村俊恵)はぼやく。

田島刑事が、店頭に並んでいたビタホルンを指し、ここからお売りになっただけですね?と確認すると、富子は、ええ…と言いながらもちょっと表情が曇る。

バーに来た刑事達が幸子に佐々木晋一とはどう言う関係ですか?特別な約束をしていませんか?などと聞くと、側にいた時枝がバカバカしいと口を出す。

心当たりになるようなことはありませんか?後で参考人として署に来てもらうことになりますよ、あなたもねと刑事は幸子と時枝に伝える。

電話を拝借!と田島刑事が頼むと、後で10円頂きますよと時枝は意匠返しのように言う。

カウンターの電話で主任に連絡を入れた田島刑事だったが、佐々木が三谷のドヤ街で逮捕された!と知らされ声に出して復誦したので、側で聞いていた幸子と時枝も唖然とする。

取調室の佐々木には手話の通訳も付き添っていたが、僕は殺していません、母は恨みを受けるようなことはありませんと話す。

何故逃げたんだ?と聞かれると、警察に行くつもりでしたが、家に帰ったらパトカーがいたので怖くなったんです、僕は疑われていたけど、話すのが下手なので、僕の言う事など信じてもらえないだろうと思ったからですと佐々木は答える。

幸子って言うバーの女給を知っているね?正直に言いたまえ、知ってるだろう?その女をどう思っていたんだね?と聞かれた佐々木は、親切な人だと…と答えると、好きだったんだろう?病気の母親さえおなくなればもっと会えると思ってたんだろう!と刑事が決めつけて来たので、母を殺していません!と佐々木は訴える。

一方、参考人として署に呼ばれた幸子も、どうして愛人でもないのに親しく付き合っていたんです?と刑事に聞かれた幸子は、佐々木さんには私が必要だと思ったんですと幸子が答えるが、刑事は、野暮天のせいか、あんたの言う事が分からん…、佐々木はあんたに惚れていて、恋の邪魔になる母親を殺した、弱い人間の方が犯罪を犯すものですよと言い聞かせる。

部屋を出た幸子を廊下で待っていた時枝は、さっちゃん、どうだった?私も根掘り葉掘り聞かれ、まるで共犯扱いよ、あんなツンボの肩を持つなんて…と迷惑そうに帰りかけていたが、怪談の所で、石母田幸子さんですね?新聞社のものですが…と古賀(園井啓介)が話しかけて来ると、どうせ面白半分に犯人の情婦とか書くんでしょう?と時枝はぴしゃりと言い返し、幸子を連れさっさと帰ってしまう。

木崎警部補は署長に、すぐに自供が取れると思ったんですが、女の方は共犯の線はないですし、自宅側に落ちていた土浦のワカサギの箱から、一旦佐々木は帰って来たと思われますし、駅前の食堂のテレビを見ていたのも目撃されています。

犯行後わざわざ土浦まで行きますかね?と疑問を口にすると、偽装したとも考えられますと田島刑事が意見を言う。

その時、電話がかかって来て、それを聞いた署長は、家宅捜索の結果、佐々木の机の引き出しの中からひ素が発見された?と報告を受け驚くと、これで決まりだな…と木崎は呟く。

バーでは、酔客(林家珍平)が、あいつと寝たように俺とも寝てくれよなどと幸子にしつこく絡むので、堪らず幸子は客の頬をビンタして二階に逃げてしまう。

こちとら客だぞ!降りて来い!と客が騒ぐので、大概にしなさいよ、あんたたち!酒に飲まれるくらいなら酒なんか飲むんじゃないよ!今日はもう飲まさない、帰りなさい!と時枝が叱りつけ、客を全員追出してしまう。

そして二階にいた幸子の所に来た時枝は、今夜は早く休もうねと慰める。

すみません、私の為にご迷惑ばかりおかけしててんと幸子は詫びる。

忘れなさい、これで片がついてさっぱりしたでしょうと時枝が言うと、誰も彼も彼を犯人と言う…と幸子は悲しむので、さらに時枝が言葉をかけようとしたとき、ドアがノックされ、警察のものですが?と言うので、仕方なく時枝がドアを開けると、そこに立っていたのは昼間声をかけて来た記者の古賀だった。

普通に言っても開けてもらえないと思ったんで…と恐縮しながら店に入って来た古賀は、こっちも商売なんですよなどと言うので、うちはビール売っただけです!と時枝が追い返そうとすると、少し落ち着いて!閉めちゃいましょう、客が来ると邪魔だから…などと図々しく言い、入り口に施錠してしまう。

そして二階から下りて来た幸子に、幸子さん、彼の無実を主張しているそうですけど、もうダメだね、引き出しからひ素が出て来たんです、彼の陳述によると、同じ聾学校出身の友人が勤めているミルク工場からもらったと言っているそうですと古賀は教える。

彼との関係は?例えば、接吻をしたとか寝たとか…と古賀が下品なことを聞いて来たので、大きなお世話なのよ、あんた大学出てるんでしょう?などと時枝が助け舟を出す。

それを言われると痛いな…、僕は事件の結果を報道するだけじゃなく、裏を書きたい、新聞記者は12歳の正義感を持つべきなんだ、しかし子供っぽい感傷は危険です、真実の目を曇らせますからねと古賀は言う。

その時、幸子が、弁護士っていくらくらいかかるんでしょう?私貯金が12〜3万くらいあるんですけどと言い出したので、それを聞いた時枝は、そんなに溜めてたの?日頃から慎ましくやっているとは思ってたけど…、お止しなさいよ、もったいない!親兄弟じゃあるまいし…、どうにかしてるよ、あんた!と注意する。

検事から、ミルク工場ではひ素を扱っていた、だが何故ひ素をもらったんだ?と聞かれた佐々木は、死にたかったからです、1人ぽっちで寂しくて…、時々死んだ方がましだと考えていたからですと答える。

しかし検事は、弁解だろう?母親を殺す為だろう?返事がない所を見ると認めると言うことだね?と断定的に言う。 母さん…と佐々木は哀しげに呟く。

ハモニカ長屋では、辰子の葬儀を行なっていたが、そこに幸子がやって来たので、応対に出て来たウメは、しんちゃん警察から帰って来るのを待当と思ってたんだけど、近所のものだけでやる事にしたのよ、良く分かったねと言うので、ちょっとお聞きしたい事があったので…と幸子が言うと、ちょっと線香だけでも…とウメは勧める。 家に上がり、辰子の遺影に線香をあげかけた幸子は泣き出してしまう。

その頃バーでは、古賀が時枝に、警察では起訴に踏み切るようだ、1〜2ヶ月後に裁判で罪が決定する訳ですと説明し、幸子さんは?と聞くと、どこに行くとも言わずちょっと出かけるって…と時枝は教える。

自殺でもしないかな?思い詰めているのを見ると心配なんだと…、しかし異常だな…、とにかく謎ですよ、一つさっちゃんの謎を解かないと…と古賀は言う。

長屋で幸子から、辰子が自殺したのでは?と聞かれたウメは、とんでもない!あの日は普段通りでしたよと否定する。

前に自殺未遂をした事があるそうですが?と幸子が聞くと、今度は違うよとウメは言う。 続いて幸子が訪ねたのは大坪医師の診療所だった。

辰子の自殺の可能性を聞かれた大坪は、自殺ならわざわざひ素を栄養剤に入れる必要はないじゃないか、栄養剤にひ素を入れるのは誰にでも出来るよと言うので、じゃあ先生にもチャンスがあると言うことですね?と幸子が迫ると、僕が殺すならもっと上手にやるよ、医者だからね…と大坪は苦笑しながらも、できれば無実を信じてやりたいんだが、ひ素を持っていたと言うのがね…と言う。

しかし今回の事件では誰も彼を裁く権利はないはずだ、彼は20だ、酒も飲めるし、女も抱ける、そんな若者の権利を止めて母親の看病をさせると言うのは酷だ、国が彼に何をしてやったんだ? 彼を裁けるのは検事や裁判所じゃない、おふくろだけだ! 今頃おふくろは自分を殺した息子を許しているだろうと大坪は言う。

拘置所に入れられていた佐々木は孤独だった。

翌日、バーにかかってきた電話に出た時枝は相手が子が身体と知る。

もう昼ですよ、声が変だって?少し風邪気味なんです、郡山の在に行ったんでね、さっちゃんは?聾学校へ行った?と古賀が驚くと、時枝は、佐々木晋一を教えた先生に会って来るってと教える。

すると古賀は、お願いを聞いてくれませんか?デートして下さい、亀戸駅の北口に30分後!と伝え電話を切ってしまう。

喜んでいそいそと出かけた時枝だったが、古賀の目的が聾学校への訪問と知るとがっかりする。

さっちゃんにツンボの弟がいたことが分かったんです、正しく理解するにはここに来る必要がある!と古賀は言う。

「1の2 沢村学級」と書かれた部屋に来た古賀と時枝を見た幸子は驚くが、内のデスクが少し聾唖のことを学べと…と古賀は伝え、一緒に座って授業を見学し出す。

女性教師が耳に補聴器を付けた児童たちに、お客様にご挨拶をしましょうと話しかけると、生徒達は立ち上がって背後を向いて幸子や時枝の方に「おはようございます」と言う。

すると教師は、1人「は」の発音が不完全な児童相手に何度も根気よく「あ」と「は」の発音の違いを教え込む。

時枝は、そんな授業に飽きたのか途中であくびをしたりするが、授業が終わりのブザーを教師が鳴らし、1人の児童が近づいて来て、おばちゃん!と呼びかけて来ると、そのいじらしさに思わず泣いてしまう。

教師に近づいた古賀が、ブザーは聞こえているんですか?と聞くと、聞こえてはいませんが空気の振動は聞けるんですと教師は言う。

教師はさらに、普通の子なら話したり聞こえたりできるんですが、この子らも中学まで行けば普通に話せます、だけど一般の人達はツンボは話せないと思い込んでいるので疎外してしまうんです。

一般の人も目を押さえてメクラのことは何となく分かっても、耳を押さえても全く聞こえない聾のことは100%は分かりませんから…と教師は言う。

その後会った館野校長(笠智衆)は、佐々木に会いましたが、暗く陰気になっている。もっと周囲が分かってくれれば良いのですが…、教え子だからと言う身びいきもあるのですが、佐々木の無実を信じる事実があります、佐々木は独ぼっちだった… 完全な孤独では生きていけません、佐々木の唯一の救いは母親の愛情だけでしたと言う。

それを聞いていた古賀は、しかしそれだけでシロとは…と反論すると、舘野校長は1冊の詩集を棚から取り出して来て、佐々木の6年の時のものですと言う。

「神様って本当にいるんですか? もしいるのなら 僕の耳を直して下さい そしてお母さんの声を聞かせて下さい」 ツンボの彼にとって、安心して話せるのは母だけだったでしょう、母の声だけが彼の生きている証なんです。

失うことの出来ん宝です、このことを書いた佐々木が、どうして母を殺すんですか? これが健全な身体を持った方には理解できんでしょう…と舘野校長が言うと、私は分かります!と幸子が答える。

私にはツンボの弟がいたんです。 父も母も早く亡くし、弟はおばさんの家から県立聾学校に通っていました。

でも見栄っ張りだった私は虐められる弟を疎ましく思い、避けているうちに弟は1人ぽっちになり、危険な線路を歩くようになりました。

そして背後から迫って来た列車の汽笛に気付かず、轢かれて死んだんです。

即死でした。 弟を殺したのは汽車でしたが、でも私がだったのかも知れません…、私がもっと世話していたら… きっと弟は泣きながら線路を歩いていたに違いない… 学校に通い出したばかりだったので、まだ10〜20くらいの言葉しかしゃべれなかったけど、私は聞いてやりもしなかった…と言いながら泣き出す幸子。

その話を聞いた時枝も、ねえさっちゃん、私も悪かったわ、ご免ねと詫び、今日から私もあなたの味方だからねと泣きながら伝える。

古賀も又、舘野校長に、この詩、新聞に載せてみますと言い出す。

聾学校からの帰り、時枝は古賀に、素晴らしいデートだったわと微笑みかける。

佐々木の詩は新聞に掲載され「この声なき声を聞け 白か黒か?第一回公判が迫る」と見出しが躍る。

幸子から弁護依頼を受けた弁護士宝井清太郎(北村和夫)は、弁護士としては全力を尽くすけど、今回は勝算なしだね、無実を証明する証拠がないと最初から投げている口調だった。

あんたも信じているだけでは法廷では無力だ、弁護に勝つには1つしかない、栄養剤にひ素を入れたと認めるんだ、そして尊属殺人を自殺関与罪にしてもらうんだよと言う。

堺君!吹田橋の事件いつだったっけ?と隣の部屋の事務員に聞いた宝井は、5年前ですと聞いてもうそんなになるかと驚く。

ああ坪井氏の話だと母親の心臓は一生直らんと言うことだった。

それを苦にして前に自殺しかけたこともある、その母を楽にするため、晋一がひ素を与えた…、こう云う論法なんだと宝井は打ち明ける。

裁判では正義がどうとか関係ない、勝つか負けるかなんだ、だからどんな手段を使っても勝しかない!自殺関与罪にも持ち込めば、執行猶予に持って行ける。

私にどうしろと?と幸子が聞くと、佐々木に殺したと話させて欲しいんだ、私が言っても一向に話してくれないんです、これじゃ話にならない…、あんたに説得してもらいたいんですと宝井は言う。 刑法第40条に、イン唖者の行為は之を罰せす又は其刑を減軽すとあるんだ、感傷じゃ佐々木君は救えんよ…と言う宝井は風邪をこじらせているらしく、今年の風はしつこいよとぼやく。

拘置所 面会に来た幸子から話を聞いた佐々木は、どうしてもお母さんを殺したのは僕だと言うんですか?と聞くので、それより他にあなたを救う方法が見つからないの…、仕方ないのよ!弁護士さんの言う通りにしてちょうだい、お願い!と幸子は訴える。

それを黙って聞いていた佐々木は、僕は母を殺してないのに、殺したって言うと僕が助かるんですか?とどうしても納得いかないようだったので、マスクを付け幸子に同行していた宝井が、我々にはその手だけしかないんだよと訴える。

拘置所からバーに戻って来た幸子を待ち受けていた時枝は、さっちゃん、あなた、今までどこをうろうろしてたのよ!大変なことになったのよ!佐々木君が首吊ったそうよと言うので、だって今会って来たばかり…と幸子が絶句すると、あなたと会ってすぐらしいの、拘置所の病院にいるんだってと時枝は言う。

病院に駆けつけた幸子は、先に来ていた宝井弁護士が、幸い発見が早かったから良かったものの、佐々木には腹が立っているんだ!被告人が言う通りにしてくれたら勝てたのに、これは私にとって裏切りだよ!と苛立たしそうに不満をぶちまけるのを聞かされる。

遺書だか何だか知らんが、気でも違ったんじゃないだろうか?訳が分からんことが書いてあったと言いながら、宝井は封書を幸子に渡す。

それを読むと、誰も僕を信じてくれない、1人ぽっちだ、信じてくれたのは母さんだけ、だから僕も死ぬより仕方ありません。

ただ僕の耳が聞こえなかったように、みんなに僕の言う事が聞こえなかったんだと思います… 読んでいた幸子が泣き出したので、一緒に付いて来た時枝は、さっちゃん、バカだね、泣くなんて…と時枝も慰める。

誰も僕を信じてくれません、やっぱり僕は1人ぽっちでした… 力なくバーへ戻って来た時枝と幸子だったが、そこに古賀がやって来て、さっきはありがとう、良いスクープでしたと礼を言う。

店は閑古鳥が鳴いてるわ、変な奴が入って来たけど…と時枝が嘆くので、さっちゃんは?と古賀が聞くと、弁護士が手を引くと言うんで、二階に閉じこもってしまったのよと時枝は言う。

警察では罪を認めて自殺したって思ってますと古賀は教え、残されていた遺書を読み出すが、遺書と言うよりまるで小学生の作文だな…、どちらかと言うと罪の意識に耐えると言うよりも、孤独のために耐えようとしているみたいだ…と言うので、何が孤独よ!と時枝は吐き捨てる。

確かに人の親切のことばかり書いてあるな… 舘野先生 長屋の皆さん 薬局の奥さん 石母田幸子さん みんな親切でした…こりゃおかしいな?と古賀は遺書の続きを読んで首を傾げる。

何故ビタホルン買っただけなのに…、本来恨む所を、何故親切だったなんて書いたんだろう?と古賀が言うので、確かに変ね、あなた、頭良いわ!と時枝が感心すると、あんたが悪すぎるんだと古賀は言い返す。

親切にしてもらったんだな…と古賀が考え込むと、私頭は悪いけど男女関係のことなら詳しいわよと口を挟んで来るが、さっちゃんが可哀想だけど、オールドミスの細君が佐々木と関係を持っていて、現在の夫と結婚した…、死んだのは母親の方だったけど、本当に殺したかったのは佐々木の方かも?と古賀は推理する。

しかしその推理を持って再び幸子が訪問した宝井だったが、この程度の話では、素手で敵陣に乗り込むようなものだよと言うので、負けても良いんです、ただ無実をあの人と一緒に叫んで下さい、先生だけでも叫んで下されば…と幸子は懇願する。

1人ぽっちで誰もいないんです、あの人…、お金のこと、足りなければ何とかしますから!と幸子が訴えると、金のことなんかじゃないんだよ、君の言う浮ことは弁護の範囲を超えているんだよと宝井は戸惑う。

それでも幸子は、お願いします!弁護してやって下さい!と頭を下げる。

その後、幸子は、薬局の樫村富子を訪ね真相を聞き出そうとするが、私の方はお薬を売っただけで、私1人でやっていますから…と富子は迷惑そうに言うだけだった。

佐々木さんのこと前から知ってましたか?遺書を残したことをしてますか?と粘ると、いいえと富子が言うので、あなたのことを親切な人って書いてあったんです、お薬を売っただけ、ただそれだけで遺書に書くものでしょうか?と詰め寄ると、何も知らないって申し上げてるでしょう!と富子は苛立ち、うちは薬局ですから、ひ素も青酸カリもございます!と自虐的に言う。

古賀の方は近所の聞き込みをしていた。

魚屋(青山宏)で富子のことを聞くと、30過ぎですよ結婚したの、お店の方は奥さん1人、旦那は3つ年下で、仕事は建築業などと話してくれる。

たばこ屋のお内儀(水木涼子)は、ツンボの人は良く来てましたよと言うので、薬屋の奥さんと2人で歩いていたことは?と聞くと、まさか!樫村さんの所、まだ結婚して間もないのよ、そんなことするはずないじゃないのと笑う。

喫茶店で古賀と落ち合った幸子は、分かんないわ、何故親切な人って書いたのか…、本人に聞いてみれば分かるかもと言い出したので、そうだ!何故それに気付かなかったんだろう?すぐに行ってみようと古賀も賛成する。

佐々木に面会した幸子が、お願いだから言って、何故あんな風に書いたのか、晋一さん!と頼むが、佐々木は口を開こうとしない。

それを見ていた古賀は、晋一君、今の君は幸子さんを信じようとしない、受け入れようとしない、自分を自殺に追い込んだ人と思っているんだろうからねと指摘する。

でも彼女は君のことを思い込んでいればこそ、結果的に君を窮地に追い込んだことを分かって欲しいんだと古賀が言い、しんちゃん言ってよ、お願い!と言いながら泣き出した幸子を見ていた佐々木は、僕…、言います…と、重い口を開く。

封を切った薬を奥から持って来たって言うんだ!自分が飲むつもりだった奴を持って来たって言うんですが、これは薬事法違反になるんですよとバーへ帰って来た古賀が説明すると、あの子もあの子だわと時枝は佐々木の対応に焦れる。

晋一君が樫村薬局の奥さんを疑うなんて出来ないんですよ、それだけ純粋なんですと古賀は言う。

奥さんが調剤室で間違って調剤したって可能性は?と幸子が聞くと、そんなこと起こりうるかな?と古賀は首を傾げる。

奥さんから話を聞く為に古賀と幸子が樫村薬局へ言って見ると、そこには夫の樫村雄介(丹英二)しかおらず、家内は持病の頭痛で臥せってますと言うので、そこを何とか…と頼み込むが、具合が悪いのを引っぱり起こすことは出来ません、今日はもう店を閉めます、薬剤師に寝込まれたんでは上がったりですからと言い、2人を追出す。

夜の町に出た幸子が、何、あの人、感じ悪いわ…、人を犬みたいに追っ払ったりしてと憤慨すると、これで又行き詰まりか…と古賀も落胆する。

その時、夜空を見上げた幸子が、きれいな星…とロマンチックな気分になって呟くと、あれも近くで見たらでこぼこのただの天体さと古賀が現実的なことを言うので、何かがひらめいた幸子は、今の言葉で思いついた私の勘なんだけど、あの旦那さん、世間の評判通りの人なのかしら?奥さんの身体の弱いのを利用して結婚したのでは?と言い出す。

翌日の古賀の勤める新聞には「新事実現る」との見出しが躍っていた。

第二回公判

ビタホルンは開封されていたんですね?と聞く宝井弁護士に、はい申し訳ありませんでしたと証人席に立った富子は詫びる。

取り調べに来た警察に何故話さなかったんです?薬事法違反になることを知ってますね?今まで何度違反しましたか?と宝井の質問は矢継ぎ早に繰り出される。

証人は何故封を切ったのですか?と聞くと、在庫が全部売り切れ問屋に注文した直後だったし、封を切っただけだったので、事実を話して佐々木さんに渡しましたと富子は言う。

調剤室でひ素が混入する可能性は?と聞くと、ありませんと否定するので、ご主人はどうです?手を触れる機会はありませんか?と重ねて聞くと、夫は調剤室に入ることがありますが、何で夫が?と富子は戸惑う。 しかし宝井はそこで富子への尋問を終え、検事側の反対尋問もなかったので、続いて夫の樫村雄介を次の証人として呼ぶ。

証人台に立った雄介は名前と27歳と言う年齢、江東区北砂町1-25と言う住所を答える。

富子さんとの関係はと聞かれた雄介は夫ですと答えるが、ひ素を見たことは?と聞くとないと言う。

今の営業のお仕事の前にやっておられたのは?と聞かれた雄介は、事務です、事務と言っても、人夫と一緒に働いていましたから、一度大怪我をしたこともありますと言い、富子との結婚について聞かれると、自分で言うのもなんですが、半年前から我が人生最良の年ですと答える。

先ほど、一度怪我されたと言われましたが、その時、ある看護婦と知り合われたはずですが?と聞かれた雄介は、現在その方とは全く無関係ですねと答えるが、その看護婦を通じてひ素は入手可能ですね?と宝井は念を押す。

富子さんには家、土地、相当額の財産があります。

結婚後、500万の保険にも入りましたね?会社の同僚に、独立して仕事を始めたいと言ってたそうですね?結婚は財産目当てだったんではないですか?と宝井は攻める。

ひ素は少しずつ量を増やして入れれば気付かれない、しかし徐々に殺害の目的は達成できる!と宝井から指摘された雄介は、でっち上げだ!と叫ぶ。

富子さんに栄養剤を飲むよう勧めましたね?たまたまその薬を飲んだ極度に衰弱状態だった佐々木辰子さんは死に至る量だったんです。

看護婦が渡したひ素の量は0.5g、厳密な化学実験の結果、ビタホルンに含まれていたひ素の量と一致しました。

これで晋一君がひ素を混入しなかったことが証明されたのです!と宝井弁護士は指摘する。

バーに戻って来た幸子は、酷い!こんな哀しい世の中があるなんて…と嘆くと、薬局の奥さんも可哀想に…と時枝も同情し、怖いわね男って、特に年下の場合は…と古賀を見ながら言うので、冗談じゃない!反対のこともありますよ!と古賀は言い返す。

しかしあの弁護士良くやりましたねと古賀は宝井のことを褒める。

裁判所では、裁判長(信欣三)が、被告人として前に立った佐々木に対し、昭和36年7-605号判決!と言い渡していた。

主文、被告人は無罪! 公訴事実は犯罪が証明されたので、336条により主文の通り判決します。

最後の1言、佐々木晋一君にお詫び申し上げます。 操作の不手際のため、精神的にも肉体的にも苦痛を与えたことを、捜査陣に代わっておわびします。 もし罪を課したことを考えると、裁判官としての責任を痛感します。

君は今日の不幸なことに負ける事なく、君の周囲で君を支えてくれた人達 舘野先生や石母田幸子さんらが心から愛してくれたことを知り、一層の勇気を持って生きてもらいたい!と言葉をかけ退室する。

膨張していた時枝は、良かったねと泣き出し、宝井弁護士もにこやかな笑顔で佐々木に近づく。

舘野校長と古賀も佐々木の近くに寄り添って来る。

しかし、傍聴席を振り返った佐々木は、そこに幸子の姿がないことを知る。

幸子は裁判所の外で待っていたので、そこにやって来た舘野校長が、どうしました?さあ一緒に迎えてやりましょうと声を掛けると、いいえ、私もう会いませんと幸子が言うので、どうして?と聞くと、私、こうしてあの人が潔白になったらもう別れるべきだと思うんです、私がいたばかりに無実の罪に落したとしたら…と幸子は言う。

それを聞いた舘野校長は、あなたは罪を1人で背負い過ぎです、我々も一緒に背負いましょう。

そして佐々木を幸せにしてあげましょう、頼みます!と言い聞かす。

舘野校長と連れ立ってハモニカ長屋に戻って来た佐々木に気付いたウメは、晋ちゃん!良かったね!と喜ぶ。

部屋に上がりかけた佐々木は、奥の部屋に座っていた幸子に気付く。

仏壇に飾られた辰子の遺影を呆然と見つめる佐々木の姿に幸子が思わず泣き出すと、佐々木は振り返り、幸子と一緒に立ち上がってその手を取り、僕、一生懸命生きていきますと誓う。

それを聞いた幸子も、入り口で聞いていた舘野校長も頷く。

ウメは泣いていた。

佐々木は幸子の両手を握りしめ、そこに顔を近づける。

四つの終止符

(海を背景に)キャストロール

 


 

 

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