白夜館

 

 

 

幻想館

 

大当り百発百中

吉川英治原作の映画化で、大川橋蔵さんが二役を演じるファンタジーのような奇想天外な内容になっている。

正に東映時代劇の黄金時代を象徴するような豪華な作りで、伊奈の山頂にある平家村のセットも大掛かりに作られているし、領主堀家と平家の落人達との戦いなども短いシーンにも関わらずちゃんと作られている。

登場する衣装も豪華絢爛で、大川橋蔵さんは劇中いくつもの衣装で登場し、踊りなども披露したり、女装を見せたりとサービス満点。

この当時の橋蔵さんは本当にきれいな顔立ちである。

江戸城内で将軍綱吉を下がらせた小源太が大見得を切る所など、正しく東映時代劇の見せ場中の見せ場。

後半、派手な衣装で舞を舞う姿なども、旗本退屈男などでもお馴染みの見せ場。

歌舞伎などの様式美などを参考にした見せ方なので、橋蔵さんの剣さばきなども流麗そのもの。

田崎潤さんも登場しているが、大村崑さんも出番は少ないがゲスト的に登場している。

全体的にテンポも悪くなく、後半、長屋での丘さとみさんや伊藤雄之助さんが加わってのエピソードがちょっともたついているかな?と感じないでもないが、ラストの盛り上がり前の緩急のためと解釈すれば良いのかもしれない。

全体を通してみると、もの凄い傑作と言う感じもないが、さすがマキノ雅弘監督と言いたくなる小気味良い娯楽力作である。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1959年、東映、吉川英治原作、比佐芳武+村松道平脚色、マキノ雅弘監督作品。

山並みを背景に赤から黄色へ変色する

タイトル

時 元禄九年 此処 飯田領伊那村

輿を担いだ一行が、夜、地元の神社へやって来る。

古びた神社の社の前に輿を置いた一行は、突如、怪しげな鳥の鳴き声を聞き一斉に逃げ出す。

人気がなくなると、やおら社の扉が開き、中から連獅子の白い髪のようなものを付けた兜に面当て、鎧武者姿の武人が現れ輿に近づいて来る。

輿に乗っていた人影を覗き込んだ武者は、違う!これは伊奈の庄屋の娘ではない!と声をあげ、刀を抜くと、輿の上の箱の部分を斬り捨てる。

中に入っていた娘はいつしか気を失っていた。

その娘を抱え、白馬で山を走る武人。

途中、馬を下りた武人は、小川の水を手に掬い、側で倒れていた白装束の娘に飲まそうと近づくが、こぼれてしまい巧く行かないので、もう一度手で掬うと自分の口に含み、娘を抱き上げて口移しに飲ませてやる。

その時、一瞬気がついた娘は目の前にいる武人の素顔をはっきり見るが、又すぐ気を失ってしまう。

もう一度口移しで水を飲ませた武人姿の伊那の小源太(大川橋蔵)は、娘お品(大川恵子)に、渇きを覚えただろう?そなた当て人よな?と優しく声をかけると、お品は、私、生きているのでしょうか?と状況がつかめないのか問いかける。

そんなお品に小源太は、死なせてなるものか、嫁御寮になるのだ、あの山の果て、虚空蔵山の頂き、兵士一族の住む館へ参ろうぞ!と呼びかけ、2人は又白馬に乗って出立する。

彼らが到着したのは山の上に開けた伊那平家村であった。 御曹司が帰られたぞ!嫁御寮のお帰りだ!と、鐘巻七兵衛(田崎潤)、深瀬大全(戸上城太郎)、矢走右近太郎(田中春男)ら兵士と里人たちは歓声を上げ出迎える。

執着至極でござる!と七兵衛が挨拶するが、お品を見ると、これは庄屋の娘にあらず!御曹司、いかなる事でござろうぞ?と聞く。

後で館へ連れて行くと小源太が答え館に向かうと、それを見送った右近太郎は、されどなかなか申し分なく当て人なるぞと女人たちと噂し合う。

館に連れて来られたお品を前にした小源太の父伊那禅司宗経(薄田研二)は、姫、表を上げい!と声をかけ、身代わりだと知ると、小源太、違う女と知って何故戻って参った?と問いかける。

小源太は所望した故にございますと答える。

そちは伊奈の嫡男だ、勝手な真似は許さんぞと叱った禅司宗経だったが、館に集まって来た里人たちを前に、人々よ!今宵は仮祝言の祝いをしようぞと声をかける。 そして、姫に湯浴みをさせよと女たちに命じる。

湯船に浸かったお品は、小源太との出会いとこの地までの道中の事うれしそうに思い出していた。

そんなお品の耳に、祝いの音曲が聞こえて来る。

七兵衛、右近太郎、大全らは、あれほどの姫なら、わしも祝言したいものだなどと軽口を叩き合っていた。

やがて、館の庭先に組んだ演台の上で、女人たちの舞いが始まる。

着替え終わったお品に、姫よ、御身も今日からはこの山の里人なるぞ、我らは、伊那へ意思の末裔なるぞ。

ご先祖伊那宗則が、壇ノ浦の戦いで破れこの地に逃げ延びて以来幾百年、外科医のとの交わりも絶ち、世俗を忘れて楽しゅう暮らして来たが、同族相契り合うようになったため、いつしか麓の村から若者を嫁とする習わしになったのだと禅司宗経は言い聞かせる。

それを聞いたお品は、それが人身御供…と理解する。

御身も馴染むことよ…と優しく言い聞かせる禅司宗経に、行く当てなどない私をお許しくださるなら…とお品は恐縮する。

その時、館で宴を楽しんでいた男たちが、御曹司、やんや、やんや!とはやし立てたので、姫、御身も何か芸事があれば見せてくれぬか?と小源太が声を掛けると、私は三味線を弾く事しか…とお品が恥ずかしそうに云うので、所望じゃと小源太は言う。

お品は客たちの前で自前の三味線を弾いてみせるが、その内、さめざめと泣き出した事に小源太や近くにいた者達は気付く。

姫!何故になく?姫はこの小源太が嫌いで泣くのか?と小源太が問いかけると、いいえ…と言うので、ならば何故泣く?と小源太は責める。 その時、待て、小源太!身代わりになった姫にはよほどの事があるようじゃ、語って心癒えるなら委細を話されよと禅司宗経が言う。

(回想)伊奈の東南65里、江戸と言う地では、五代将軍徳川綱吉様がまだ幼い事から、柳沢吉保が政治を取り仕切り、世を挙げての享楽に耽っております…とお品は語り始める。

柳沢はことのほか芸事が好きな事から、全国各地から芸人を下屋敷に呼び集めておりました。 私と私の父十寸見源四郎(明石潮)も、たってのお招きでうかがったのですが、その時持って参りましたのがこの三味線。

この三味線は名器「山彦」と呼ばれおり、家宝でございました。

その山彦を柳沢の細君おさめの方(日高澄子)が欲しがったので、たかが三味線、金を積んでやれと吉保が家来に命じたので、百両、二百両と小判を提示したが源四郎は承知せず、何分名うての変わり者故、千両、万両積んでも承知致しますまいとの報告を受けた吉保は、腹心の市橋妥女(原健策)と藍田橋助(中村時之介)を呼び寄せる。

私たちは身の危険を察知し、闇に隠れて江戸を出ようとしましたが… 市橋と藍田に見つかった十寸見源四郎は、山彦を出せ!と迫られるが、持ってないと知ると、お品に持って逃がしたな!と気付かれ、その場で斬り殺されてしまう。 父は死にました…。

私は人目を忍び中山道を逃げてきました。 しかし相手は、飛ぶ鳥を落とす勢いの柳沢吉保の刺客市橋と藍田…、執拗に後を追って来たのです。

そんな中、伊奈の庄屋の家に白羽の矢が刺さり、村中が大騒ぎになった時、道で行き倒れになっていたのがお品だった。

(回想明け)人身御供の話を聞き、どうせ殺されるなら、いっその事…と思い、人身御供になったのでございますとお品は語り終える。

話を聞いた小源太は、許せん!下郎め!急ぎ、戦いの準備を始めい!と兵士たちに呼びかけるが、たかが2人の刺客を打った所でこの心慰みはせぬ!この地で眠れる志士のごとく身の安全だけを計っているのではなく、朝敵を討つべきです! 朝敵は幕府!柳沢吉保!朝敵は江戸にあり!討ち入るぞ!と小源太は逸る。

父君!と小源太が声を掛けると、早まる出ない、わしは伊奈の主、禅司宗経であるぞ!聞け!我地の里人よ!この姫と我兵士の繁栄を願うのが嫡男小源太の嫁と禅司宗経でござろう!と呼びかけたので、七兵衛は目出たいぞ!と応じる。

宴の後、御曹司は浮かない顔をしておった、私も御曹司の目に憂いを感じたなどと男女が噂しながら帰っていたが、今夜は目出たい、目出たい!御曹司小弦太様!今宵は深い契りを結ばれませ!と七兵衛は大声で叫ぶ。 初夜を迎えた小源太は、お品と2人きりになると、姫、この三味線、天下の名器と申されたが、さもあろう…、この音色は小源太の地をたぎらせたぞと言うと、汚れた江戸の話などして申し訳ありませんでしたとお品は詫びる。

姫、泣くでない、姫、余はその名器を山の果てにあっても、たまさかの里人の慰みものにはせぬぞ!汚れある世を打ち払い、兵士たちが後の世に誇れるようになりたいのだ!見は江戸とやらに行きたい!我が心許さねば、いつまでも我苦悩になるだけだ…と小源太は、布団の上のお品の側に座り言う。

はしたない女とお笑いくださいませ、小川の水を飲ませていただいた優しい殿の笑顔が忘れられませぬ…、品をしっかり抱いて下さいませ…、そして…と言いながらお品は小源太にしなだれかかる。 姫!と小源太が抱くと、品です、お品と御呼びくださいとお品は答える。

翌日、人身御供の輿が残されていた神社に来たのは、市橋と藍田と飯田藩の家臣たちだった。

神社内を見回していた市橋たちは、境内に落ちていた小源太の衣装の一部を発見する。

市橋、藍田両名が持ち帰った衣装飾りを検分した飯田藩領主堀家では、当地の山奥に平家の落人の里があると言う古書の記載がある事を明かす。

昔、成敗しに行った事があったが、味方の半分をなくしたと記してありますと言う配下の話を聞いていた堀鶴之丞(片岡栄二郎)は、父堀美作守(堀正夫)に、この度はそれで良いのでしょうか?農民の娘を犠牲にしたなどと世間に知れたら堀家6万石の浮沈に関わりますと進言する。

誰をやるな?と美作守が聞くと、某自ら参ります!相手は時代遅れの山猿も同じ、何者にござりましょうやと鶴之丞が応えたので、美作守は喜ぶ。 皆のもの!出陣の用意を致せ!と鶴之丞は家臣たちに呼びかける。

その後、平家村では、百数十の武士どもが参ったぞ!と見張りが呼びかけ、七兵衛は、里人よ、今こそ我らが腕を試さん!と雄叫びを上げ、右近太郎も詩を恐れるな!と檄を飛ばす。

鎧兜姿で馬上の人となった小源太も、不逞の輩を討たん!帝より頂きしこの地を守るのだ!と呼びかける。 かくして、堀家の軍勢は、待ち構えていた平家村の兵士に襲撃され、堀鶴之丞ら数名は捕虜として館に連れて行かれる。

虚空蔵山の地に侵入するとは、打ち首に致せ!と小源太が裁くと、当地は堀美作守の領地でござる!と捕虜が申し立てたので、ならば帝の御勅文があろう、寸借の地であればともかく、子孫末代までの地とあれば!こちらには御勅文があるぞ!こうなったら将軍綱吉にあって直々に黒白を付けようと思うと小源太は言い出したので、将軍が聞かざる時は?と堀家の過信が聞くと、なるかならぬかは天次第。将軍への橋渡しを致せ!と小源太は家臣たちに命じる。

戻って来た家臣たちから話を聞いた堀美作守は、馬鹿め、相手は山猿に過ぎぬのに!と逆上するが、断れば若殿のお命に関わります!と言うので、困りきった美作守は御大老柳沢様に頼るか?と言いながら、その場にいた市橋と藍田を見やる。

苦りきった顔の市川たちは、急ぎ使者を立てられい!と指示する。 知らせを聞いた柳沢吉保は、面白いのう、元禄以来の山男を見るのは天、拝謁の義を取りはからってやろう。

美作守、市橋、藍田に出立した後に、その一族の根を断つように知らせよと使者に言い渡す。

その後、平家村では、江戸へ出立する小源太達を見送る禅司宗経が、心して行け、小源太と言葉をかけ、父上もご壮健に…と別れの挨拶をする。

しかしお品だけは、小弦太様!行ってはいけません!無事に帰られる事はありませんとすがりつく。

山彦は御身の命であったの…と小源太が言うと、今の品には貴方様が…とお品は嘆く。 それでも小源太は、身は伊那兵士のために行くのだ、留め立ては許さん、御身の幸せのみを願うのじゃ、さらばじゃとお品に言い聞かす。

小弦太様、いつまでもご無事のお帰りを待っておりますとお品は言う。

柳沢の指示で飯田藩が差し向けた駕篭に乗り、江戸にやって来た小源太、七兵衛、近太郎たちはたちまち町民達の間に芸家の落人達だ!と話題になる。

飯田藩江戸屋敷に到着した小源太たちの方も、江戸と言う町には驚いたな、お品の話を聞いていたがこれほどとは思わなかったと、初めて見た町並みの大きさ、人の多さに仰天していた。

里人たちにも見せてやりたいわと七兵衛も同意する。

江戸城で多数の家臣達とともに待ち受けていた将軍綱吉(小柴幹治)は、吉保、どのような男であろうな?面白いと側に控えていた柳沢吉保に問いかけるが、御勅文を持っていると申しておりましたと吉保は応える。

そこに現れたのが、黄金の束帯に烏帽子姿の小源太とお付きの七兵衛で、綱吉に近づいて来たので、家臣のものがここでと座を指し示すと、無礼者!と小源太は一喝し、さらに綱吉に近づく。

驚いた吉保も、下がれ!下がりおろう!と小源太を諌め、綱吉も狼狽し、待て!下郎!下がれ!と叱るが、小源太は、下がれとは誰に?と聞くので、そちじゃ!と綱吉は応える。

しかし小源太は、黙れ!と一喝すると、身は帝の御勅文を胸に下げている!将軍綱吉!汝こそ速やかに座を下がれ!と言い返したので、吉保は、上様、何とぞ座をお下がりくださいませとひれ伏し、憮然として綱吉は退席する。

すると柳沢吉保は、先ほどよりの無礼、平にお許しください!と小源太に平伏する。

堀家を通じて、既に達しあるはず!と七兵衛も吉保を叱ると、御曹司!と小源太に呼びかける。

上座に立ちはだかった小源太は、居並ぶ家臣達の方を向くと、ならば聞け!

1つ!帝の国土を返上する事!

1つ!綱吉、謹慎蟄居の事!

1つ!虚空蔵山一体は我兵士の領土である事!

1つ!柳沢吉保、罷免、隠居の事!

以上四ヶ条、返答はいかに!柳沢!と小源太が問うと、委細承知つかまつりました!とひれ伏した吉保だったが、ついては念のため、御勅文を改めさせていただきますと申し出る。

その夜、離れに待機していた小弦太達は、柳沢吉保が差し向けた刺客たちに襲撃され、計られた事を悟る。

愚か也、小源太!と刺客たちはあざ笑う。

いざ参らん!と小源太は長刀で応戦するが、多勢に無勢、矢走右近太郎も深瀬大全も討ち死にしてしまう。

最後に斬られた鐘巻七兵衛と小源太は運命を共にしようとするが、再起をお計りください!ここはこの七兵衛が守る!と言い聞かせたので、小源太はその場を離れるが、その直後、その七兵衛も力尽きて倒れたので、許せ!と詫びた小源太は天守閣の中に入るが、追いつめられたので、上に買いに登り、窓から屋根に出て、馬鹿め!との言葉を残し、堀に身を投ずる。

その頃、平家村も襲撃されており、堀鶴之丞が焼き払われる平家村の前で三味線山彦を奪ったと喜んでいた。

翌日、江戸の町には、南町奉行、北町奉行、寺社奉行連名で、伊那の小源太を捕まえし者には金100両、居所を告げた者には金50両の報償を出すとの高札が立つ。

それを見ていた三吉(花房錦一)と辰(大村崑)は、江戸城に乗り込んだ人やろ?大したものだ。たまにはこう云う人も出ないとなどと小源太を褒めていたが、そこに、そう云う事は人前で言うなと注意しに来たのが、貧乏長屋で誰も来ない町道場を営んでいる変わり者島崎無二斎(大川橋蔵-二役)だった。

先生!この人相書き、先生そっくりやと辰が言うので、そうか?と言いながら、色白にして眉目秀麗などと書いてある伊奈の小源太の人相書きを見た島崎は素早くはぎ取って懐へ入れると、俺みたいなバカには到底出来ない事だと苦笑すると、三公来い!と三吉を連れて長屋に戻る。

同じように高札を見ていた浪人が、やりおったか、凄いぜ!と関心していると、側にいた浪人佐々木(汐路章)が一杯やろうぜと言い出したので、おめえ持ち合わせあるのか?と聞くと、ある…と言いながら懐をさすり、ない!と驚く。

その浪人の背後から長屋に戻って来たのは三吉の姉おむら(丘さとみ)だった。

先生、ありゃ、捕まりませんよね?などと三吉が話していた島崎は、帰ってきたおむらに、どうだな?商売はと聞くと、まあまあと言う事なの…と笑顔で応えると、はい先生、お小遣い!と今掏って来た小銭を渡す。

しかし島崎は、痩せても枯れても侍のこの俺が巾着切りから小遣いをもらうのは…などと言い出したので、気取るかよ、用心棒引き受けるって言ったでしょう?とおむらは呆れると、もらっとくぞ、又頼む!と島崎はころっと態度を変える。

その後、島崎は、同じ長屋にいる絵描きの英一蝶(伊藤雄之助)を訪ねる。

珍しく一蝶が絵を描いていたので、珍しいなと島崎がからかうと、英一蝶は絵を書くのが商売だと言うので、それが分かってれば貧乏しねえやと言うと、お前さんだって、こんな貧乏長屋で誰も来ない町道場やっとるじゃないかと一蝶はやり返す。

ところで、こりゃ、俺に似てるかい?と言いながら、島崎が剥がして来た小源太の人相書きを取り出してみせると、誰だこれ?と一蝶が言うので、知らんのか?と島崎は驚き、バカだな、こいつこそ単身江戸城に乗り込んだ小源太だと島崎は教える。

その人相書きをまじまじと見た一蝶は、似てるようでもあり、違うようでもあり…、お前に似てたらどうだと言うんだと言うので、俺で100両になるんだよ、似とらんか?と再度島崎は聞いて来ると、おい、おむらに貢がれて金を持ってるんだ、後で飲みに来いと誘い帰って行く。

一蝶はふすまを開き、奥の部屋にいた小源太に、聞かれたかの?今出て行ったのは島崎無二斎と言う男で、この辺りまで張り込まれていると言う事だ。 あんさんも厳しいらしい。御家来衆の事を思えばじっとしておられんでしょうが、辛抱なさる事ですと一蝶は言い聞かせる。

翌日、小源太の報賞は倍額になっていた。

馴染みの紀の国屋文左衛門(香川良介)に描き上がったばかりの絵を買ってもらった一蝶は、紀の国屋さん、わがままを申し上げて申し訳ないと詫びるが、100両なら安いものです、何か事情があるようですし…と文左衛門は鷹揚に応える。

一蝶は、後ほどとんでもないお願いに参るかもしれません、いずれ又…と言い、部屋を出るが、そこにやって来た娘のお千代(三井京子)に、あんた、十寸見(ますみ)のお品さんと仲良しでしたな?と声を掛けると、あの人の事、何か分かりましたか?とお千代に聞かれたので、いやちょっと…と口ごもって別れる。

辰ら町民達は、何とかして柳沢の鼻を明かしてやりたいな…などと噂し合っていた。 絵を売った金で用意した衣装を小源太に差し出した一蝶は、悪くお取りになっては困るが、あなたの値段が倍になった…、隠れるばかりがあなたの御意思ではないと思いますが…と言うと、この御恩、一生忘却致しませぬと礼を言った小源太に、これも縁だと思います、あの晩、あなたを助けた時から、無性に生きていたいと思うようになりましたと一蝶は苦笑する。

そんな一蝶の家の前に来たのがおむらで、中から聞こえて来る一蝶の言葉に聞き耳を立て、いきなり入り口を開けて入って来る。 直前にふすまを閉めていた一蝶がおむらの無礼を叱ると、断って入るような立派なお屋敷じゃないでしょう?今、誰かと話していたでしょう?と好奇心むき出しで聞いて来る。

一蝶は話題を変えようと、さっき島崎がお前のことを言うとったと言うと、何て?と小村が聞いて来たので、言えん!だがあいつは確かにお前に惚れとるな…と教えると、私も好きなのよ、でも道場に来ちゃいけないと言ってるもの…、酷いわ…、うれしがらせててん、罪なタコ!お邪魔様!と一蝶に悪態をつき、おむらは出て行く。

続いて、長屋内の島崎の道場へやって来たおむらがそっと中を覗いてみると、島崎が1人で酒を飲んでいる所だった。

先生!今日は上がっても良いんでしょう?と声をかけて中に入ると、ならん!と島崎が叱るが、もう上がっちゃったんですよとおむらはとぼける。 男女7歳にして…などと島崎は呟くが、どうやら本心ではなさそうでにやつく。

だって先生があたいに用事があるって、絵描きの先生が言ってたのよとおむらが近づくと、又騙されたなと島崎は苦笑する。

だって先生が私の事好きだって…、ご自分の口で言えないの?とおむらがすねてみせると、デコスケ!と島崎は言い返すので、断られれば断られるほど女が焦れるって事知っているくせに!とおむらはすねながらも、先生、良い男よ…と言いながら島崎に寄り添うと、あたいは嫌いなの?と聞くので、島崎は好きだと応える。

喜んだおむらを前に島崎は、女の事を惚れたと言うのと好きだと言うのはちょっとばかり違う…と言いながら立ち上がると、帰れ!と叱るが、おむらも意地になり、帰らないと言い返し、勝手に島崎が飲んでいた酒を飲み始める。

こらこら!飲んじゃいかん!と島崎は注意するが、飲んじゃった!とおむらはけろりと言い、ねえ先生、悪いこと言わないから、決して損はさせませんから、ズバリあたいに惚れたって言っておくれと頼む。

子供のくせに…、デコスケ!怒るぞ!と島崎が怒った振りをすると、あたい良いよとおむらは言い、殴るぞ!と島崎が手を振り上げると、構わないよ、だけど優しく叩いてね、ちょっと待った先生!一蝶先生だって身投げ女かなにか拾って来て奥の部屋に隠しているのよ、あんな馬みたいな顔して、お前の為なら死んでも良いなんて言ってるの…、バカは先生よ!こんな可愛い女を放っておくから…、唐変木!とおむらは言う。

それを聞いた島崎は真顔になり、おい、お前、俺に嘘を言わないか?と確認すると、言わない!とおむらが言うので、一蝶に女がいるか…と島崎は考え込む。

その頃一蝶は、自分が揃えた着物に着替えた小源太を見て、それなら大丈夫!と太鼓判を押していた。

そこに突然島崎がやって来たので、慌ててふすまを閉め、何をしに来たんだ?と一蝶が迷惑がると、おむらに聞いたぞ、どこの女を飼ってるんだ?良い娘か?俺にも拝ませろと言いながら勝手に上がり込み、ならん!と制止しようとした一蝶を無視して襖を開けた島崎は、目の前にいる自分と瓜二つの小源太の姿を見て固まってしまう。

一蝶は行灯を吹き消す。 身は平家の…と小源太が名乗ろうとすると、おっと!言いなさんなとそれを留めた島剤は、邪魔したなと一蝶に声をかけすぐに出て行く。

さすがは一蝶、見直したぞ!200両分かったかと島崎は言い残して行く。

外で待っていたおむらは泥酔しており、いたでしょう?と言うので、いたよと島崎が答えると、でしょう?どんな子?良い子?とおむらが聞くので、良い奴だったと島崎は答える。

あたいとどっちが良い?とおむらが絡んで来たので、それはあっちの方が…と島崎がからかうと、いやん!とおむらが焦れたので、バカだな、あれは一蝶の好きな奴だ、そっとしといてやろう、誰にも言うな!しばらく一蝶の家にも上がるな!と念を押すと、お前は良い子だと言い、島崎はおむらに肩を貸し、一緒にふらつきながら帰って行く。

夜中、柳安吉保の屋敷では、おさめの方が奪った山彦の三味線を奏でていたが、その屋敷前に頬ぶり姿でやって来たのは小源太だった。

小源太は屋敷に忍び込もうと塀に紐を投げつけ、それを登ろうとしていたが、その時呼び子が鳴り響き、小源太は張っていた役人達に取り囲まれた事を知る。

確かに伊奈の小源太だ!逃がすな!と役人と捕り手たちが取り囲み、逃げ出した小源太の後を追う。

橋の袂まで追って来た目明かしの文七(沢村宗之助)は、血の付いた紙を拾い上げ、小源太が負傷を負っている事を知る。 一蝶の奥の間で、右足の手当をしていた小源太を一蝶が気付き驚く。

三吉が、ねえやん、偉い事になったぜ!そこら中役人だらけだ!とおむらに知らせに来る、 道場に一蝶を連れて来た島崎は、こら、一蝶、こうなってはお前1人であの男は隠しきれんぞ、まだとぼける気か?確かにあの小源太、俺に似ているぞと言うと、似ている…と一蝶も認める。

お前はあの男を生かしたいんだろう?と島崎が聞くと、そうだ、生かしておきたいんだと一蝶が言うので、そして柳沢を切らしたいんだろう?と島崎が聞くと、そうだ…と一蝶は認める。

すると島崎は、お前と知り合えて良かったぜ、こんな長屋に道場主をやってるバカはいねえ、今こそ身で死に場所を見つけたぜ、おい一蝶!死なせてみるか?ええ!と言い出したので、嫌だ!と一蝶は拒否するが、バカめ!とあざ笑う。

役人と文七たちは、まだ見つかりませんと言いながら島崎達の長屋に近づいて来る。

そんな騒動を野次馬に混じって見ていた鳥追い姿の女はお品だった。 戻って来た一蝶に、一蝶殿、もしや御身に迷惑をかけているのでは?と小源太が聞いて来たので、ご存知であろう、あの島崎…と一蝶は答える。

お品は、騒ぎを見に外へ出て来た紀の国屋の娘、お千代にこっそり呼びかける。 鳥追い姿の娘を見たお千代も、まあ、お品さん!と驚く。

その頃、道場では、島崎が一蝶が家から持って来た先ほどまで小源太が着ていた衣装に着替えていた。

その姿を見て頷いた一蝶は、なろう事なら生きていてもらいたいとともに呼びかけると、それには及ばないと島崎が言うので、何か言い残したい事は?と一蝶は聞く。

そうだな…、笑うなよ、俺はあのおむらに惚れてたんだよ、笑うねえ!と照れくさそうに島崎は苦笑する。

外に出た島崎に、待て、小源太殿!右の足に怪我をしているんだと一蝶が教えると、そうか…と言った島崎は自分で右足に小刀で傷をつける。 文七がが長屋改めにやって来て、まずはおむらと三吉の戸を開ける。

さらに奥へ向かった文七は、そこに立っていた小源太に化けた島崎を発見、御用だ!と十手を差し出す。

島崎は長屋から通りへ出ながら、役人達と斬り合うが、それを家から見たおむらは、先生!と驚く。

三吉共々外へ飛び出し、先生!と呼びかけるが、その2人を抱きとめた一蝶が、違う!あれは伊奈の小源太だ!と言い聞かせる。

役人達の取り囲まれながら橋の上までやって来た島崎は、汝ら、後日の語り種として、伊那の小源太の最期を見よ!と叫ぶと、自ら腹を斬り川に飛び込む。

おむらは、一蝶先生、もしや!とおむらは胸騒ぎを感じ聞いて来るが、違う!と一蝶はおむらを留める。

その後、お千代から知らされ紀の国屋にやってきた一蝶はお品と対面する。

教えて上げたら?とお千代に促され、言おう…、伊奈の小源太は生きているんです!と告げると、失礼ながら、あなたは強く生きなければいけないんです。それが島崎さんの願いでしょうと文左衛門 もお品に言い聞かせる。

お品と再会した小源太が、何故江戸へ?と聞くと、平家村は全滅しました。父上も里人も悲惨な最期で…とお品は伝える。

おのれ、柳沢!と小源太は立ち上がるが、待たれい!とそれを止めた一蝶は、今血気に逸った行動に出れば無二斎の死は犬死になると言い聞かす。

柳沢は、この15日祝宴を開き、私も招待されました。裏を返せば寄付の催促ですよと文左衛門が小源太に教える。

その15日、柳沢吉保の屋敷に、阿波踊りの一団が踊りながらやって来る。

その踊る女衆の中に、女に化けた小源太も交じっていた。

阿波踊りの一団はそのまま屋敷内に入って行く。

屋敷内では、赤い髪と赤い覆面をした能役者が舞い始める。

屋敷の外には、一蝶と三基地が一頭の馬を連れて来て待機する。

柳沢吉保が見る前で待っていた能役者は、突如、1つ!帝の国土を返上する事!と言い出したので、それを聞いた吉保は驚く。

舞いはさらに続き、1つ!綱吉、謹慎蟄居の事!と叫びながら、能役者は庭を突き進み吉保に近づく。

1つ!柳沢吉保、罷免、隠居の事!と言いながら赤い覆面を取ると、能役者は小源太だと分かる。

驚いて逃げ出そうとした吉保の胸に、バカめ!と言いながら小源太が投じた刀が深く突き刺さる。

阿波踊りの女に交じっていたおむらが、逃げるんだよ!とみんなに言い、女衆は一斉に屋敷から外へ逃げ出す。

先生、やった!とおむらは叫び、一緒に女衆に混じって外に出て来たお品を一蝶が用意していた馬に乗せる。

その混乱に乗じて外へ出る途中、小源太は向かって来た市橋と藍田を斬り捨てる。

外へ出て来た小源太はお品とともに、一蝶が用意していた馬に股がると、一蝶殿!と呼びかける。

一蝶は、早く行かれい!と答え、頭を下げた小源太はお品と共に走り去って行く。

それを紀の国屋文左衛門も見送る。

おむらは、先生、巧く行きました、先生…、良かったんだ…、先生!と呼びかけ泣き出す。

信州伊奈の山に戻った小源太とお品は、夜明けの山を進んで行くのだった。


 


 

 

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