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警視庁物語 行方不明

東映の往年の人気シリーズの最終作らしい。

いつもと違うのは、主任の名前が戸川部長と、初めて姓が明らかになっており、その主任の登場シーンが増えていること、シリーズの中では犯人役などで登場していた今井健二さんが刑事の1人として参加していることなどが目を惹く。

犯人役の時は一癖も二癖もありそうなキャラだったのに、爽やかな二枚目風の刑事を演じている今井さんと云うのも珍しい。

東映ではお馴染みの加藤嘉さんも出ているし、セリフこそなく登場シーンも一瞬だが重要な役所で中野誠也さんが出ていたりする。

安定感があるシリーズだけにずっと見ていたいドラマだが、このシリーズはTVの刑事物へと影響を与えて行く。

そう云う意味では、刑事ドラマの基本を作ったシリーズと言って良いかもしれない。

劇中の描写で、当時のTVのプロレス人気が高かったことや、ペット美容室などがもう始まったていたことが分かるのも興味深い。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1964年、東映、長谷川公之脚本、小西通雄監督作品。

警視庁1課の部屋では、林刑事(花澤徳衛)がうどんを啜ったり昼食時間だったが、そこに電話がかかって来たので、長田部長刑事(堀雄二)が受話器を取り、戸川主任(神田隆)に、課長からですと受話器を渡す。

捜査第一課長(松本克平)の部屋に出向いた戸川主任は、課長とは同県人で大平皮革の技術部長川原(加藤嘉)と言う人物を紹介される。

川原は、一昨日からうちの技師2人がいなくなり、9時過ぎまで残業していたらしいが、家に帰っていないと言うので、雨が降っとった日ですな?と戸川は思い出す。

いなくなったのは主任技師の松井と副主任格の小山一郎(中野誠也)と言うイタリアに留学していた男だと言う。

2人の調査書を見た戸川は、小山と言う人の本籍は宮崎ですな?と確認し、交通事故などを調べてみましょうと提案するが、課長は既に調べてそれはなかったと言うので、では現住所など調べましょうと答える。

タイトル 川原に連れられ大洋皮革の研究所にやって来た長田部長刑事たちを出迎えたのは村中技師(大村文武)で、研究データは小山の机の引き出しから見つかった、主任の机も調べましたが特に何もなかったと川原に報告する。

その部屋は主任と村中の机が2つしかなかったので、小山さんの席は?と、奥の別室にあると川原が教える。

あの晩、残業が終わった後、僕の部屋で1杯やっていたらしく、握りを取ったいたらしい。

その時、ウィスキーを飲みながら口論していたようですと村中技師が言うので、出前をした寿司屋の場所を聞くと、駅前通りの都寿司ですと村中は答える。

小山の奥の部屋に向かった金子刑事(山本麟一)が写真立てに写っていた風景を目に止め、青島ですかね?と聞くと、ミオ・パエーズと書かれた文字はイタリア語で我が故郷と言う意味らしいですと村中が教える。

渡辺刑事(須藤健)は小山のロッカーを、長田部長刑事は手帳類を調べていたが、その時、長田さんちょっと…と渡辺刑事が呼び、近づいた長田と金子刑事にカーテンに付着したわずかな染みを見せ、血じゃないかと…と言う。

長田は、主任と鑑識を呼ぼうと答える。

一方、林刑事は、小山のアパートを訪ね、小山さん、一昨々日から帰ってないんですね?と大家に確認を取っていた。

すると大家の女将は、ガスの集金があるので…、若い人には2〜3日帰って来ない人もいるんですよと言う。

三田村刑事(今井健二)が、小山さんの田舎は宮崎でしたね?と聞くと、いいえ、手紙の類いは甲府から来てましたよと大家は言う。

大平皮革の守衛(相馬剛三)は、当夜はTVのプロレスに夢中になっており、帰る小山たちを確認していない、裏門はあるが鍵がかけっぱなしなので出られなくなっていると言う。

そんな門を通り戸川主任と鑑識の法医技師(片山滉)を乗せた車がやって来る。

法医技師はカーテンの染みをその場で簡易分析し、まず血痕に間違いないが、人間の者かどうかは持ち帰ってさらに分析を要すると言う。

その時、部屋にあった透明な液体が入ったガラスの容器のふたを北川刑事(南廣)が開けようとすると、村中技師が、気を付けて下さい、この中味は濃硫酸で、ノビの皮から死亡分を取るのですと説明する。

それまで同行していた川村は、会議があると言うので本社へと向かう。

残った村中技師に、松井主任と小山さんの間には何か問題でも?と聞くと、日頃から学歴のことで口論があったことを認める。 小山は旧制大学出なのに対し、松井主任は専門学校卒なので、イタリアの論文なども小山さんは主任に見せようとしなかった。

でも松井主任は気が弱いので、ずっと我慢して来たけど、一昨日の朝…と言いかけた村中は、おこで話を止めてしまう。

何か言いにくいのですか?と聞くと、女の事なんで…と村中は言葉を濁し、松井主任は別居中なんですと重い口をようやく開く。

打ち込んでいた女と小山さんが出来てたって分かって…、あの日雨なのに小山さんが傘も持たずにやってきたので外泊したんだろうって松井主任は分かっていたらしく、スミ子の部屋に行ってたんだろうと言ってました。

「マイアミ」って言うアルサロの女ですよとスミ子のことを教える。

そこに、小山の部屋を調べていた鑑識の法医技師が戻って来て、床からもルミノール反応とベンチジン反応が出ましたと言うので、松井主任が小山さんを!と村中技師は驚く。

松井主任の当日の服装は?と聞くと、綿ギャバのコートにゴム長でしたと村中は答える。

その頃、林刑事と三田村刑事は、松井主任の自宅を訪ね、外泊はなかったんですね?と応対に出て来た母親くめ(岡村文子)に確認していた。

別れた奥さんの所にでも?と三田村が聞くと、とんでもない、あんな人の所へなんか行くはずがありません、始めから気乗りしてなかったんですけど、世話した人を立てて結婚しただけで縁がなかったんですから…とくめは言う。

都寿司では、主人(曽根秀介)が茶を出してくれ、当日出前をしたかっちゃんと言う小僧が帰って来るのを待たされる。

すぐにかっちゃん(伊藤敏孝)が帰って来たので当日の出前のことを聞くと、届けたのは9時5分前、部屋の中から大きな怒鳴り声が聞こえたのでえ入りにくかったがそうもいかず、松井主任が人を嘗めるのもいい加減にしろ!と言ってました。

その後は、TVが見たくて帰ってきちゃった、あそこの工場の守衛は全然だめ、TVばかり見て、首に出来ないのかな?などとかっちゃんは言う。

松井の別居中の妻志津子(木村俊恵)が勤める犬の美容室「ラッキーケンネル」にやって来た林刑事と三田村刑事は、もうすぐ取りに来ると言うキャンちゃんというプードルを世話していた志津子の手の空くのを待つことになる。

料金表に目をやった林刑事は、洗髪800円、トリミング2000円、マニキュア120円などと書かれていたので、わしが行く所は150円だぞと驚く。 三田村刑事も、全部で3100円ですか…と犬の美容代にあっけにとられる。

ようやくプードルの世話がすんだ志津子に、一昨日から松井さんの行方が分からなくなって…と三田村刑事が事情を説明すると、私と会うのは、お義母さんが喜ばなくて…と志津子は言葉を濁す。

小山さんご存じないですか?と聞くと、会ったことはありませんが、あんまり巧く行ってなかったようです。

松井は役に立たない人なので、小山さんが従わなかったのもそのせいかも…、あの人気が小さくて…と松井のことを悪し様に言う。

本部に戻って来た戸川主任は、松井は小山さんに対し、劣等感を持っていたらしいと話していたが、その時、現場の血は人間の物に違いないとの報告が来る。 だが工場内から死体は見つからなかった…、長田君と北側君が回っとるがねと言う。

アルサロ「マイアミ」に裏手に来た金子刑事は、ネズミが走っているのを見て、表は良かったんだけどな…、こう云うのをアジアの二重構造って言うんですよなどと学のある所を見せる。

そこにホステスのスミ子がやって来たので、大平皮革の松井のことを聞くと、一昨日よ、松井さんには懲りたと答えたスミ子だったが、その時、飲み過ぎて気分が悪くなったらしき和服のホステスがやって来たので、ちょっと介抱してやる。

他のホステスが連れて行ったので、懲りたってどう言うこと?と聞くと、しつこいから好きなの小山さんよって言ってやったの、名前借りたの、小山さんには好きな人いるわ、9月の始めにアベックでいる所を見たの、相手は会社の人らしいわ、私は亭主持ちよ、身持ちは固いのよ!と言う。

報告を受けた戸川主任は、松井主任は小山さんを恋敵だと思い込んでいた訳かと納得する。

そこに長田部長刑事と北川刑事が戻って来て、あの日、松井らしい姿を陸橋で見たと言う近くの飲み屋の女がいましてね、1人で傘もささず、レインコートにゴム長姿だったそうですが、顔を隠して渡って行ったと…と報告する。

顔を見られるのを避けているのならタクシー載ったのでは?と長田部長刑事が推測する。

三田村刑事は、旅館関係は手配したと言う。

林刑事は、工場一帯を調べてみたら?と提案すると、明日、裏手の川をさらってみるかと戸川主任は言い出す。 翌日、川浚いは始まる。

三田村刑事が人間の足のような物を引き上げたので林刑事が確認に来るが、マネキンだと分かる。

一方、長田部長刑事と共に工場内を探っていた金子刑事は、昨日から臭いと思ったら、北米やオーストラリアから輸入した牛の皮らしいですよと言う。

本部では、ビーカーに入った濃硫酸とネズミの屍骸を1匹科研からもらって来たと戸川主任が部屋に持ち込んで来ると、ネズミの屍骸を脳硫酸の中に漬けてみる。

その時、電話がかかかってきたので戸川警部が出ると宮崎県警からで、小山さんのお父さんの話では、息子さんは日本化薬に勤めていると言っていると言う報告だった。

早速、本部にいた渡辺刑事と北川刑事が「日本化薬研究所」と言う会社に向かうと、守衛が社員名簿を見て、小山一郎はいました!第三研究室ですと言い、部屋の場所を教えてくれる。

教えられた第三研究室へ行くと、小山一郎(杉義一)ですと本人が出て来る。

この人に見覚えがありませんか?と小山の写真を見せると、小山正太じゃないですか!と一郎は知っているようで、大学で一緒でした、家庭の事情で中退しましてね…奴は何で又…と聞いて来たので、渡辺刑事は、いや…とごまかす。

大平皮革の皮から脂肪を取る工場内を死体を探していた長田部長刑事と金子刑事だったが、これと言った手がかりを得られないまま外に出るが、その時、工場内から出て来た工員が、死体って本当でしょうか?ちょっと気になることが…と話しかけて来る。

本部に戻って来た渡辺、北川両刑事の報告を聞いた戸川主任は、大洋皮革の小山一郎は詐称しとった訳か…と納得する。

濃硫酸に漬けたネズミの屍骸を見た北川刑事は、溶けましたね!と頭部の部分が溶けているのに気付き驚く。

人間なら3〜4日かかるんだそうだ…と主任が教えると。今日から3日目になりますね…と渡辺刑事が失踪事件の時間経過を指摘する。

そこに、吉本タクシーの運転手なる人物が連れて来られる。 失踪事件当夜に乗せた客の場所と時間が合うと言うのだった。

さらに傘も持ってなかったと言う。

何枚のかの写真を取り出してみせた戸川主任が、ここにいますか?と客の顔を聞くと、運転手が指した写真は小山の物だったので、こりゃ逆でしたね…と北川刑事は驚く。

この人を降ろした所まで刑事たちを乗せて行ってくれませんか?会社には僕の方から電話しておきますからと戸川が申し出ると、僕は個人タクシーですからと運転手は笑う。

運転手と刑事2人が出て行くと、そうか…、そうだったのか!と戸川主任は呟く。

吉本タクシーの運転手は、北川、渡辺両刑事をこの横町の方へ行きましたと、小山を降ろした場所まで連れて来て教える。

タクシーを降りて横町の方を見た両刑事は、ガス漏れの検査をしているガス会社の人間の作業を目撃する。

長田部長刑事からの電話を受けた戸川主任は、死体が!良し分かった!鑑識連れて行くと答える。

牛皮から脂肪を取り除く工場内に、戸川と鑑識が到着すると、長田が君原さん、もう1度話して下さいと頼む。

このドラム缶の中を洗浄しようと中の溶液を排出した所、通常は青い液体が出るのに、今回は茶色い液体が出て来たんです。

おかしいと思って蓋を開けて見ると、松井主任のビニールの名刺入れが浮かんでいたので…と言う。

そこに、話を聞いた川原技術部長と村中技師も駆けつけたので、ドラム缶の中の溶液を全部排出してもらう。

その後、空になった缶の中を覗き込むと、人間の白骨が残っていた。

村中に確認させると、腕の側に落ちていた腕時計が松井主任のものだと言う。

ホシは小山技師と言うことだな…と長田部長刑事も理解する。

その頃、渡辺刑事と北川刑事は、小山が付き合っていたと言う西田美代と言う女性のアパートを訪ねていた。

管理人に部屋を教わりノックしても反応がないので、隣の女が出て来て、一昨々日までいたけど、もういないと教えて来る。

この人ですよね?と写真を見せると、この人、西田美代、BGよと隣の女は言う。

勤め先は?と聞くと、大平皮革…と言うので、それは!と渡辺たちは驚きながらも、男が訪ねて来てませんでしたか?と聞くと、いつも来てるのは部長さんですってと管理人と隣の女は頷きあう。

その頃、小山の大学中退のことは半年前に知り、松井主任にお話ししました…、あの日の朝ですと村中技師は証言していた。

その時、戸川主任に渡辺刑事からの電話がかかって来る。

何故そんな時にわざわざ話したんですか?と長田部長刑事が聞くと、小山さん、専務の妹さんの花婿候補になっていたから、旧制大学卒と言うのは嘘だと言った方が良いと思って…と村中は答える。

一方、川原の部屋に来ていた戸川主任は、西田美代さんと言う方がいますな?と聞くと今日は休んでおりますと川原は答える。

世話しておられますな?部長さん…、小山は西田さんのアパートに身を隠し取ったと言うことなんですよ、川原さん、2人はどっかで落ち合って高飛びするのでは?心当たりは?と問いつめると、川原はありませんと言う。

私は小山に脅され、イタリア留学の運動までさせられましたからね…、村中技師を押していた営業部長と張り合ったりしたんですよ…と、苦々しそうに川原は告白する。

その時、部屋に入って来た女性社員を見た川原は、西田君ですと戸川に教え、自分は退室する。

戸川主任は西田美美代に、小山さんの居所をご存知ですか?犯行当日からあなたのアパートにいることまで調べています、小山さんはどこなんです?と聞く。

すると美代は、浅草の「ベル」と言う喫茶店…、私、どうしたら良いのか…、あの人、どっかへ行って死ぬかもしれないんですと言って泣き出す。

だから、私が行くまで「ベル」で待っているように頼んでここへ…、あの人、お金少ししか持ってないので、私の給料前借りしようと思って…と美代は打ち明ける。

でも1人でどっかに行っちゃうかも…、深い関係ではありませんでしたし、部長さんの事もありましたから…、専務さんの妹さんとの話も迫ってましたし…と、美代は浅草へ向かう車中でも小山のことを話していた。

横で聞いていた三田村刑事は、あなたのことを思っていますよと慰める。

同じ車に乗っていた戸川主任は、当日ずぶ濡れで来たんですね?と聞くと、夜中にうなされたりして…と美代は言う。

小山技師は理由は言いましたか?と聞くと、残業が終わって一緒に飲み出したら、お前は中途退学じゃないか!バラしてやる!と言われ、カッとなって取っ組み合っているうちに首を絞めていた…と、それで床の血を拭いててんと美代が説明するので、小山さんも怪我したんですか?と聞くと、喧嘩しているうちに2人ともガラスの破片で怪我したそうです、そして硫酸を使う決心をしたそうですと美代は明かす。

浅草に着くと、あそこで停めて!と美代が場所を言い、喫茶店「ベル」に入るが小山はいなかった。

ベルト付きのコートを着て、年は32、背がすらっとした…と付いて来た戸川がウェイトレスに聞くと、今しがた出て行きましたと言う。

外に出た戸川は、ネズミ色のコートだ!と教え、私はここにいると伝え、二手に別れておってくれと刑事たちに指示を出す。

懸命に浅草の人ごみを探しまわる刑事たち。

やがて、とあるビルのエレベーターに乗ったと聞いた刑事たちが屋上へ向かうと、そこにネズミ色のコートを来た小山らしき男がビルの端に立っており、駆け寄ろうとした時、小山は地上に身を投げる。

地面に叩き付けられた小山の死体に野次馬が群がる。 それをかき分け、死体に近づいた戸川主任は、小山が握りしめていた遺書を広げてみる。

そこには、学歴を偽った時から始まった…と、人生の歯車が狂った事情が書かれてあった。

顔にハンカチをかぶせた戸川主任だったが、ショックを受けた美代は、側に止まっていた車のボンネットに寄りかかり泣き崩れる。

やがて、小山の死体は救急車で運ばれて行く。

道を埋め尽くすほどの野次馬の中、それを見送る刑事たち。


 


 

 

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