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初恋三人息子

一応、柳家金語楼さん主演だが、「キングコング対ゴジラ」(1962)の高島忠夫、藤木悠コンビが仲良し兄弟役で登場するラブコメ。

この作品での高島忠夫さんのキャストロールには(新東宝)と入っている。

男所帯を描いたコメディ仕立ての映画とは言え、今の感覚で見ると、随分女性蔑視のセリフが出て来る。

女性の登場人物にも、女って結婚することが幸せなのよなどと言わせているので、まだまだそう言う封建的な考え方が無意識に残っていた時代だったと言うことだと思う。

一方、冒頭から三人息子を町内中がうらやましがると言うのも、戦後、若い男性が少なかったことの象徴ではないかとも考える。

技術部の係長になっているはずの長男や保険の外交員をやっている次男が、いつも夕飯前に帰宅している所なども、今の感覚で見ると信じられない。

当時は残業と言うものがまだ一般的ではなかったのだろうか? 下谷と言う設定なので、勤めている会社が近いと言うことなのか? 三木のり平さんなどもちらり出ているのだが、笑わせる演出は全くない。

堺左千夫さんのオネエ演技と言うのも見物。

ヒロインは司葉子さんだと思うし、久慈あさみ、藤間紫と言ったベテランも出ているので、ややポジション的には地味な役柄なのだが、この作品に出ている北川町子さんは清楚なイメージで本当にきれいなので驚かされた。

北川さんと云うと何となく派手なイメージがあったが、水野久美さんなどと同じでそれは役の上のイメージで、こう云う清楚な役を演じると、司葉子さんとはまた違ったタイプの妖艶かつ慎ましやかな美女であることが分かる。

いかにも低予算の添え物映画風の下町人情話で、これと言った見せ場があるではないが、退屈する訳でもなく、それなりに楽しめる穏やかな作品になっている。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1955年、東宝、井上梅次脚本、青柳信雄監督作品。

扇をバックにタイトル

高島忠夫さん歌うマンボの歌が流れる中、キャスト、スタッフロール。

銀座 スクーターで小岩に帰って来た老舗酒屋「山万」の主人山村万太郎(柳家金語楼)は、スクーターの調子が悪くなったので、押して馴染みの自転車屋(沢村宗之助)までやって来る。

機械は調子悪くなるととたんに重くなるねなどとぼやきながらスクーターを持って来た万太郎に、またどこか悪いのか?と聞いた自転車屋は、それにしてもお宅の息子さんたちは立派だね、青年会動員して、天神様に奉納する大提灯の寄付集めているよなどと褒めるので、そんな事ないよと謙遜する。

銭湯の前にやって来ると、ちょうど風呂上がりの御隠居(小堀誠)に出会い、あんな立派な3人の息子さんがいるなんて、旦那は幸せだね、女が騒いでいるよなどと言われた万太郎は、そんな事ないよ…と自分のことだと思って照れると、女は目が早いから放ってはおかないよ、3人も良い息子がいるなんてうらやましいよ、夕食の膳の前に3人並べて肴にし、酒が飲めて幸せだななどとベタ褒めしてくるので、万太郎はうんざりする。

薬屋に来た万太郎は、良い薬ないか?腹が立つんだなどと訴えるので、腹が立つのに効く薬なんかないよ、世間じゃ言っているよ、山満さんは幸せ者だって…などと薬屋の主人の源さん(三木のり平)も褒めるので、万太郎はますますげんなりする。

山万酒店に帰ってきた万太郎は、菊!胸がすーっとする薬はないか?と言いながら、薬袋を探し始め、赤ん坊用の宇津救命丸を飲むことにする。

夜、旦那さん、ご用意できましたとお菊 (北川町子)から声をかけられた万太郎は御灯明が点いた亡き妻の仏壇に手を合わせると、8時から浪花節か…と言いながらラジオを点け、晩酌を始める。

その時、黙って帰ってきた長男一郎(伊豆肇)が、何も言わず二階へ上がろうとするので、ただいまくらい言ったらどうだ!と叱ると、小さな声でただいまと言い、一郎は上がって行く。

一郎、ご飯だよ!聞こえないのか!と二階へ呼びかけると、聞こえてるよと小さな声が聞こえて来たので、聞こえているなら降りて来なさい!と叱った万太郎は、着物に着替え降りて来てむっつり黙り込んだまま食事を始めた一郎に、灘の生一本がまずくなる!男ならもっと愛想良くせんと出世しないぞ!と言い聞かせる。

そこに次男の二郎(高島忠夫)が帰ってきて、今日はカツレツか!菊!カツ飼うなら、角の天ぷら屋の方が良いぞ!肉が厚い!と呼びかけながら、ラジオを勝手にジャズのコンボに切り替える。

兄貴、寄付集まったよ!と次郎が自慢げに報告し始めたので、人間口を慎まないと…と言いかけた万太郎は、一郎にさっき言ったことと真反対だと気づき、語尾を濁すと、父さん、保険に入ってよなどと次郎が言うので、もう3口も入っているよと呆れ、ラジオを又浪曲に切り替えると、このコンボは世界一なんだよなどと言いながら、また次郎がジャズに変えたので、万太郎はむっとしてラジオのスイッチを切ってしまう。

そこに大学で演説部に入っている三男の三郎(藤木悠)が帰ってきて、今日評判が良かったと言う演説を披露し始めたので、飯は食わないのか?と言うと、もう食べて来たと言う。

そして、原爆と水爆のこの時代、主義主張はもう意味はない!などと演説の続きをやり出したので、万太郎が、わしはお前たちが共産主義にならなくて良かったよと漏らすと、今はそんな時代じゃない!とさらに三郎は演説を続け、これから本論だが…などと言い出したので、飯を食っていた次郎が呆れてからかうと、2年くらい先に生まれたくらいでいい気になるな!などと言い返して来る。

そうした兄弟喧嘩を見ていた万太郎が酒がまずい!と苦情を言うと、家の中に色気がないからだよ、兄さん、どっかからか良い子拾って来いよと三郎が二郎に言うと、色気がないのは父さんのせいだよ、後妻をもらえば良いじゃないかと二郎は万太郎に言い聞かせる。

その時、菊が、きよ子(飯田蝶子)伯母さんが来ましたと食卓に知らせる。

みんなに話があると切り出したきよ子は、お菊だってもう年頃だし、そろそろお嫁に行かせないと…、でもそうなるとこの家に女手がいなくなる。

私が来れれば良いんだけど、駅の売店を手放すのもねぇ〜などとひとしきりしゃべると、万太郎に見合い写真を見せる。

八尾百の女将さんと言うが、写真を見ると20貫はありそうな割腹の良さで、覗き込んだ二郎も三郎も笑い出す。

20貫もないよ、せいぜい19貫200くらいだよなどときよ子は訂正するが、万太郎は、こっちが押しつぶされちゃうよ…とげんなりする。

一郎、二郎と三郎にもそれぞれ、千葉の農家の娘、棟梁の娘、織物屋の末っ子と言う相手の見合い写真が渡されるが、互いの写真を見合って、まるで落したタコだねなどと笑い合う。

きよ子は、これでも考えて選んだんだよ、八百屋、農家、棟梁、織物屋と来れば、衣食住揃うじゃないか、これで戦争が起こっても困らないなどと笑われたことに不服そうに言い返す。

一郎さん、どう?長男だからもらう責任と義務があるわなどときよ子は迫るが、二郎と三郎は、青年会で寄付集めしないと…と言いながら家を出て行き、万太郎も組合の会合があるんだと言い出かけ、気がつくと一郎もいつの間にか外出していたので、みんないなくなっちゃった…ときよ子は嘆くが、お菊!ちょっと来て!あんたにも話があるんだから…と言い出す。

小料理屋「助六」 万太郎は馴染みの店に逃げ込んでいたが、女将の町子(藤間紫)も、3人息子のことを褒めるので、俺の前で息子のことを言わないでくれ!と万太郎はむくれる。

揃いも揃って店の商売を嫌う!死んだ女房が恨めしい、出来の悪い息子ばかり作って…と愚痴る万太郎に、良いもの見せてやろうか?と言いながら、町子が差し出したのは一枚の写真だった。

そこには町子ともう1人の妙齢の美女のツーショットだった。

まだ先方には何も話してないけれど、昔の友達なのと町子が明かすと、急に万太郎はデレデレした顔になり、まるで月とスッポンだと言うので、誰と誰が?と町子が不思議がると、19貫20と比べたら月とスッポンって訳さと万太郎は1人にやつく。

その頃、酒店では、菊ちゃん、どうだった?この前の写真…ときよ子が菊ので、別に…、だってまだ私、お嫁なんか…とお菊が答えると、ここの連中はみんな柄の悪い子供みたいだからね…とぼやいたきよ子は、もう9時だよ、みんなどこ行ったんだろうね?とぼやく。

スナック「青い鳥」に来ていた二郎と三郎は、ホステスのテコちゃん(木匠マユリ)相手に、先ほど見せられた見合い写真をネタにして大笑いしていた。

すると二郎が、テコちゃん、きれいな手をしてるね、手相見てやろうか?などと良い、テコちゃんの左手を握ったので、三郎は不愉快そうに、兄貴、止せよと止めようとする。

それでも二郎は構わず、恋愛線があるね、相手は利口じゃないな、生命線は長くも短くもないから青春を楽しむんだねなどと適当なことを言う。 無視された三郎は、全部デタラメだよ、兄貴の奴、小学生まで寝小便してたくせに!と言ううち、お前は中学までやってたじゃないか!と二郎も言い返す。

そこに、なよなよした糸源の若旦那誠一(堺左千夫)が乾物屋の金一(渋谷英男)とやって来て、うちもお提灯寄付することにしたのと言って来たので、ふて腐れた二郎は帰り、三郎もその後に付いて店を出るが、わざと若旦那の足を踏んで行く。

一方、池之端の公園に来ていた一郎は、女性の悲鳴に気付き近づくと、3人の暴漢に襲われている浴衣姿の若い娘を見つけたので、走って行って暴漢をおいはってやる。

助けられた花村すみ江(司葉子)は、ありがとうございました、どちら様ですか?このお近くの方で?と聞いて来るが、口下手な一郎は、はい…、失礼します…とそのまま帰ろうとするので、お所とお名前を!とすみ江は聞くが、一郎は何も答えずそのまま帰ってしまう。

自宅に戻って来た万太郎が、「助六」からもらって来た写真の隠し場所を探していると、お菊がどうなさったんですか?と声をかけて来たので、風邪気味なんで薬を探しているんだとごまかし、薬袋なら後ろにありますよと言われたので、仕方なく棚の上の薬袋を降ろして、中を確認する振りをしながら写真をその中に隠す。

二階にいた三郎は、ぼーっとした表情で一郎が戻って来たので、どうしたの?大きい兄さん…と声を掛けるが、一郎はそのまま寝床に横になる毛布をかぶってしまう。

それを見た二郎が、いよいよ来たかな?と呟くと、日本脳炎かな?と三郎も首を傾げ、親父も見てくるよと言うと下に降りてみる。

すると万太郎は鏡台の前で、ない髪を撫で付け、にやつきながら、デン助!明日の天気はどうだい?と小僧の小僧デン助(井上大助)に声をかける。 外に出たデン助は空を見上げ、雨が降りそうですねと予想する。

しかし翌日は晴天だった。

外で集まった青年会では、俺たちの鼻を明かそうとして隣町でも金を集めているらしいぜと噂し合っていた。

あちらには糸源と言う大問屋がいるからねと平さん(広瀬正一)が言うので、平さんの受け持ちの地区、集まりが悪いねと二郎が聞くと、花柳流とかの踊りの師匠が越して来たんで、青年会の集金で行ったら、変なおたふくみたいなのが出て来て、玄関払い!と言うので、かちんと来た二郎と三郎がその家にもう一度行ってみると言い出す。

その家に入って声を掛けると、妙齢の美人が出て来たので、おたふくみたいなのと言う話とは違うので、こちらのご主人は?と二郎が聞くと、私ですとその美人花村節子(久慈あさみ)は答える。

不思議に思って、お嬢さんは?と聞くと、妹ですか?と節子は戸惑い、今稽古中ですと言うので、青年会のものですがと言うと、お上がりくださいと勧められたので、上がるほどでも…と遠慮するが、どうぞ、どうぞ!と勧められ、仕方なく座敷に上がり込むことになる。

途中、弟子に踊りを教えていたすみ江をかいま見た二郎と三郎はにやけてしまう。

座敷に座った二郎は、なかなか結構な御普請で…と褒めていると、すみ江さん!お稽古がすんだらちょっといらっしゃい!と節子は稽古場に声をかける。

その時、茶を運んで来た女中の顔を見た二郎と三郎は、平さんが言っていたおたふくの正体に気付く。

すみ江が来ると、青年会の幹事さんが御用事があるんですってと節子が説明したので、二郎と三郎は戸惑ってしまう。

何かしら?とすみ江が聞くと、実は…、弟子入りを希望したいんですと二郎が言い出したので、三郎も頭を下げる。

「助六」の店の前にいた町子は、万太郎が早々にやって来たので、随分早いじゃない?例の話でしょう?と笑う。

夕べ一晩中考えたんだけど…、私には過ぎた人だねと万太郎がにやつくので、明日行きましょうか、善は急げって言うでしょう?踊りを習うことにしてそっと催促なさったら…と町子は勧める。

節子の事でぼーっとなった万太郎と、すみ江と会って帰ってきた二郎、三郎は、互いに家に同時に帰って来るが、並んで一緒に歩いていたことに気付かないほど夢見心地だった。

二階に上がって来た弟2人の様子を見た一郎は、どうしたんだ?とうとう来たのか?と驚くが、下に降りて行って見ると、万太郎までにやついているので唖然とする。

万太郎は又、デン助!明日の天気はどうだい?と聞くので、デン助はまた外に出て夜空を見上げ、きっと良い天気ですと、お星様がたくさん見えますからと答える。

しかし、翌日は土砂降りの雨で、万太郎は、見合いに雨降りなんて縁起でもない!と不機嫌だったが、雨降って地固まるって言うじゃないと町子は慰め、互いに傘をさして節子の家に向かう。

節子の家にやって来た町子は、新入り、1人引っ張ってきましたよ、表通りの山万のご主人と万太郎を紹介する。

座敷に上がった町子は、隣に座った万太郎を、こちらは酒も煙草もやらない方でして…と節子に言うので、煙草を出して吸いかけた万太郎は嫌な顔になる。

最近は男性にも踊りが人気のようで、昨日も青年の方が見えて弟子入りしたいなどと…と町子が明かすと、最近の若いのは変な下心が会ったりしますからね〜…と万太郎は自分のことは差し置いて嫌みを言う。

町子はさらに、山万さんはまだ何も分からない初心者なので、すみ江さんには無理だと思うの、最初の内はあなたと踊りを見るだけってのはどう?など言う。

そこに、二郎がやって来たので、部屋から玄関を覗き見た万太郎は、二郎だよ、困るんだと困惑し、トイレの方へ逃げる。

そこに二郎を連れ部屋に戻って来た節子は、万太郎がいないので、どうなすって?と聞くと、ご不浄…と町子は答える。

町子を紹介しようとした節子は、二郎が、家は酒屋ですから、助六さんはお得意なんですと言うので、じゃあ!と節子は万太郎のことを言いかけるが、それを町子が目で睨みつけ制止する。

そこへ今度は、学生服姿の三郎がやって来て、二郎が来ているのに気付くと、会社さぼったのかい?と聞き、二郎も、学校は?と聞き返す。

そこへ、稽古が終わった糸源の若旦那誠一が、おつかれさまでした…と稽古場から顔を出したので、よお!と二郎は声をかける。

その頃、万太郎は、傘で顔を隠し、こそこそ帰って行っていた。

「青い鳥」にやって来た誠一は、テコちゃん、気をつけないといけないよ、サブちゃん、鼻の下伸ばしてるよ、今頃、踊りの師匠の所で夢中なんだよなどと告げ口したので、怒ったテコちゃんは店を飛び出して行く。

稽古を終えた二郎と三郎が花村の家を出ると、雨が止んでいたので、止んだななどと話あっていたが、そこにテコちゃんが立っていて、絶好よ!と三郎を睨みつけて帰って行ったので、慌てて三郎は追いかけて行く。

帰宅して飯を食い始めた二郎に、先に戻っていた万太郎は、お前、今までどこに行ってたんだ?と聞く。

会社さ、保険の外交に外に出て2軒ばかり回ったんだと二郎が答えると、嘘をつけ!と万太郎が叱ったので、僕は生まれてこの方嘘をついたことなんかないよと二郎が反論すると、それが嘘なんだ!と万太郎は睨みつける。

何か見たのかい?と逆に聞かれた万太郎も、花村の家にいたとは言えないので言葉を濁すと、じゃあ、嘘だって証拠ないじゃないか!と二郎は言い返して来る。

そこに雨で風邪を引いたのか、くしゃみをしながら三郎が帰ってきたので、テコちゃんどうした?と二郎は聞く。

そんな三郎にも、どこ行ってたんだ!と万太郎が聞くと、学校からまっすぐ帰って来たよと三郎も嘘をつくので、現にこの目で!と万太郎が言いかけると、その目がどうしたの?と二郎が突っ込んで来る。

万太郎が席を外すと、二郎は、サブ、親父知ってるんじゃ?と話しかけ、助六の女将さんも来てたからな…と三郎も頷く。

三郎は、お菊、薬袋は?と聞き、棚の上の薬袋を降ろして中を開けて見たとき、一枚の写真を見つける。

それは万太郎が隠していたもので、助六の女将とあの人だ!と二郎と確認する。

助六では、まさか身内から邪魔が入るとは思わなかったよと万太郎が愚痴ると、それより、どう?節子さんと町子が聞くと、急に万太郎はデレデレした顔になったので、ねえあんた、うれしい時ほど顔の筋肉を引き締めないと…と町子が注意すると、落ち着かないんだよと万太郎が言うので、明日にも話を持ち出してみましょうと町子は答える。

その頃、一郎は、また池之端の公園に来て、女性のブロンズ像相手に、また会いましたね…などと話しかけていたが、銅像相手じゃ意味ないか…と自嘲すると、そのブロンズ像の陰のベンチに座っていたすみ江が、お会いできましたわと面白そうに答える。

立ち上がったすみ江は、先日は失礼しました、ひょっとしてここでお会いできるんじゃないかと思って…と恥じらいながら挨拶すると、ありがとうございましたなどと一郎が礼を言うので、お礼を言うのはこちらですわとすみ江は笑い出す。

星がきれいですわねなどと空を見上げてすみ江が語りかけたとき、彼女が落したハンカチを一郎はそっと拾い上げ着物の懐に黙ってしまい込む。

酒屋にハンカチを握りしめ帰ってきた一郎に、これさ、親父が再婚する相手らいいんだ?と写真に写った節子のことを二郎と三郎が話しかけると、ハンカチの匂いを嗅いでぼーっとしていた一郎は、ようやく話の内容に気付いたように、何だって!と驚く。

写真を見た一郎は、へえ、良いのが回って来たんじゃ?僕は良いと思うよと言うので、僕は不満だよ、僕たちに秘密にしてたんだからと二郎は膨れる。 そこに万太郎が帰って来る。

お父さん、ちょっとお話ししたいことが…と切り出した二郎は、あの写真の人は誰ですか?と仏壇に飾ってある母親の写真を指す。

お前のおふくろじゃないかと呆れたように万太郎が答えると、お父さんにとっては?と二郎が言うので、わしの女房だよと万太郎はむくれながら答える。

では、この写真はいかなる女性ですか?と町子と節子が移った写真を撮り出した二郎は、花嫁候補じゃないかと思うんだけど、僕たち兄弟で対策会議をしたんだと言う。

バレたと気付いた万太郎は、助六の女将から持ちかけられたんだよと答えると、お父さん、今いくつですか?2ですか?50と…でしょう?と三郎が口を挟む。

70で恋愛する人もいるんだからと万太郎が反論すると、一郎が、二郎と三郎は、相談してくれないって言うのが不満らしいんですと口添えをする。

すると万太郎は、もう知ってるじゃないか!お前たちは…、踊りの家の姉さんだよと答えると、じゃあ父さん、さては見合いしたって訳か…?と二郎が聞くと、お父さんが弟子入りを?と一郎は初耳なので驚く。

わしはお前たちの生みの親だぞ!と万太郎が怒ると、お父さんのおなかから生まれたの?と三郎が茶化す。

事前に相談してくれないと…、この話進んでいるんじゃない?と二郎が攻めるので、どうしろと…と万太郎は戸惑う。

好きなんでしょう?兄弟会議で話し合った結論は、問題がデリケートなので、この際一応お断りした方が…と言うのが兄弟一致の意見なんです…と二郎は言い聞かせる。 それを聞いた万太郎は、お前たちがこんなに親不孝とは思わなかった!と嘆く。

そんな万太郎の姿を面白そうに見ていた二郎は、一応原則的には反対なんですけど、この際賛成しようと言うことにしたんだと明かすと、その代わり、我々の自由恋愛結婚を許してくれるでしょう?と交換条件を切り出す。

それを聞いた万太郎が急に元気をなくしたので、脳溢血にでもなったら大変だ、休んで!と万太郎を寝室に追い払う。

二階に上がって来た二郎と三郎は、機嫌直って来たな?と互いに話し合っていたが、一郎だけはすみ江のハンカチを密かに匂ってうっとりしていたので、二郎と三郎は訳が分からず首を傾げる。

その後、稽古を終えたすみ江と雑談していた二郎は、きれいな手をしてますね、手相見て上げましょうか?などといつもの手を使い、素晴らしい恋愛線だ!生命線は長くもなく短くもなく、これぞと思う相手が現れたら勇敢に相手の胸に飛び込むことです、ためらいは禁物ですと言うので、横で聞いていた三郎は、全部デタラメですよとバカにすると、フェアに行こうぜと二郎は睨む。

酒屋にやって来たきよ子は、お蝶を呼ぶと、この15日、お見合いしようと思うの、良い男だよ、この頃映画で人気のあの人に似てるんだよ…、あの渋い…、グレゴリー・パンチか?と一方的に話し、すぐに帰ってしまう。

そこに珍しく一郎が早く帰って来て、気分が悪くて早退して来たんだと言うので、菊は心配して、すぐにお床を取りましょうと二階へ向かう。

お熱は?と菊が聞くと、ない…、何だかぼーっとしちゃって、2〜3日寝られなかったからと一郎は言うので、菊は布団を敷こうとするが、良いんだよ、用があったら呼ぶから…と一郎は答える。

下でお菊が泣いている所へ三郎が帰ってきて、あれ?兄貴帰ってるの?と驚き、一緒に帰ってきた二郎も、どうしたんだ、お菊?と声をかけて来たので、涙を拭いたお菊は、ちょっと考え事をしてたんですとごまかす。

三郎が二階へ上がると、1人残った二郎はお菊に、ねえ、僕たち3人兄弟の内、誰好き?兄貴かい?と聞く。

すると菊は、一郎さんはしっかりしてますから…と言うので、その柚木は?と菊と、嫌ですよ、そんなこと…と恥ずかしがりながらも、三郎さんは理想が高いですよと言うので、僕はどん尻か…と二郎はがっかりする。

菊は、お茶でも煎れましょうか?と気分を変えようとする。

二階で一郎の体調を聞いた三郎は、高血圧や心臓弁膜症でないとしたら恋煩いだなと推理する。

下では菊が、さっききよ子伯母さんが来て、私のお見合いのこと決めてしまったんですと明かすと、お菊がお嫁にね〜…、行くつもりかい?でも、お菊は良いお嫁さんになるよと二郎は太鼓判を押す。

それを聞いたお菊は、お坊ちゃんも行った方が良いと思うんですか?と聞き返し、私行きたくないんです、この家を離れたくないんですと泣き出す。

そこに、二階から三郎が、兄貴!大きい兄貴が来いをしたんだってさ、来てくれよと呼び、二階に上がって一郎の様子を見た二郎は、三郎と一緒に笑いながら、相手は?と聞く。

三郎は、それが面白いんだぜ、兄貴は相手の女性を襲っていた暴漢をやっつけ、その後又再会したのでした!だけど彼の胸はどきどき!何も言えない!その後、どっと恋の病にひれ伏してしまったのでした!と面白おかしく演説する。

女なんて歴史的に見て男より劣ってるんだよ、お月様も祝福してるんだとか何とか巧いこと言うんだよと二郎は口説き文句を伝授し始める。

それを暗記した一郎は、その夜も池之端の公園に出向き、そこで会ったすみ江を相手に、夏の夜はなんて素晴らしいんでしょう?と二郎直伝の文句を言うと、今夜は風がなくて嫌な感じですよとすみ江は答える。

お月様が…と言いかけると、雲に隠れていますよと言われるし、おや?きれいな手ですね、手相見ましょうか?と二郎お得意の文句を言うと、あら?蛭間、同じことを言われましたわとすみ江は驚き、一郎が二郎から教えられた通り繰り返すと、すっかり同じ!とすみ江は笑う。

誰に聞かれました?と一郎が聞くと、山万の二郎さんに言われましたわと答えたすみ江は、山村すみ江と申しますと改めて名乗る。

僕、山村一郎ですと名乗った一郎は、何だ、今頃名乗り合いましたねと照れる。

すみ江も、手相は二郎さん仕込みなのねと気づき、互いに笑い合う。 家に帰って来た一郎は、何とかしないと、お菊、お嫁に行くぞと二郎が言い、三郎が、すみ江さんを俺に譲ってお菊と結婚したら?と三郎が2階で言い合っている間に満足げに座る。

兄貴、どうだった?と二郎が聞くと、昼間同じ事を言った奴がいたそうだ…と一郎が教えると、誰だい、俺の文句を盗んだ奴は?と二郎が聞いて来たので、差し障りがあると言うだけで一郎は答えなかった。

映画でも誘ったら?邪魔者は殺せ!さ!と二郎が勧めるので、本当に良いのか?と一郎は念を押し、じゃあ遠慮なくそうするよと言い薄ら笑いを浮かべる。

翌日、スーツ姿で花村家を訪ね、出迎えた節子、すみ江姉妹に、来て悪かったでしょうか?実は映画にでも…と思いと切り出すと、すみ江はうれしそうに喜んでお供させていただけますわと答え、姉には、こちら二郎さんたちのお兄さんで、先日暴漢から助けてもらったと打ち明ける。

すると節子も、妹がお世話になったそうでと礼を言うので、家の親父も良い年して…、どうもすみませんと一郎も頭を下げる。

映画?良いわね〜…何の映画?と節子が聞くと、良い映画やってるって言われたんです…と一郎はもそもそし始めたので、誘って下さったんじゃないの?とすみ江は呆れる。

そこに糸源の若旦那誠一がやって来て、映画に一緒に行きませんか?と同じように誘って来たので、今一郎さんから誘われたんですよすみ江が答えると、じゃあ一緒に行きましょう?僕プリンスの新車買ったのなどと誠一が言い出したので、バツが悪くなった一郎は、いや…、僕は無理にお誘いしたのじゃないので…などと言い出し帰ろうとするので、すみ江は、私、行きます!今着替えてきますから…と言うと奥へ向かう。

洋服に着替えたすみ江は、誠一の新車に乗り込んで出かけて行く。

それを目撃した二郎は、そう云うことになっているのねと気づき、別の路地から出かけた所で若旦那の車に危うく轢かれそうになった三郎も、運転していたのが糸源の若旦那誠一と気づく。

小料理屋「助六」にやって来た万太郎が、話してくれたかい?と聞くと、町子はすまなそうに、あれ、ダメだったのよ、再婚なんて夢にも考えていませんって言われたのと打ち明け、1杯奢るわ、大体そんな年でモテようなんて思うから…、失恋って年もないでしょう!などと言う。

酒屋の二階では、帰ってきた二郎と三郎が、糸源の物量作戦には敵わなかったか…と、すみ江を奪われたことを残念がっていた。

そこに一郎も帰って来たので、どうだった?と聞くと、邪魔が入って来たんだ、物量には敵わん!プリンスの新車!などと言うので、それじゃあ、兄貴の相手の人ってすみ江さんかい?それじゃペテンだよ!と二郎が文句を言って来たので、だから本当に良いのかって確認したじゃないか?ああ、俺は糸源の誠一にしてやられた…と嘆く。

良し!3人力を合わせてすみ江さんを取り戻そう!と二郎が言い出すが、でもアンパンみたいにすみ江さんを3つに分けられないじゃないかと三郎は指摘する。

すると一郎は、俺は本当に惚れていたんだ!と深刻な顔で訴えたので、御大きい兄貴に譲ってやろうじゃないかと三郎が二郎に提案すると、おい、行こう!すみ江さんの家に行って直談判してやる!と二郎は息巻く。

花村の家に出向いた二郎と三郎は、応対に出た節子に、兄貴の為に、すみ江さんがお帰りになるまで待たせてもらいます!と宣言する。

兄貴はすみ江さんにぽーっとなってしまって、今や廃人同様になりました。

純情で口べたなんですけど、根は良い奴なんですと座敷に上がり込んだ三郎が訴えると、こいつ弁論部にいるんですと二郎が節子に説明する。

すると節子は、男性として積極性に欠けていらっしゃるのでは?と指摘して来たので、それも美点になるのじゃないでしょうか?と二郎は言い返す。

女って先に誘われないと、他の人に付いて行ったりするものですよ、すみ江も一郎さんを慕っているんですよと節子が言うので、兄貴の奴がうらやましくなったと二郎は言い、先に生まれた方が特になるようになっているんだと三郎もひがむ。

万五郎が店に帰って来ると、聞くが慌てて、すみません、火を絶やして…と詫びながら、仏壇の御灯明に火を灯す。

亡き妻の仏壇の前に座った万五郎は、女手にないこの家じゃお前さんが必要だ、3人が1人前になるまで…、継母の悲哀を味わすまいとわしは後妻をもらわなかったが、お前さんも年頃だ、お嫁に行かないとね…と菊に話しかけたので、旦那さん、そんなこと言われたら…とお菊は悲しむ。

花村の家を出た三郎が「青い鳥」に行くと言うので、テコちゃんか?切り替えが早いな…と二郎は言う。

万太郎は菊を前に、3人息子、あの中の1人もお前さんを欲しいって言いやがらない、あいつらメ○ラだよと嘆くと、仏壇に向い、母ちゃん、とんだ子を産んでくれたよ、いや、みんな私の育て方が悪かったんだ。至らなかった…、こんな良い娘がいるのに、踊りの娘に惚れるなんて…、最もこれは私も同罪だ、すみません、私は大バカものです、ごめんよ母ちゃん!と仏壇に頭を下げた万太郎だったが、でも私は迷いません、あんな息子たちは当てにしません、自分で小沼やママンを立派に残します。

お菊、私がダメになったらこの山万を頼みますよと言うので、聞いていたお菊は泣き出す。

花火が上がり、夏祭りの夜が来る。

花村の家出は、純子ちゃん、花火見に行ったら?きっとにぎやかよと節子は進めていたが、1人で行ってもつまらないわ、でも池之端、良く散歩に行くくせに…、こんなとき、一郎さんでも来てくれたら…と節子は独り言のように言う。

あなた早く結婚しなさい、チャンスを逃さないこと…と節子が言うと、でも踊りが…とすみ江が言い返すので、踊りと心中するのは姉さん1人で十分、両親がいないんだし、あなたが嫁入りしてくれないと…、2人姉妹だから…と節子は言い聞かす。

姉さんが嫁入りするとき、一緒に行くわなどとすみ江が言い出したので、私は2度と結婚しない、死んだ主人のこと忘れられないから…、いつか帰って来ると思って…、女って結婚することが幸せなのよ、あなた、一郎さん好きなんでしょう? 向こうも気が弱い、こっちも引っ込み思案ではね…、何時何時でも姉さんは一肌でも二肌でも脱ぐわよと節子は説得する。

「青い鳥」に来ていた3兄弟だったが、兄貴、断固として誘うべきだよと二郎が一郎をけしかけ、一郎が煮え切らないので、情けないわね…とテコちゃんも呆れ、こっちにも影響あるんだよと三郎も後押しする。

みんなから励まされた一郎は、良し行こうか!と決心する。

祭りに出かけた3兄弟だったが、そこに金一と誠一がいて、二郎ちゃん、卑怯だぞ、町内会長同士で話し合って提灯の大きさ同じにしただろう?と金一が因縁を付けて来たので、二郎の方もつい言い訳するうちに喧嘩になり、駆けつけた警官に3兄弟は捕まってしまう。

下谷警察署 ねえ、どうして親父、来てくれないんだろう?と二郎がぼやいていると、こんな親不孝な息子、誰が引き取るもんかと三郎は自虐的に言う。

そこに、警官が呼びに来る。

署長室に行くと万太郎が来ており、わざわざお呼びすることじゃないかかったけど、3人も立派な息子さんを持ってなさる親父さんの顔が見たかったんだと署長(古川緑波)は穏やかに話し始める。

奥さんは?と聞かれた万太郎が、早く亡くしましたんで…と答えると、3人も良い息子さんを持ってらしてうらやましい、家も娘が2人で…などと署長が言うので、良くお詫びしないか!と3人息子に言い聞かせる。

良いんだよ、若いんだから喧嘩くらいしても…、お父さんに心配させないでな…、君は部下が10人もいる技術部の係長だそうじゃないか?警察は何でも分かってるんだよと一郎を見ると、3人揃って先が楽しみなもんだ、はい、お帰りはあちら!と署長は言ってくれる。

廊下に出た万太郎は、一郎、お前係長って本当か?いつからだ?と聞くと、この5月くらいからですと一郎は答える。

それを聞いた万太郎は、一緒に行く所があるんだ、付いて来なさいと3人に言い、「助六」に連れて来る。

親子で酒を飲み始めると、良い署長さんでしたねと一郎が言い、二郎も話しがあるんだと言い出すと、保険の外交員を止め、店の手伝いをしたいと思うんだ、僕がこの中で一番商人に向いていると思うんだと万太郎に切り出す。

僕、酒屋をやってみたいんだ、その代わり、お菊をもらいたいんだ、あれは良い娘だと言うので、偉い!お菊は良い娘だ!お菊は死んだ母さんにそっくりだよと万太郎は褒め、お前がその気ならお菊を迎え入れると約束する。

すると、噂をすれば何とかで、そのお菊が、お帰りが遅かったので…と言いながら店に顔を出す。

そんなお菊に、二郎から話しがあるそうだ、早く帰れと万太郎は急かす。

二郎が先にお菊と買えると、めでたし、めでたしか…と三郎が言い、一丁上がりって所ねと町子も喜ぶ。

そこへ、サブちゃんは?とやって来たのがテコちゃんで、今度は変なのが現れた…と町子がからかう。 お先に!と声をかけ、三郎がテコと帰ろうと外に出た所で、二丁上がりかと町子は呟く。

すると外から三郎が、おい大きい兄さん、ちょっと!と声をかけて来たので、何事かと一郎が外に出て見ると、そこにはすみ江が来ており、喧嘩なさったと聞いたので…と心配げに言うので、何でもないですと一郎は答え、一緒に帰って行く。

みんな消えちゃった…と、店に1人残った万太郎が呟き、若いものは良いねとにやつくので、あんまり顔の筋肉緩めないでと町子は又注意する。

しかし万太郎は、女将、あたしはうれしくてうれしくてしようがないんだ、一郎は係長、二郎は店を注いでくれると言うし…と涙ぐみ始めたので、泣く事ないでしょう、私も一杯頂くわ…と答えた町子ももらい泣きしていた。

でも良い弟さんたちですわ…と、いつもの池之端の公園ですみ江が言い、姉さんがいたんで、私、ちょっと心配していたんですの…と打ち明ける。

三郎と2人になったテコちゃんが、サブちゃん、もう踊りはだめよと言うので、これからは演説一本で行くよと三郎が答えると、私も演説やるわ、政治家の奥さんもみんな雄弁でしょう?などとテコちゃんは言い出す。

自宅の物干し台の上で2人になっていた二郎とお菊は、一緒にマンボを歌っていた。

お菊、手相見て上げようか、結婚するって出ているよと二郎が言うと、お菊もうれしそうに微笑む。

2つの扇がくっつき、ハーに矢が刺さった絵になっている。


 


 

 

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