白夜館

 

 

 

幻想館

 

花嫁さんは世界一

新藤兼人脚本+監督の一見ラブロマンス風に描かれた戦後日本の風刺劇。

大家族制度、壊れやすい日本製玩具、掏摸の横行、神風タクシー…、今見ると、当時の世相や日本人の考え方に隔世の感を禁じえない。

特に、乙羽信子さんと高橋とよさんらが演じる戦後の高慢な文化女史たちの姿は皮肉たっぷりに描かれている。

逆に、他人に従順な大和撫子風の日本女性を演じている水野久美さんの美しさも際立っている。

新藤監督らしく、広島の原爆ドームやアメリカでの日本人の不遇などもちゃんと描いてある。

風刺劇の色合いの方が強いので、社長シリーズなどでフランキーさんが演じた怪しげな日系二世キャラなどの笑いを期待すると肩すかしを食うかもしれない。

後に東映の悪役として活躍する天津敏さんがちらり登場しているのも注目したい。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1959年、東京映画、新藤兼人脚本+監督作品。

フェンスに身体を預け口笛を吹くメキシカンの男達と手を繋ぐインディアンの母子を背景にタイトル、キャスト、スタッフロール。

アメリカ西部 日本人部落 畑仕事を終え家に帰って来たキャスト藤川太郎(フランキー堺)に、兄さん!ハリーアップ!と妹スミエ(岩崎千恵)とヨシコ(田中敬子)が声をかける。

そこに軽トラで通りかかったアフリカ系のアメリカ人が、太郎!花嫁を探しに行くのか?と声をかけて来たので、イエス、ママを残して行くよと答えると、アメリカ人は、太郎!日本の花嫁、世界一だと励ます。 家に入ると、母ヒデヨ(竹久千恵子)が、飛行機遅れるよ!と言いながら朝食の準備をしていた。

家に入って来た妹2人が、兄さん、ストロベリーもトマトも心配ないよ!と太郎に声をかける中、太郎は急いでサワーを浴び、バスタオルを頭からかぶって食卓に戻って来る。

太郎、日本に着いたら掏摸に気をつけるんだよ、身体に触れたらすぐ取られる言うからなと注意したヒデヨは、日本の景色見てきんさいと広島弁で言い聞かせる。

その間、兄のバスタオルで身体を拭いてやっていた妹は、空港まで私が車で送ってやると言う。

日本へ飛ぶ日本航空の旅客機(ミニチュア) ロスアンゼルス発、ハワイ経由、羽田の20時間の旅をお楽しみくださいとスチュワーデスが挨拶する。

ロスの旅行代理店ヘンリー谷本は東京の日米観光会社社長宮森(小沢栄太郎)に電話を入れ、花嫁探しの3人を送りましたと報告する。

電話を切った宮守は、明日11時に羽田に着くと、タイプを打っていた石川君子(雪村いづみ)ら社員に伝える。

翌日、羽田に3人を出迎えに行った宮守は、太郎らと合流すると結婚式は大使館で行います。日本での行動は全て我が社の指示に従ってお願いしますと伝えると、その場で君子のカメラで記念撮影を撮る。

君子とタクシーに乗った太郎は、乱暴な運転に驚くが、助手席に乗った宮守は、大使館には1時に着くな、20分で事務所に帰れるとご満悦だった。

すっかりタクシーに酔ってしまった太郎は君子に、仁丹下さい、仁丹忘れて来た!と狼狽する中、心配ご無用、仁丹はいりません、慣れることです、これが日本の神風タクシーで、日本の自動車はスルーで走る方が危ないなどと宮森は得意げに話しかけて来る。

旅行会社に3人を連れて来た宮守は、スケジュールは全部組んでいますと言い、太郎の担当になる君子は、見合いの相手は大阪、名古屋、広島にいます、どの順番にしますか?と聞くと、OKでしたらどこにも行かないと太郎は言い添え、最初は大阪の山部ミエコさん、2番めは広島の谷口初江さん、3番目は名古屋のアシヤミドリさんに会いますと言うので、では山部ミエコさんをナンバー1、谷口初江さんをナンバー2、アシヤミドリさんをナンバー3と言うことにします、大阪には特急ツバメで参りますと君子がてきぱきとまとめる。

すると太郎は、日本の掏り大丈夫ですか?ママ、身体に触れたらすぐ取られる言うとりましたと太郎が言い出したので、私がついて行きます、花嫁さんが決まるまでついて行きますと言うので太郎は安堵し、広島行きます、ママの墓参りしたいと申し出ると、200ドルを日本円にしてありますと君子は伝える。

太郎はそんな君のことが気になるのか、あなたはミスですか?ミセスですか?失礼でございますが…と聞くと、私は、ミス!キミコ・イシカワですわと君子は答える。

富士(絵合成)の麓を走る特急つばめ 窓側に君子と向かい合って座った太郎は富士の絶景に感激するが、君子の隣に座っていたパトロン風の親父(上田吉二郎)が太郎の隣に座った若い2号風の女(横山道代)に突然、バナナ!と要求する。

富士山の美しさはハワイの海と同じでございますと太郎が言うので、ございますは丁寧過ぎますと君子が諭す。

すると、隣の親父がコーヒー!と二号に命じる。

どんな女性がお好きですか?と君子が聞くと、心が悪い人は良くない、心の良いなでしこさんもらいます。

心悪いとママと衝突しますと太郎が言っていると、親父はジュース!と二号に命じる。 太郎が、心が良い悪いは何で分かりますか?と聞くと、顔を見れば分かりますと君子は答える。

その時、通路をアメリカ人(ウイリアム・ロス)が通りかかったので、声をかけた太郎に、アメリカ人が出身を聞いて来たので、カリフォルニアと答えると、アメリカ人はテキサスから来たと言い、日本には源氏物語の研究のため来たと言う。

太郎が花嫁探しだと答え、迎えの女性はガイドだと教えると、幸運を祈る!と挨拶し、アメリカ人は通り過ぎようとするが、そこに親父が捨てたバナナの皮が落ちていたので滑って尻餅をついてしまう。

立ち上がったアメリカ人は、美しい日本人女性に見とれて足を忘れたとユーモアで答える。

するとまた君子の隣の親父がいなり寿司!などと言うので、パパ、もうお止めなさい、恥ずかしいですよと二号は注意する。

山辺ミチコさんには8回レターを出し、ミチコさんは7回返事をくれたと太郎はうれしそうに君子に教える。

大阪の舞台でラインダンスを踊っていた山部ミエコの姿を舞台袖から見ていた監督助手坂口(藤山寛美)は、何か苛立ったように飲んだ缶ジュースを床に投げ捨ててその場を去る。

その缶ジュースは踊っているミエコの足下へ転がって来たので、美枝子はさりげなく舞台奥の方へ蹴る。

大阪城

ミエコの家にやって来た太郎と君子を出迎えたのは大家族だった。

父卓造(東野英治郎)が妻の咲枝(万代峰子)、姉芳子(樓井良子)とその夫で浪花観光専務の吉田八兵衛(谷晃)、同じく姉で戦争未亡人の民子(辻伊万里)、妹のマユミ(澁沢詩子)とその娘のミチコ、弟の松川時蔵(伊藤享治)とその妻町江(飯田テル子)、妻の妹峰子(曽我米子)とその夫矢島与市(松本染升)を紹介する。

君子は、事務的な打ち合わせがございますので…と卓造に断り、太郎を促して別室へ向かおうとするが、正座していた太郎は立ち上がろうとして足がしびれ転んでしまう。

卓造が驚き、しびれた時は揉むんだ!と言うと、ミエコが立ち上がり、太郎の足の指を揉み始める。

太郎が君子と別室に向かうと、顔が黒うて西部劇のインディアンと同じや…と親戚一同が太郎の印象を言うので、ミエコは、うしら焼けたら日照りのカボチャやと膨れる。

何しに行ったんや?と卓造がいぶかると、うちの点数検討してるんやとミエコが察し、うちの点数は50点やと太郎の採点をする。

別室で2人きりになった太郎に、ファースト・インプレションはいかが?と聞き、自分が感じたミエコの心の印象は○と手で現す。

太郎もミエコを大いに気に入ったようで90点!と答える。

卓造も太郎を気に入ったようで90点と独自採点していたが、ミエコにアメリカに行ってお百姓なんか出来るかしら?と妻の咲枝は案じるので、レビューでチーチーパッパやっとるよりええでと卓造は諭す。

太郎と戻って来た君子は、続いてミエコを別室に呼ぶ。

座布団に正座しかけた太郎は、皆さん、失礼しますと詫びながら足を伸ばして座り、スモーク?と言いながら、卓造や咲枝らにタバコを勧める。

太郎がミエコに90点の採点をしたことを君子から聞いたミエコは、太郎を85点と答え、一応第一次試験やなと言う。

さらに、きれいな身体してますねと君子が褒めると、身体には自信があるの、またいとこがあちらで百姓やってますとミエコは言う。

居間にいた卓造は、日本の女性は戦後解放され強くなりましたと言うと、それくらいの強さじゃ気になりませんよと太郎は笑う。

お母さんのお年は?と卓造が聞くと50ですと太郎は答え、いくつの時にアメリカに?と聞かれると18ですと、タバコを吸いながら太郎は答える。

そこへミエコと戻って来た君子が、1日奈良にお付き合い願いたいとおっしゃってますと親族達に伝える。

ミエコに近寄った卓造が点数なんぼだったとこっそり聞くと、その耳元でミエコは90点!と囁く。

私は駅前の新浪花ホテルに止まりますので、何かありましたらそちらへご連絡くださいと君子は言い辞去する。

ホテルに到着した君子は東京の宮森に電話し、8分通り決定しました、明日の奈良でのデートで決まりますと報告すると、私は休暇を2~3日頂いて山登りします!この暑さであちこち同行するのは堪りませんなどと愚痴る。

まだミエコの家にいた太郎は、玩具の製造業をしているらしい卓造から、売れ残りの玩具アメリカで売ったら売れますかね?などと聞くが、日本の玩具すぐ壊れます、アメリカの子供喜びませんと太郎は答える。

さらに、心理学社に頼んで子供達の心理を研究してみましたとか、チャンバラの刀はアメリカで売れんでしょうか?などと太郎にはチンプンカンプンな話ばかり話しかけられる。

そんな太郎にミエコは、これが日本の家庭ですとうれしそうに教える。

遠いアメリカに良く来る決意してくれましたねと太郎が感謝すると、九州に行くのとそんなに変わらんと卓造は茶化すが、それを聞いていた咲枝は、九州は日本ですからな…と哀しげに言うので、ママさん、僕は日本人ですよと太郎は言って慰める。

翌日、太郎とミエコ、君子の3人は、鹿が走り回る奈良公園にやって来る。

人力車に乗ったり、大仏を見た太郎は、大した南無阿弥陀仏じゃ!と驚き、日本の伝統の良さを言うので、アメリカには若いエネルギーが溢れているのねとフォローする。

ママさんが考えていた日本はどこにもありませんななどと太郎は言う。

そこに近づいて来たのは特急つばめで出会ったアメリカ人で、花嫁さん決まったか?と聞いて来たので、8分通り決まった!と笑顔で太郎は答える。

アメリカ人は源氏物語の研究もまずは女性からなどと言って連れの舞妓を紹介すると、その場を立ち去る。

五重塔を前にした太郎が、良く材木を積み上げただけで作ったものですね!と感心すると、ミエコの方は、コンクリートで作った方が丈夫でしょうと反論し、太郎さんの家からハリウッドまでどのくらいかかるの?と聞いて来たので、自動車で10時間はかかりますと太郎は答える。

それを聞いた君子はフォローの意味で、大平原なのね、空気は良いでしょうねなどと褒める。

太郎は、ミエコさん、僕のママとても良い人です、大事にして下さいと頼むと、アメリカにもお舅さんがいるとは思わなかったわとミエコは顔色を変える。

はるばるアメリカまで行ってお舅さんに仕える気はありません、日本の家族からは慣れようと思ってたのに…、これではあきまへんな…、さいなら!と言うと、ミエコはさっさと1人で帰ろうとする。

そこに、先ほどから太郎とのデートの様子を監視していた坂口がスーツ姿で現れ、みえちゃん…、僕、秋の夕暮れやし…と呼びかけると、ぼくにしとくわ!と答えたミエコは、感激してその場にしゃがみ込んだ坂口の頭をなでてやる。

それを聞いてた太郎は、秋の夕暮れとはどう言う意味ですか?と不思議がる。

広島 原爆ドームを見物する太郎と君子。

入浜式塩田で塩を石庭の波模様のように広げる様子。

その後、2人は2番めの見合い相手である谷口初江の家を訪れる。

最初に太郎達の前に現れたのは初江の母とよ(坪内美詠子)で、良う来てつかあさったのとねぎらい、すぐ後に父の徳兵衛(曽我廼家明蝶)も良う来ちゃったの!と顔を出す。

太郎は君子を案内のお嬢さんですと紹介すると、僕、大変礼儀を知りませんと断り、君子も太郎は正座に慣れていないことを知らせ、足を崩させてもらう。

とよは、お母さんと秀雄さんに良う似とってじゃのうと太郎の顔を見て感心する。

台所へ戻ったとよは、茶の準備をしていた初江(水野久美)に、とても良い人じゃと教え、ちょうど帰ってきた初江の弟義夫(山崎雅美)に、アメリカから太郎さん来とるよと教えると、姉さん、行くんか?と義夫は初江に聞く。

とよは、勝手口に顔を見せた作男岩吉(田辺元)に、浜へ言って隊をもろうて来るように指示する。 一方、徳兵衛は、太郎の母ヒデヨの係累はみんな戦争で亡くなって、今は墓があるだけだと話していた。 そこに初江が太郎と君子に茶を持って来る。

その時、とよが徳兵衛を、あなた、ちょっと…と台所へ呼ぶ。

徳兵衛は、勝手口に集まっていた浜子たちを見て、何遍話あっても同じだよと苦りきった顔になる。

座敷に君子と2人きりになった太郎は、100点です!と初江の採点を打ち明けると、外の景色を見ながら、静かな所だ…と感激する。

君子も、こんな静かな所で暮らす人は幸せねと同意する。

浜子の1人(浜田寅彦)は、塩田がなくなったらわしらはこれからどうすれば良いんですか?と徳兵衛に詰め寄っていた。

徳兵衛が、江戸時代から続いている塩田を潰すのはたまらんと言うと、別の浜子(天津敏)が、旦那さんから言われりゃ、ただでも働きますけんと頼む。

専売公社では塩が余っているんや、入浜式を止め流水式にしたばかりにこうなった…、塩が取れ過ぎて安うなってしもうたんや。

役人から勧められてやったことやから文句も言えんし…と徳兵衛は説明する。

何千万と言う金を借りた、塩田潰すと何千万と言う借金だけが残る。 塩田潰れてもお前さん達には何とかしてやろうと思う…と徳兵衛は苦しげに説得する。

そんな事情は知らず、外を見ていた太郎は、美しい海の水が塩になる…、良い仕事ですとうらやましがっていた。 汝らは塩なり…、マタイ伝第5章と言った君子は、いよいよお別れらしいわね、私、先に帰って待ってます、たくさん書類作ってね!と見合いに成功を確信していた。

そこへ戻って来た徳兵衛が、塩をぎょうさん取ろうと新しい方式にしたら余ってしまいましてね…と苦笑しながら、太郎さんは何を作っておられますかと聞くので、トマトやイチゴを作っていて、土地は日本で言うたら20町歩くらいあります、メキシカン20人、インディアン5人使っていますと答える。

それを聞いた徳兵衛は、それじゃ小作人じゃの!と驚く。 太郎は、はい、ほてからに、日本人は土地を持ってないから苦しいです、財産は何もありません、これから初江さんと一緒に一生懸命やりますと答えるが、徳兵衛の表情は曇る。

そこにとよが、太郎さんにお風呂入ってもらえば?と声をかけて来る。

徳兵衛も奥へ下がると、ママはいつも一文無しだと言ってますと言うので、君子は正直過ぎますと注意するが、正直は宝ですと太郎は笑う。

台所へ戻って来た徳兵衛はそこにいた初江に、やっぱり野崎さんの家へ行ってくれやと頼む。 でも初江が野崎さん気に入らんらしいって…ととよが口を挟むと、金の都合や、藤川の秀雄さんなら子供の頃から良う知っとって、その人の子ならええ思うたんや…と徳兵衛は言う。

太郎さんに聞いてみりゃ、向こうの暮らしも大変らしい、浜子たちも何とかしてやりたいし…と徳兵衛が苦しげに言うので、初江、お前の本当のこことを言いなさいととよが聞くと、私、お父さんの言う通りにしますと初江が答えたので、それじゃあ、太郎さんにお断りしようと徳兵衛は言い、墓参りするようじゃから、初江案内して上げいと言う。

小舟で小さな島に渡り、そこに建てられていた太郎の母の係累の墓を詣る太郎、君子、初江。 初江は、お詣りする人が誰もおってないんで、盆に私らがお詣りするだけなんですと打ち上げ、こちらがおばさんのお父さん、こちらがおばさんのお母さん、こちらがおばさんの妹さん…と並んでいた墓を教える。

太郎は、おじさん、おばさん、南無阿弥陀仏、ママの息子の太郎です。カリフォルニアで働いております!と合掌して呼びかける。

君子は初江に、結婚はご自分がするものでは?と破談になったいきさつを察し問いかけると、父は苦しんでいます、私は助けてあげたいんですと初江は言う。

結婚はあなたの石が大事なんですよ、自分の意思を曲げても良いの?と君子が念を押すと、父を尊敬していますと初江が言うので、あなたの心きれいです、もう一度お父さんに頼んでみますと太郎も説得するが、心は決まっています、ないご縁と思って諦めて下さいと初江が言うので、古い美しさね…と君子は皮肉る。

アメリカでは18になったら自由にしますと太郎も説得しようとするが、初江が泣き出したので、泣かないで下さい、虐め過ぎてごめんなさいと詫びる。

ナンバー1はちゃっかり過ぎ、ナンバー2は日本的でダメでしたと東京の宮森に電話を入れた君子だったが、もう9時だぞ、社長自ら残業だぞ!花嫁が決まらんと商売にならないんだ!と夜中に事務所に残っていた宮森は苛つく。

名古屋に向かう列車の食堂車で君子とビールを飲みながら太郎はアシヤミドリを知ったいきさつを打ち明ける。

生け花の先生がアメリカにやってきたことがあり、その先生からの紹介だと言う。

レターは6回出し、ミドリさんの字はとてもきれいでした、年は27と言うと、それじゃあなたの2つお姉さん?と君子は驚く。

太郎は、年は関係ありません、肝心なのは心ですと笑う。

その頃、喫茶店では、アシヤミドリが生け花の先生袖ケ谷美空(高橋とよ)から、オールドミスに決別するのねとからかわれていた。

きっかけはこっちが作ったんだから恩に着て欲しいと美空が言うと、あんたの写真、新聞に載せてやるとミドリは答える。 名古屋駅に到着した太郎と君子は、ホームに立っていたミドリに声をかける。

タクシーでホテルに向かう途中、日本の夏は暑くて大変でしょうとミドリが太郎に声を掛けてくる。

ホテルに着くと、ボーイが、お部屋は二つ用意してあります、もう1つのお部屋は向いの315号室ですと告げる。

ミドリは、婦人文化の会にお招きします、6時に来ます、グッバイ!とだけ太郎に言ってさっさと帰って行く。

太郎は、君子さん、OKです、きれい過ぎて興奮します!掃き溜めの鶴です!とミドリの印象を言うと、シャワーでも浴びて頭冷やしなさいと言い聞かし、君子は向いの315号室へ入る。

美空の元に戻って来たミドリは、アメリカの山猿って言う感じと報告すると、3年前にカリフォルニアに行ったことだから忘れちゃったととぼける。

婦人文化の会とやらに集まって来た女史たちは、会費1000円ですってと憤慨していた。

何も知らずにそこへ連れて来られた太郎と君子が自己紹介すると、君子は部屋の隅で女性の速記係がその内容を書き留めているのに気付く。

出席していた女史は太郎に、アメリカでは家庭内の主婦はどのような勤めをしてるんでしょう?と詰問し始める。

君子はミドリにちょっとお話ししたい事がありますと廊下に連れ出すと、今夜の会は何でしょう?速記もいますよね?と尋ねると、生きたアメリカの実情を聞く会ですとミドリが言うので、酷いんじゃないですか!これが歓迎でしょうか?と君子は憤慨する。

室内ではまだ女史たちからの質問が続いており、テーブルの下で互いの足を突いて質問者を交代しながら、あなた職業は?と聞かれた太郎が百姓ですと戸惑いながら答えと、日本の窮状をいかが考えますか?戦争花嫁はどんな虐待を受けましたか?などと矢継ぎ早に聞いて来たので、汗をかいて困っている太郎の横に戻って来た君子は、適当に答えてれば良いのよ、みんな売れ残りなんだからと小声で囁きかける。

太郎は、人は優しいし美しいですと日本の印象に好感を持ったことを打ち明けるが、この辺でミドリさんに何かご感想をと君子が聞くと、私、まだ決めてませんの、体当たり主義でしてみたのとミドリは気取って答える。

そこに、新聞記者やカメラマンを引き連れ袖ケ谷美空がやって来ると、再会を懐かしむ太郎に、グレートのアメリカの匂いします!と言いながら抱きつき、日本ガールたくさん集まっとる、根気よく探しなさい!犬も歩けば棒に当たる、これは日本のことわざねと奇妙な片言で見k空は太郎に話す。

ホテルまで付いて来たミドリは、お休みなさいませと丁寧に頭を下げ帰って行くが、それをぼーっと見送る太郎に、太郎さん、終ったんです、あの方の顔に心が出ていたじゃないですかと教えた君子は、自分の部屋に入るとため息をつく。

そこに、ノックしてドアを明けた太郎が、ママ、僕花嫁さん連れて帰るの待っとるよ、空で帰るの辛いよ…、おやすみなさい、君子さん…と言って自分の部屋に戻ると、ミドリの写真を見つめる。

ナンバー3もダメでしたと君子からの電話報告を受けた宮森は、ざるそばを食いながら、これはビジネスだぞ!相手はネギを背負った鴨だ!と叱りつける。

部屋を出た君子は太郎の部屋のドアをノックしようとするが諦め、自分の部屋に戻る。

太郎の方も、その直後部屋を出て君子の部屋のドアをノックしようとするがやっぱり出来なかった。

翌日、名古屋駅に到着した君子は、1本列車を逃したことに気付き、次の東急行き休校まで30分あると太郎に言い、喫茶店で時間を潰すことにする。

イチゴミルクを太郎が注文すると、今、日本は夏みかんよと君子が教える。

すると、名古屋と東京の間に静岡ありますね?大学に友達います、付いて来ますか?昨年の夏、カリフォルニア大学に来ていた人です。

日本のイチゴ研究したいです!と太郎は言い出したので、その間、側で注文を待っていたウエイトレスがご注文は?と焦れて聞くと、列車で飲みますと答える。

静岡のイチゴ農園にやって来た太郎と君子を出迎えたのは久住種夫(藤木悠)だった。

ワイフ?と同伴の君子に驚いた久住に、君子は石川ですと自己紹介する。

何しに来たの?と久住から聞かれた太郎が口ごもったので、日本を見学にいらっしゃったんです、石垣いちごの勉強になりますでしょう?と君子が助け舟を出す。

ほいで見せて頂戴と太郎も頼む。 石垣イチゴの農園に連れて来た久住は、ここは太平洋に向かっているので冬でも出来るんだよと説明すると、こう云う石垣を作ってイチゴ作るの珍しいねと太郎が感心するので、太陽が低いのこう云う方法にしているんだと久住は教える。

あの海の向こうにあなたの家があるのねと君子が海の方角を見やると、ママおります、ずっと向こうに…と太郎も海の彼方に目を向ける。

静岡茶の栽培地に来て、茶葉を噛んでみた太郎に、日本ティーです、いかが?と君子が聞くと、僕の心ですと太郎が言うので、苦い?と聞くと、ほろ苦いですと太郎はやるせなさそうに答える。

久住は自宅に2人を連れて来ると、アキちゃん!と若い女性を呼び、ワイフですと紹介する。

すき焼きじゃ暑いし、寿司にしよう、鮎食べたいな…などと新妻に言い、1ヶ月前に結婚したんだと太郎たちに笑いかけると、まだ女学生みたいで何も分からないんですとのろけて一緒に台所へ行ったので、悪い所に来ちゃったわねと君子は太郎に囁きかける。

台所へ来た久住に、私200円しかないのと新妻がすねるので、僕も300円しかない、借りて来いよと久住は言うが、おビールは現金じゃないとだめよなどと2人はイチャイチャ言い合いをする。

その間、太郎は、どこかに良いお嫁さんはいませんかね?犬の歩けば棒に当たる…とぼやくと、武士は食ねど高楊枝!と君子も続け、本当についてないわねと同情する。

僕、寿司も鮎も食べたくない!と太郎はすねる。

宮森は君子からの電話を受け、君の友達余ってないの?などとぼやいていたが、そこに男子写真が戻って来て、山形さん決まりましたと言うので、宮森は電話を切り、一緒に事務所に来た山形に、大使館で手続きしましょう、戸籍謄本見せていただきましょうか?と事務手続きを始める。

東京の第一ホテルにやって来た君子は、太郎の泊まっている部屋に来ると、何してます?と聞く。

ぼんやりしてますと太郎が何か書きながら言うので、東京見物なされば良いのにと君子は勧める。

景色見てもつまらないと太郎は言うので、手紙書いてるの?と君子が聞くと、空で帰るでしょう?先にママに知らせた方が良いと思うんだ、日本に来るのにお金たくさんかかったよ!と太郎は苛立ったので、私に怒らないでよ、今日、月給日なんだ、何かごちそうしようと思ってと君子は誘う。

それはいけませんと太郎が言うので、太郎さん、おごってくれる?と君子は頼む。 すると太郎は、僕の財布の方がちょっと重いと笑顔で応える。

その後、2人は銀座ですき焼きを食べる事にする。

太郎はおどけて、卵を覗く真似をし、これは男ですなどと言う。

その後銀ぶらしていた太郎は、銀座には世界の国の名がありますと言いいくつかの国の名を挙げたので、チャイナ、ソビエト店と君子も付け加え、何でもあるわ、アメリカの兵隊も…と皮肉り、それからロマンス!と言う。

ダンスホールの前に来たことに気付いた太郎は、君子さん、踊りましょうと勧める。

チャーリー石井と東京パンチョスの演奏の中、2人はダンスを始めるが、周囲のカップルがイチャイチャしているので、2人ともバツが悪くなる。

君子はつい太郎の靴を踏んでしまい謝ると、何度でも踏みなさいと太郎は優しく笑いかける。

その直後、身体がぶつかった別のカップルの男が太郎に因縁をつけて来る。

太郎が戸惑っていたので、この人日本人じゃないんですと君子が庇おうとするが、太郎は正直に、僕は日本人だよと答えたので、男から殴り飛ばされる。

起き上がった太郎は、あっさり相手の男を殴り返し、どなたでもいらっしゃい!と呼びかけると、その男の仲間らしい愚連隊数名とも殴り合いを始める。

太郎があっさり愚連隊を倒すと、君子は思わず笑顔で拍手をし、場内の客たちも一斉に拍手するが、駆けつけて来た警官に太郎は逮捕されてしまう。

しかし、一緒に付いて行った君子が事情を話し、太郎はすぐに釈放される。

太郎さん、強いのねと君子が感心すると、大学でボクシングやっとたよと太郎は得意げに答える。

大学まで出てるのに農業をやることにしたの?と君子が不思議がると、パパ死んで、ママをヘルプするものないから…と太郎が言うと、胸がすっとしたわ!始めは心配だったけど…と君子は喜ぶ。

日本の愚連隊は弱いねと太郎はパンチを出しながら笑う。

良かったわ、お叱りだけで…と警察の処置に安堵した君子はホテルの部屋の前まで付いて来て、おやすみなさいと言い、太郎と握手して別れる。

太郎は別れが辛いのを隠すため急いで部屋に入ろうと焦り、足を片方ドアに挟んでしまう。

君子の方も急いでホテルから離れようとして表で転んでしまい、両手をぬかるみについて泥んこになってしまう。

ヒールの片方のかかとも取れてしまったので、もう片方のかかとも無理矢理とって君子は平べったいヒールを履いて帰る。

翌日、ホテルの太郎に君子から電話があり、今夜、日本の最後の夜でしょう?ごちそうしたいの、家に来て欲しいわ、6時に迎えに行くわと君子は言う。

君子の自宅で太郎を出迎えたのは、父親の裕司(千田是也)だった。

あちらで農園やっているそうですね?と応接間で裕司が聞くと、日本人150人、ハウスが25軒あります、色々作っていますが、レタス、イチゴ、トマトなどを作っていますと太郎は答える。

キャンプで手から苦労しました。皿洗いしたり犬の散歩させたり…と話していた太郎は、壁にかかった軍服姿の裕司の姿に気付き、海軍だったのですか?と聞く。

潜水艦に乗ってましたと裕司が答えると、今TVでやっています。

みんなカリフォルニアで潜水艦上がって来ると待ってましたと太郎はうれしそうに言う。

そこに着物姿に着替えた君子が食卓の用意ができたと誘いに来る。

ママさんは日本へはお帰りにならないのですか?と席に着いた裕司が聞くと、ママはアメリカの土になる言うとりましたと答えた太郎は、君子さんの家は立派ですねと庭を眺めながら感心する。

君子は古い家ですわと謙遜する。

ママに手紙書きました。犬も歩けば棒に当たる、武士は食ねど高楊枝…などと太郎が言うと、君子のママは10年前に死にましたと君子が打ち明けたので、パパが死んで12年になります、キャンプに入って身体悪うしました。うちのママは立派よと言うと、うちのパパも立派ですと君子が答えたので、あなたのパパ海軍中佐でしょうと太郎は感激する。

その後、君子は琴を演奏する。

グッド!と太郎が拍手すると、アンコールしないといけないようねと君子は微笑み、「さくら」を演奏し始める。

それを聞いていた太郎は感極まったような表情になる。

家を辞去する時、太郎は、今晩はとても楽しかった。日本に来て一番でしたと礼を言うので、通りまで億って差し上げなさいと裕司は君子に言う。

夜霧の外に出た太郎は、あなたのパパ、僕のパパの次に素敵ですと言うと、君子は、わざと車を呼ばずに私に送らせたんですと父親の配慮を明かす。 通りが見えて来たので、あの駅前にタクシーがあります、ここでお別れをするわ、さようならと君子は言い、握手する。

すると君子は、太郎さん、私のお土産差し上げますねと言い出し、急にその場で目をつぶって口を差し出す。

アイラブユーと言いながら太郎は君子を抱きしめキスをする。

そして、君子さん、アメリカに来てくれませんか?と太郎は頼むが、ダメだわ、私には立った1人のパパがいるわと君子は答えるので、また太郎はキスをする。

僕は花嫁さんには落第しましたが、あなたに会えてとてもハッピーでした…、ロングタイム・グッバイね、素晴らしいお土産ありがとうと礼を言うと、太郎はバイ!と別れを告げ駅の方へ向かうが、心穏やかでないせいか、途中に置いてあったドラム缶を蹴飛ばしてしまう。

翌日、宮森は男性社員からの報告を聞き、何、今日休む?と怒り出すが、男性社員は、僕は電話を聞いただけですよとしょげる。

羽田に3人を送りに来た宮森は、皆さん、アメリカの土になって下さい!と結婚した2組に声をかけると、1人ベンチにしょんぼり腰掛けていた太郎には、また来年来て下さいと慰める。

太郎が、君子さんは?と聞くと、今日は休みです、宜しくって…と宮森が適当に答えたので、宜しくってどう言うことです?と太郎は食い下がり、元気でお帰りくださいと言う事ですよ!と宮森は面倒くさそうに答える。

裕司が自宅に帰って来ると、ピアノの前に立ち「さくら」を弾いていた君子がいたので、用があって婆やに電話したら、お前が休んでいると言ったんだと、帰ってきた理由を説明した裕司は、君子、太郎さん、お送りしないのかい?太郎さん、好きなんだろう?と聞く。

羽田では、ビジネスとは言え、縁結びは良いものだと宮森が満足げに話していると、同行していた男性社員が、これまでに178組まとめました!残念ながら1組逃がしましたが…と太郎のことを惜しがる。

裕司は、君子、お父さんはお前には幸せになって欲しい、長い間、良く尽くしてくれた。

私も何かお返しをしたいと言うと、感極まった君子は裕司に抱きつき、お父様!君子はこの家を捨てます!と泣き出す。

君子はタクシーに飛び乗ると、運転手さん飛ばして!と頼む。 それを聞いた運転手(中村是好)は、命が2ついるね…とぼやく。 太郎はしょんぼりと飛行機に乗り込んでいた。

羽田に到着したタクシーの運転手は、飛び降りて空港内に飛び込んだ君子に、お釣りですよ〜!と呼びかけるが、血相変えた女ってのは良いもんだな…と笑う。

君子は履いていたハイヒールを脱ぎ捨て見送り台へと向かう。

席に着いていた太郎は、窓にカーテンを閉めていたが、無事結婚した3人の1人(ミッキー安川)が、そのカーテンを開いて外を見たので、何気なく太郎も見送り台に目を向けると、そこにハイヒールを両手に持ち振り回している君子の姿を発見する。

慌てた太郎は、スチュワーデスが静止するのも無視して搭乗口に来ると、離れ始めたタラップに大きくジャンプする。

そして、空港内を走り、非常階段を登って見送り台へと登る。

その場にいた見送り客たちが何事かと見守る中、君子も人をかき分け太郎の方へと向かう。

そして見送り台の端で出会った太郎と君子は抱き合う。

それを見た男性社員が、社長!儲かりました!と言うと、宮森も、さすが我が社員!体当たりだ!と大喜びする。

おわり
 


 

 

inserted by FC2 system