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つむじ風

渥美清主演の喜劇映画

ここでの渥美さんの役柄は、きちんと説明されている訳ではないが、詐欺師と言うことだろう。

頭が切れ、口八丁手八丁で、日銭を手にするのも、女を手にするのも思いのままで、自由気侭な生き方をする…と言えば、植木等の無責任男などにも共通する痛快なキャラクターである。

大金持ちにはなりそうにもないが、その自由人風の所が世の男性の一つの憧れでもある。

この当時の渥美さんは、バイタリティ溢れる元気良さとまじめさだけが売りと言うようなキャラクターを良くやっていたようなイメージがある。

この元気良さとまじめそうな雰囲気は、時に図々しさにも通じ、小悪党風のキャラクターにも変化する。

その典型がこの映画の主人公だろう。

陣内陣太郎は、高貴な生まれと言う噓の身分を装っていると言う部分もあるが、終始まじめそうである。

定職を持っている訳ではないか、かと言ってグータラしている訳でもなく、絶えず頭を働かせている風に見える。

人の秘密や弱みを知り、それを巧く金に結びつけて行く知恵に長けており、時に探偵のような行動も取る。

そう言うことができるのも、元来、自分が人に警戒心を抱かせないタイプ…と言うことを本人が良く自覚していると言うことだと思う。

役者としての渥美さんは、若い頃から人嫌いだったようだが、少なくとも、映画の中のキャラクターは人懐っこい…、もしくは、そうわざと人に思わせるような役柄イメージが強い。

この作品の基本的な話は、交通事故に会った主人公が、車の番号の可能性から2人の人物に会い、その2人の奇妙な人間関係に関わって行く…と言うもの。

片方の人物は、ライバルの風呂屋と意地の張り合いをすることになる頑固な田舎者。

もう一方の人物は、堅苦しい秘書との共同生活でストレスがたまりまくっている人気作家。

この両者を、伴淳と伊藤雄之助が面白おかしく演じている。

伴淳と若水ヤエコ夫婦の子供が加賀まりこと言うのも見た目的には奇妙な感じがするが、「トンビがタカを生んだ」と言うことなのだろう。

次女もなかなか可愛らしいし。

この頃の加賀さんは、正に「元祖アヒル口」のような顔立ちで、妙に口元がエロティック。

伴淳のアルバイト妾、つまり2号を演じているのが冨士眞奈美で、女子大生と言う役柄を演じているくらい若い。

当時、25才くらいだったはずで、さすがにもうその顔立ちは完成しており、ぱっと見、すぐ冨士眞奈美と分かる。

ラストのウェディングドレス姿などを見ると、もう既に若干ウエストの辺りにボリューム感があり、十代の頃の華奢さはない。

派手な顔立ちといい、2号と言う役柄にはぴったりだと思う。

作家役の伊藤雄之助の秘書を演じているのは、関西系の映画で良く見る環三千世さんだが、それなりに可愛らしいのに、あまり目だつヒロイン的な役が少ないような印象がある中、この映画ではかなり目だつキャラクターになっていると思う。

若い藤田まことがちらり登場するのも楽しいし、全体的に良く出来た喜劇だと思う。

1960年頃までの小じゃれた松竹喜劇と、その後の予算が削られ、かなり貧乏臭いと言うか泥臭くなった下町人情喜劇との中間期の作品…のようにも見える。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1963年、松竹、梅崎春生原作、清水俊男+宮崎守脚色、中村登監督作品。

夕方、車が走り去った後、はね飛ばされて道ばたの塀に身体をぶつけた男が倒れる。

車は停まらず、そのまま走り去ったので、たまたま側を通りかかった浅利圭介(桂小金治)が事故を目撃、走り去る車のバックナンバーを読もうとするが、何せ薄暗いので、「す-6247か、9」のどちらかとしか判断出来なかった。

急いで倒れていた男に駆け寄り、大丈夫かと声をかけながら助け起こした浅利は、ハンチングにチャックのジャケットに蝶ネクタイと言う服装の男がすっくと立上がったので、無事だったと安心する。

その男は、でも死んだ振りしねえと俺の命を狙っている奴がいるからな。今の自動車も狙ってたもん…。それで俺、家出て来たんだ!などと言いだしたので、浅利は驚き、君、今、頭打たなかったか?と尋ねる。

ところで君の名前は?と浅利が聞くと、男は、陣内陣太郎(渥美清)と答える。

家出して来たと言う陣太郎を連れ、自宅に連れて来た浅利は、おばはんがいるけど、逆らわないように…と念を押し、そっと物音を立てないように玄関から入る。

しかし、陣太郎が、立て付けの悪い引き戸をガタガタ音をならして締めたので、奥から、誰?と言う女性の声が聞こえて来る。

俺だよ!と浅利が答えると、何だ、おっさんか?と奥の声は答える。

陣太郎は浅利に連れられ、階段の上の屋根裏部屋に案内される。

個々は俺の領分だから遠慮しないで座ってくれと、急に鷹揚な態度になった浅利だったが、そこに下から昇って来たおばさんことランコ(沢村貞子)が、部屋代と手を出して来たので、陣太郎は、おばさん、大盛り二つ!と注文する。

おばさんはむっとしながらも、蕎麦代を要求し、浅利が泣く泣く払ってやる。

ランコが下に降りて行ったので、随分陰嚢な下宿のおばさんだなと呆れたように陣太郎が言うと、下宿のおばさんじゃない!俺の女房だ!と浅利が訂正したので、今度は陣太郎の方があっけにとられる。

聞けば、浅利は今失業中なので、あちこちの部屋をみんな下宿人に貸した結果、主人の自分はこんな屋根裏部屋にしか居場所がなくなったのだと言う。

事情を聞いた陣太郎は、無理矢理連れて来た浅利をうさん臭い目で見るようになる。

浅利は、届いた大盛りそばを喰い始めた陣太郎に、自動車損害賠償に付いて本を読んでやり、君はひき逃げされたんだから相手から賠償金が取れると教える。

轢かれたって言っても何ともなかったから…と陣太郎が言うと、でも精神的なショックは受けただろう?と言い出した浅利は、陣太郎の顔をあちこち触ってみながら、今のところ変調は来してないようだねと素人診断する。

相手の出方は掛け合い一つなんだよなどと得々と浅利が言っていると、それは陰謀なんだ!近いうち俺は世継ぎとなる。俺の本名は徳川15代将軍徳川慶喜のひ孫松平陣太郎なのだと陣太郎が言い出す。

翌朝、大学出てから14年〜♪今じゃあっぱれ失業者〜♪職安通いの毎日で〜♪書いた履歴書50000枚〜♪と浅利の息子の健一が父親をからかう替え歌を歌っていたので、屋根裏から降りて来た浅利が叱ると、そりゃあ、あんたが怠け者の失業者だからですよと、奥から出て来たランコが冷たい目つきで睨んで来る。

食卓に着いた浅利は、朝食代として50円を差し出し、ご飯とみそ汁を食べ始めると、実は事業をやるんだとランコに告げる。

まさか、夕べ連れて来た浮浪者と?とランコが顔をしかめると、あの人、徳川慶喜のひ孫なんだってと浅利が言うので、ランコはバカにするが、確かな証拠を持っているようだから…と浅利は真顔で答える。

その後、美容体操をランコが始めると、それを観ながらトイレに入った陣太郎は、トイレの中から手を出し、誰か、紙を持て!と命じる。

ランコは慌てて、ちり紙を探す。

朝食の席に着いた陣太郎は、みそ汁を椀蓋に小分けして、それをすすり始めたので、お宅ではそう言う飲み方をなさるのですか?とランコが目を丸くして聞くと、いつも毒味された後の冷えた汁しか飲んだことがないので、いつの間にか猫舌になっちゃったんですよなどと陣太郎は真顔で答える。

その後、屋根裏部屋を掃除しに上がって来たランコが、陣太郎のリュックをどけようとすると、触るな!下郎!と部屋の中にいた陣太郎が叫び、そのリュックを開くと、中から立派な位牌が出て来る。

まるで大名の位牌みたいですね…とランコが驚くと、曾爺さんの位牌です。私の家督相続するのを邪魔する奴等がこれを狙っているんですと陣太郎は説明する。

位牌の中には、確かに、徳川慶喜の名が記されていた。

その日の夕食は、ランコ、浅利、陣太郎が屋根裏部屋で一緒に食べるが、明らかに陣太郎の食事の質と量が1人だけ良くなっているので、事情が分からない浅利は文句を言う。

ランコはすっかり陣太郎を高貴な身分と認めたようで、うちの人を、お宅の家礼かなんかに使って頂けないでしょうか?向いていると思うんですけど…と恐る恐る頼む。

陣太郎は鷹揚に、うちには家礼の下島が既にいるので、家夫、家僕の下の下従くらいなら…と答える。

食事を済ませた浅利は、これから陣内さんと事業の話があるので…と言って、ランコを下に追い払う。

下に降りる時、ランコは、おっさんは、勤める会社を次々に潰す妙な病気があるんで気をつけて下さいねと言い残して行く。

浅利は、自分が覚えていた車のNo.は、「す-6247」か「…9」のどちらかだったので、今日調べて来たら持ち主が分かった。

1人は加納明治と言う作家で、もう1人は猿沢三吉と言う風呂屋の主人だと報告する。

それを聞いた陣太郎は、それだったら作家の方だ。ああ言う連中は運動神経が鈍いから…。僕がそちらに会うから、君は三吉の方を当たってくれたまえなどと命令口調で来たので、浅利は不愉快そうになり、文句を言いだす。

すると陣太郎は、じゃあ、一切おばさんに話して俺は出て行きますと言い出したので、俺が保証金を独り占めしようと思ってるんだろう?と浅利は睨みつける。

じゃあ、勝負で決めましょうと言いながら持っていた花札を取り出した陣太郎は、目の強い方が小説家の所へ行くんですよと条件を付け、浅利に一枚引かせ、自分も一枚抜く。

両者が互いの札を見せ合うと、陣太郎がカスで浅利が坊主だったので、浅利の方が強く、小説家の所へ行くのは浅利と言うことに決まる。

その頃、人気作家の加納明治(伊藤雄之助)は、秘書の塙女史(環三千世)が作る健康を考えた大根の葉っぱなどのジュースをまずそうにすすっていた。

その時、玄関ブザーが鳴ったので塙女史が出てみると、入って来たのは浅利だったので、うちでは紹介状のない方とはお会いしませんと断り、身体を押し付けて外に押し出す。

その間、酒棚の酒を取ろうとしていた加納は、棚の扉に鍵がかかっていたので怒り狂っていた。

一方、「第一三吉湯」では、長女の一子(加賀まりこ)が番台に座っている間、湯船には、店の様子を観に来た陣太郎が、周囲の客たちから、この風呂屋の主人猿沢三吉の評判をそれとなく聞き出していた。

何でも三吉は、山形の山奥から出て来て風呂屋で成功し、今では「第二三吉湯」もあるそうで、来年は区会議員になるらしいと噂される立志伝中の人物らしかった。

それを聞いた陣太郎は、これは一筋縄ではいかんかも知れないぞ…と考え込む。

その頃、主人の猿沢三吉(伴淳三郎)は、同じ風呂屋「泉湯」の主人泉恵之助(殿山泰司)と将棋をやっていた。

泉の方が有利だったので、王将を持って碁盤から逃げた三吉は、どうしても負けを認めようとはしなかった。

そんな三吉の態度に苦笑いしながら、泉は、腹が減った。何か喰いに行かないか?俺がおごるよと誘う。

風呂屋の裏から出かける三吉と泉を、待ち受けていた陣太郎は追跡し始める。

寿司屋に行った三吉は遠慮もせずに24個も握りを食うので、さすがに泉は不安そうに見る。

さらに、マグロだけくれ等と言い出したので、それじゃあ寿司じゃなく刺身だと泉が文句を言うと、じゃあ、マグロに飯を3粒だけ乗せてくれ。そうすりゃ寿司だろう!と三吉は言い出す。

そんなカウンター席での2人の様子を、テーブルで鉄火巻きを食べながら観察する陣太郎。

さすがに切れた泉が、それで、さっきの将棋のお返しをしているつもりか!と詰めよると、当たり前だ!と開き直った三吉は、マグロの切り身を泉の額に貼り付けたので、泉も負けじと千きりキャベツを三吉の顔にぶちまけると、三吉はゆでだこを丸ごと泉のはげ頭の上に乗せる。

従業員たちが2人の喧嘩を止めに入り、客たちも騒然とする中、陣太郎は騒ぎに乗じて、金も払わず店から抜け出る。

商店街の中を歩きながら、こりゃ面白くなって来たぞ〜と陣太郎は笑う。

泉湯では、番台に1人息子の竜之介(川津祐介)が座っていたが、ずっと本を読んでいたので、女風呂など、こっそり無賃で忍び込む子供たちもいた。

そんな竜之介、竜ちゃん、大変だ!と湯船の方から聞こえて来たので、何ごとかと駆けつけると、客が失神していた。

実はその客、陣太郎で、竜之介に近づく為の芝居だったのだ。

取りあえず、竜之介の部屋に寝かせ、往診に駆けつけて来た医者(大泉滉)が診た所、軽い脳貧血だが、油分が抜け落ちてパサパサになっている。随分長湯をしてたんじゃないか?と言う。

竜之介も陣太郎の腹を触り、まるでさらし鯨ですねなどと言っていたが、その時、くすぐったがった陣太郎が起き上がる。

医者は、脂肪分をたっぷり取った方が良いね、トンカツとかウナギとか…と言い残して帰って行く。

起き上がった陣太郎は竜之介の部屋の中を見回し、君はなかなか読んでるねと、その本の多さを褒める。

将来はその方で身を立てようと思っているので…と、恥ずかしそうに竜之介が答えたので、僕は加納明治を知っているが、あいつには随分手を焼いたね〜…などと陣太郎は噓を言う。

すると竜之介が、加納先生に作品を観てもらえないでしょうか?と言い、「赤い花よ、何故泣かす?」と言うタイトルの自分が書いた小説の原稿を見せる。

俺から話しといても良いよと安請け合いした陣太郎は、実は自分は温州15万石の屋敷に縛られるのが嫌でリュック一つで旅に出た者だ。封建に対する叛逆とでも言うのかね〜…。2人で一つ、世界の権力と戦おうじゃないか!などとほらを吹いたので、純情青年の竜之介はすっかり騙され、陣太郎にへこへこ頭を下げるようになる。

その後、竜太郎は、寿司屋の喧嘩の後帰宅して熱を出して寝込んだ父親から、もう金輪際、三吉やそのチンピラ娘和子とも口を聞くな、あいつとは今日限り絶交したんだ!と言われ、それじゃあ、僕たちロミオとジュリエットだ!と竜之介は嘆く。

実は、竜之介と一子は以前から付き合っていたのだ。

その頃、終業後の「第一三吉湯」では、一子が脱衣所の床の拭き掃除をしていたが、そのすぐ後ろから、従業員の金治(小瀬朗)がぴたりとくっついて拭き掃除するので、止めてよ、嫌らしい!あっちを手伝って!と叱りつける。

仕方なく、洗い場の方に金治が行くと、そこでは、タイルを将棋盤、桶を駒に見立てて、三吉が1人、将棋の練習をしており、そこでも邪魔にされ追い出され、又、脱衣所に戻る。

そこに、「第二三吉湯」を担当している三吉の女房ハナコ(若水ヤエ子)が帰って来る。

ハナコは、これまで亭主に黙って株とへそくりで貯めた金で、新しい土地を買ったと報告したので、三吉は、お前は楠木正成の妻だと喜ぶが、それは山内一豊の妻だとハナコに笑って訂正される。

三吉は、これでで〜んと建てるか?「第三三吉湯」!泉湯の奴、慌てるぞ〜。謝りに来させるからと言い出す。

その両親の話を廊下で聞いていたのは一子だった。

一子はその足で、いつも竜之介と待ち合わせている暗い空地へ向かい、先に待っていた竜之介に、大変よ!と声をかける。

僕たち、会っちゃいけないんだろ?と竜之介が予想したことを言うと、それどころではなく、ここに「第三三吉湯」を建てると言うのよ!こんなに近くに出来ると、あなたの「泉湯」は客を奪われ、恵之助さんさんも黙っちゃいないわ。私たち仇同士になるのよ!と一子は哀しそうに告げる。

悲劇だ!何と言う悲劇だ!いよいよ僕たちはロミオとジュリエットだ!と竜之介は嘆き、一子と抱き合う。

私がロミオ?と一子が言うので、ロミオは僕で、君はジュリエットと竜之介は教える。

いよいよ、その空地には「第三三吉湯建設用地」の看板が立ち、建築資材が運び込まれていたが、その看板に石をぶつけていたのは泉恵之助だった。

そこにやって来た三吉は、材木泥棒か?とからかう。

何でうちのこんな近くに建てるんだ!と泉が文句を言うと、三吉はしらっと、「泉湯」からここまで203mあり、法規で決まっている200mより3mも離れていると反論する。

それを聞いた泉は、お前には仁義と言うものはないのか!と憤慨するが、仁義なんかじゃない!腕で来い!と三吉は自分の曲げた左手を叩きながら怒鳴り返す。

建築用地から帰る為、乗って着た車の元に戻って来た三吉に近づいた陣太郎は、猿沢さん、5日前の午後6時20分、この車どこにいました?私、見たんですよ…と声をかける。

すると、三吉の顔色が変わり、お前誰だ?と睨みつけて来たので、被害者ですよと陣太郎は笑いかける。

「第一三吉湯」のボイラーの前に帰って来た三吉は、付いて来た陣太郎に、あんた、秘密探偵か?大物は誰でも1人でも3人でも持っているんだ!などとおかしなことを言い出す。

妾ですよ!と自ら告白した三吉は、私の場合は純粋な恋愛だよ!等と言い、一万円を陣太郎に口止め料として渡そうとする。

しかし、陣太郎が納得していない風だったので、さらにもう一枚差し出す。

そして、この年で初めて知った恋だもの…などと三吉はとぼけてみせる。

そこに、一子が電話だよと父親に知らせたので、三吉は電話のある部屋に向かう。

残っていた陣太郎は、不思議そうに見ている一子に、ここのお嬢さんですか?私、松平陣太郎と言いますと挨拶する。

三吉にかかって来た電話の相手は、女子大生で三吉の2号をしている西尾真知子(冨士眞奈美)だった。

今月分、いつくれるの?と手当をねだって来たので、俺たちのことバレたらしいんだと三吉は教えるが、まち子は構わないわと答える。

女房には何にも…と話しかけていた三吉だったが、その時、背後に立っていたハナコが、あんた!と呼びかけたので、ビビった三吉は、毎度ありがとうございました!と言って電話を切り、誰からだい?と聞かれると、自動車の修繕を頼んだんだよとごまかす。

ハナコは、頼む方が毎度ありがとうかい?と睨みつけて来る。

その頃、作家の加納の家では、秘書の塙女史女子が、加納が戸棚に隠していた酒を全部取り出し、お酒は勘蔵や心臓を痛めます。先生の身体は御自分だけの物ではなく全国の読者の物ですなどと無表情に説教していた。

さすがに加納は逆上し、君なんかに芸術が分かるか!君は首だ!出て行け!と怒鳴りつけるが、塙女史も黙っておらず、私、今すぐにでも辞めても宜しいんですけど、そうなると、月三本の連載や小説の映画化の話など今進行中の仕事は大丈夫ですか?と痛い所を突いて来たので、加納は黙り込むしかなかった。

その時、朝聞いた同じリズので玄関チャイムが鳴りだしたので、今朝から来ている押売ですと塙女史が教えると、君が出たまえ!と命じた加納は、悔し紛れにバーベルを持ち上げ、ウォ〜ッ!と吼えてストレス発散する。

玄関ドアを開けた塙女史は、外で立っていた浅利に黙って、集めた酒を全部渡し、ドアを閉めてしまう。

帰宅して、塙女史からもらった高級洋酒を屋根裏で浅利は飲み始めるが、そこに帰って来た陣太郎は、おっさんはもう手を引いた方が良い。買収されているからな…と、何本もの酒瓶を見ながら忠告する。

じゃあ、出て行け!と浅利がふて腐れると、出て行くとなると、おばさんに何もかも話して行くか…と陣太郎もとぼけたように言い返し、下のおばさんを呼びかけたので、ランコが上がって来てしまう。

何でもないよ!と追い返そうとする浅利だったが、大量の洋酒の瓶を見たランコが驚くと、陣太郎は黙ってランコに酒を注いでやりながら、おっさん、仕事見つかりそうですよと告げる。

喜んだランコだったが、礼を言うのはまだ早い。希望者が多くて金を積む奴も多いんでね…と困ったように陣太郎は続ける。

それを聞いたランコは、階段を降りながら、そっと陣太郎を下に呼び、これで何とか宜しく…と3万を手渡す。

それをさりげなくポケットに突っ込んだ陣太郎は、屋根裏部屋に戻って来ると、浅利に、三吉の車を付けて、奴のいく所を突き止めてくれと言いながら、車代として1000円を手渡す。

日曜日、「第一三吉湯」の裏手の覗き穴からこっそり男湯と女湯の人数を確認した三吉は、男客が2人に、女客が1人しか入っていない事を知り、あまりの少なさに、これは何かストライキでも始まったのか?と首を傾げる。

商店街では、「泉屋クイズ」を宣伝するチンドン屋が練り歩いていた。

そのビラを手に入れた金治が三吉に知らせに来る。

そこには、「泉湯」の宣伝と「三吉湯」の悪口が混ざった単文に、所々空欄があって、そこに該当する文字を当てはめ、正解すると無料入浴券が出ると言うクイズが書かれてあった。

それを観た三吉は、泉湯の奴、やりやがったな!と悔しがる。

その頃、大量の客が押し寄せていた泉湯に来ていた陣太郎は、どうだい、クイズは?水爆位の威力はあったろうと自慢げに泉に話しかけていた。

実は、和泉屋クイズの発案者は陣太郎だったのだ。

その後、竜之介の部屋で酒を振る舞われることになった陣太郎は、両方ともとことん膿を出さなきゃならない。君は猿沢一子 、敵の娘と通じておるね?と指摘する。

ご存知でしたか!と驚いた竜之介だったが、これを一つよろしくお願いしますと書きかけの小説を手渡していた。

一方、加納明治は、秘書の警告を無視して、昼間から酒や煙草を浴びるように飲んでいた。

ところで君はどうするね?と塙女史を見やると、先生が反省なさるまで、ここにいさせて頂きます!と塙女史は怒ったように抵抗する。

その時、玄関ブザーが鳴ったので、加納自ら出てみると、そこに入って来たのは陣太郎で、二階でこちらを見ている塙女史に気づくと、加納に耳打ちする。

きれいだけど、少しこちこちですね。恋人に抱かれるときなんかどんな顔するんでしょう?と小声で塙女史の事をからかうと、それを聞いた加納は喜び、君はセンスがあるね!中に入りたまえと二階に招く。

加納は、陣太郎から渡された竜之介の原稿をざっと見て、「続く」って…、完成してないじゃないの。すぐに読むのは無理だね〜などと応対するが、先生の車「す-6247」は8日前の午後6時20分、運転を誤って人を撥ねましたね?被害者はうちの加礼の浅利圭介です!と陣太郎がいきなり詰めよると、加納の顔色が変わる。

私はある事情があって家を出たのですが、浅利が戻ってくれと呼び戻しに来た所だったんです。その時、無情にも先生の車がドーン!加納は全治一か月で入院中ですと陣太郎が説明すると、すまない!少し酔ってた…と加納はすぐに過ちを認める。

40万!精神的なショックへの慰謝料分が20万!しめて60万くらいいただきましょうか?と陣太郎が数字を出すと、そりゃ、法外だよ!と加納は驚く。

それでも陣太郎は、医者の請求書を持って来ましょうか?先生、どうしましょうか?と詰めよる。

その時、加納はちょっと思いついたように、大体、家出中の君がどうして医者の診断書なんて持ってるんだ?全治一か月なんてどうして分かったの?君は世田谷の松平って言ったね?ちょっと電話で確認してみる…と言いながら立上ると、分かってるぞ、君の正体は!僕は推理小説も書いてるんだと睨んで来る。

すると陣太郎、負けましょう!2万円に…と急に値下げしたので、そう出るなら、魚心に水心…と言いながら、加納は部屋を出て行く。

その間、陣太郎は部屋に置いてあった加納の日記を盗み読みする。

そこには、事件当夜、ひき逃げのことを悔む文章が書かれてあったので、すぐに、自分のリュックにその日記を詰め込む。

そこに戻って来た加納は、1万円だけ渡して来たので、陣太郎が不満を口にすると、君は新刑事訴訟法を知らんのかね?証拠がないと犯人は捕まらんのだよと嘲笑したので、陣太郎の方も同じように笑い、素直に帰って行く。

1人部屋に残った加納は、俺の日記の他に証拠があるか!と呟きながら日記を探すが、肝心の日記がなくなっていることに気づく。

ないよ!日記がないよ!…、あのやろう!と加納は悔しがる。

「第一三吉湯」では、三吉、ハナコが娘たちや従業員を全員集め、これから泉湯を攻撃するために、風呂代を値下げすることにした。給料はその間1割下げるが、勝負に勝ったときは、5割あげてやる。食事代は1日60円!と言い渡したので、娘や従業員たちは文句を言い出す。

しかし、三吉とハナコの決意は固かった。

その後、三吉は、「来春荘」と言う洒落たアパートに車で1人乗り付けると、西尾真知子の部屋に入ると、見知らぬ青年が真知子の椅子に身体を寄せ合って一緒に座っていたので驚く。

青年は慌てて帰って行き、今のは誰だ?と三吉が聞くと、大学の友達よ。卒論の打ち合わせに来たの。彼も私もテーマは同じ「樋口一葉」だからと真知子は平然と答える。

今月分、持って来てくれた?と真知子が聞くと、5000円だけ三吉が渡したので、半分?と不満を漏らす。

三吉は、これをもって来るだけでも大変だったんだと5000円のことを説明すると、さっきの彼にも話したんだけど、2号の方がアルサロなんかで働くより楽なんですものと真知子は不満げに言う。

すると三吉は、わしのランデブーは長くて2時間、短いとたった3分、つまり手当を時間で割ると…などと言い出したので、どうしてそんなケチなことを言ってるの!と真知子は怒る。

三吉はそんな真知子に、次の手当、半分にしてくれよと頭を下げる。

すると真知子は、契約違反よ!私を愛してないのね!と言い出したので、三吉は抱きつこうとするが、止めて!勉強しなけりゃいけないのよ!もうすぐ卒業なの!と拒絶されたので、もう愛人はいらねえ!と三吉も切れる。

すると真知子は、私が落第したら、それだけ、パパの負担の期間が延びるのよ。分かった?分かったらおとなしく帰って!明日残りの半分、持って来るのよ。私は一生懸命勉強して、早く卒業してあげるから…などと真知子は上から目線で言って、三吉の額にキスして帰す。

がっかりして、アパートの前に停めてあった車に乗り込んだ三吉だったが、その時、後部座席から手が伸びて来て、三吉の肩をつかむ者があった。

金か?金なら今取られて来た!と、強盗だと思い込んだ三吉がヤケになって答えると、後ろにいたのは陣太郎で、額に受け取りが残ってますよとキスマークのことを教える。

そんな陣太郎を飲み屋に誘った三吉は、あんたには秘密探偵の素質があるとおだて、アルバイト妾の浮気の証拠を見つけて欲しい。探偵料2万円!と提示したので、陣太郎は快諾するが、条件として、見張り用に、妾と同じアパートに一室提供すること。浅利を三助に雇うことと付け加える。

さすがに、この条件には即答出来なかった三吉だったが、陣太郎は懐中時計を取り出すと、後10秒待ちましょうなどと言い、返事を急かす。

その直後、ランコは松平の秘書の矢島なる人物から電話を受けていた。

実はそれ、浅利家の前の公衆電話から、鼻を摘んで声を変えた陣太郎が電話をしていたのだが、陣太郎を狙う反対派の連中が暗殺計画を立てているので早く陣太郎さんを隠すようにと指示を出す。

すっかりそれを真に受けたランコは、電話を切った直後、陣太郎が帰って来たので、御本邸から電話があり、奴等が動き始めたので、早く身を隠して下さいとのことですと教える。

それを聞いた陣太郎は、こうしてはいられない!と屋根裏へ上がろうとしたので、主人の仕事の方は?とランコが聞くと、それだったら心配なく。三吉湯の主人に話を付けてます。そこに行って下さいと告げ、リュックを持って降りて来ると、おばさん、長らくお世話になりました。では、ごめん!と言い残し、あたふたと浅利邸を後にする。

その後、来春荘の前で、貸し布団屋から、1日60円ですから汚さないで下さいよと言われて布団を受け取った陣太郎は、それを抱えたまま階段を上がろうとする。

その時、部屋から出て来て階段の所に来た真知子とぶつかったので、陣太郎は布団を落とし、自分もバランスを崩してその上に落っこちてしまう。

すると、階段に座った真知子が、その格好!と言いながら、倒れた陣太郎の姿を見て笑い出したので、陣太郎も、だらしなく足を組んでいた真知子のことを、あんたこそ何だい?その格好!と注意する。

すると、真知子は恥ずかしがり立上がるが、陣太郎のことが気にいたのか、あなたの部屋ここ?等と言いながら、互いに自己紹介し合うと、布団を運びあげるのを手伝ってくれる。

「三吉湯」と「泉屋」では、熾烈な値下げ競争が展開する。

15円、12円、11円、10円、9円、8円…、とうとう5円にまで値下げした「第一三吉湯」は客に溢れていた。

そんな客の呼び込みをやっていた浅利に、父ちゃん、何やってんの?と聞いて来たのは息子の健一だった。

集団入浴に付いて来たらしいので、おばはんには内緒だぞと注意する浅利。

三吉湯も泉湯も、風呂代の値下げに感謝する感謝状だけが山のように送って来るが、当の主人たちは、メザシを食ってやせ我慢をしていた。

竜之介は、最近油分がなくて骨がギシギシして来たので、分厚いトンカツか中トロでも喰いたいよとぼやき、恵之助も良いな…などと乗りかけるが、急に我に帰り。思い出させるんじゃねえよ!と叱り、今度、俺たちで三吉湯に客として行ってみねえか?湯船の中にウ○コするんだ。そうすりゃ、大腸菌がうようよ…などと言い出したので、竜之介が呆れると、さすがに公衆衛生上まずいか…と恵之助も反省する。

一方、「第一三吉湯」の方でも、拭かし芋に納豆だけと言う食事が続き、さすがに、次女の二美(辻さとみ)が、お芋ばっかり食べてると、学校でバスケットする時、力が入るので…、私、嫌だわ!と恥ずかしそうに文句を言う。

一子と二美が席を外した後、外から戻って来た浅利は、出入りの商人に聞いたんですが、とうとう泉湯は梅干しだけになりました…と敵の食事情報を三吉に伝える。

それを聞いた三吉は、早く「第三三吉湯」を作ろうにも資金がな〜…とぼやく。

値下げしているのでさっぱり儲からなくなっていたのだ。

その時三吉は、松平さんは近々家督を継ぐと言ってたな…と思い出し、今、一子はいくつになったっけ?とハナコに聞く。

22になったと知ると、何ごとかを思案しだす。

その夜、竜之介は、陣太郎に誘われ、屋台で焼き鳥を御馳走になっていた。

日頃ろくな物を喰ってなかった竜太郎は、がつがつして焼き鳥を食う。

そんな竜之介に陣太郎は、最近は予防医学が発達して人間の寿命が延びた。その結果、人間誰しも、のんべんだらりとして生きるようになってしまった!などと自説を披露していたが、竜之介はそんな話など聞いてはおらず、ひたすら、焼き鳥をくすねては、横の袋に投げ込んでいた。

その後、竜之介は、「第三三吉湯建設用地」で会った一子に、屋台から持ち出して来た焼き鳥を食わせる。

一子の方も久々の肉なので、喜んで食べると、お礼にキスをしようとするが、竜之介の方はもう満腹だったので、ゲップをしそうでキスを避けながら、しかし、馬鹿げた話だな〜、宇宙ロケットが飛ぶ時代に…。カズちゃん、2人でこの不幸を乗り越えようよ!と言い、しっかり抱き合うのだった。

その頃、陣太郎の方は、とあるバーで、加納明治と会っていた。

新聞記者に見せようかなって思ってたんですけどね〜と言いながら、加納の日記を差し出し、1、2の3で加納が出した5万円と交換する。

金を無事手に入れた陣太郎は、さすが有名作家ですね、僕は暴力で取られると思ってたと余裕を見せる。

腹に据えかねていると言った表情の加納は、お前のことを小説の中で何もかも暴いてやる!と睨みつけて来る。

すると陣太郎、肩にかけて来たカメラを取り、だてにこれを持ってると思ったんですか?日記の中味は写真に撮ってありますから、俺を中傷したりすると、この写真が物を言いますよと逆に脅し付ける。

「来春荘」に帰って来た陣太郎は、手土産片手に真知子の部屋を訪ね、お近づきになろうと思いまして…と挨拶する。

そして、部屋の中に入れてもらった陣太郎は、真知子が勉強していた机の上のノートを一瞥し、樋口一葉論か…と呟いたので、ご存知なの?と真知子は驚く。

僕の本名は松平陣太郎で、世が世なら将軍になっていた家系ですなどと自慢する。

すると真知子は、徳川が名乗れるのは直系だけで、松平なんていくらでもいるわよ。寛政年間なんて57もいたんですから…と言って来たので、陣太郎は戸惑う。

あなたどこの松平?と真知子が畳み込んで来たので、温州…と陣太郎が答えると、ああ、島根県の松江ね…、私、国文学科よ。あなた、でたらめ言っているでしょう!と真知子は見抜く。

さすがに形勢不利と感じたのか、突然立上がった陣太郎は、今、俺、呼んだ?と窓の方に耳を向け、誰も呼んでないわよと言う真知子を無視し、は〜い!今行きます!などと一人芝居をしながら部屋を出て行く。

一方、泥酔して帰宅した加納は、不機嫌そうに出迎えた塙女史を睨みながら自室に戻ると、何と言う不埒な女だ!世の中なんでも理屈で通ると思っとる!とベッドの中でぼやきだす。

やがて、ムクリと起き上がった加納は、そっと塙女史の寝室へと忍んで行く。

そして、ベッドで寝ていた塙女史に襲いかかろうとするが、一瞬早く目覚めた塙女史は、何をなさるんです!と加納を突き飛ばす。

逆上した加納は、チンピラの詐欺師なんかに嘗められてたまるか!俺は日本人だ!人造人間じゃない!今日こそお前の合理主義を粉砕してやる!と言いながら、再度襲いかかろうとする。

すると塙女史は、いくら先生でも、非合法は許しませんと言い、忍ばせていた護身用の小刀を差し出す。

「第一三吉湯」では、栄養失調状態で体力がなくなっていた家族全員が並んで床に寝ており、ハナコなどは、身体がだるくて、だるくて…、一体どう言うことになるのか…と嘆いていた。

そんな中、三吉は無理して起き上がると、ふらつきながらも出かけて行く。

途中、商店街の中で泉恵之助と出会うが、互いににらみ合ったものの、双方力が出ないので、何もしないまま別れる。

三吉がやって来たのはジンギスカン鍋の店だった。

陣太郎を呼びだしていたのだった。

肉を懸命に頬張りながら、重大な話って何です?と聞いて来た陣太郎に、一子知ってるか?と質問する。

お嬢さんでしょう?なかなか優しそうな娘さんじゃないですかと陣太郎が答えると、あんたもそろそろ身を固めた方が良い。あの子を嫁にもらってくれないかと三吉は切り出す。

そして、真知子は浮気してたかな?と調査の結果を三吉が聞くと、品行方正で、勉強ばかりなんですよね…と陣太郎は答える。

浮気しないか…と、別れる口実が出来ないことにがっかりする三吉。

そんな三吉に、6ヶ月分くらいの手切れ金を渡して別れたらどうです。6万円でポンと手を打ちましょう!と陣太郎は勧める。

さすがに、6万と言う金額に戸惑う三吉だったが、三吉さんのような大物が!とけしかけた陣太郎、はい、決まった!良い気持ちでしょう!と一方的に話を終了させてしまう。

三吉も、この縁談がまとまれば、6万くらいすぐ取り戻せるからな…と呟いて納得する。

「第一三吉湯」に戻って来た三吉が、お茶をくれや!と声をかけると、ハナコが湯飲みに拭かし芋を突っ込んで持って来る。

何だこれは!と三吉は戸惑うが、側に寄って来た二美は良い匂いがする!と三吉の服の匂いを嗅ぎ、一子も、知ってるのよ!ジンギスカン食べたって!と睨みつけて来る。

三吉は内心の動揺を悟られまいと、うちの為を思って無理に食べて来たんだ!などと苦しい言い訳をする。

しかし、ハナコは、30年間も付き添って来た私を放っといて、自分だけ旨いもの食って…と恨みがましそうに愚痴りだす。

それで三吉が、陣太郎と一子の縁談を決めて来たと発表すると、驚いた一子は、嫌だ!あんなひらめみたいな顔の人!と怒りだす。

あんな人でもお屋敷に帰れば御大尽だ!と三吉が言うと、お姉ちゃんには良い人がいるのよ!竜之介さんよ!と突然二美がバラしてしまう。

それを聞いた三吉は、俺の計画をめちゃめちゃにしやがって!と激怒する。

その夜、「第三三吉湯建設用地」で落ち合った竜之介と一子は駆け落ちの相談をする。

しかし、逃げようにもお金が…と、竜之介が嘆くと、お金ならあるわ!と一子は持って来たバッグを見せる。

その中には、一円玉と五円玉ばかりが大量に詰まっていたので竜之介は驚くが、夕べの風呂代全部なの…、私、どうしても引っ越したくなったの!と一子は説明する。

そうした2人の様子を監視していた陣太郎は、いよいよ情勢は逼迫して来たな…と呟く。

その後、浅利と出会った陣太郎は、今まで身を隠していたのは、俺を殺そうとする奴に狙われていたからであり、作家とは会った。あの事故の被害者はおっさんだ。一ヶ月の重症だと言ったんだよと説明する。

すると浅利は、じゃあ、俺も何%かはもらえるなと喜んだので、証拠は日記帳だと陣太郎は教える。

三吉は「来春荘」に帰ると、真知子の部屋を訪ね、あんた三吉の二号やっているんだろ?とズバリ聞く。

あんな山猿親父のどこが良いんだ?あいつ、契約を破りたがっているよと続けた陣太郎は、あんた、「素十六」って知ってるか?と言い出す。

カス札ばかり16枚集まると強くなる。あんたも思い切って「素十六」にならないか?俺はそうやって生きている。君には一枚足りないだけだと陣太郎が言うので、何それ?と真知子が聞くと、これだ!と言った陣太郎は、いきなり真知子に抱きついてキスをする。

翌日、「第一三吉湯」では、政略結婚の犠牲になるのは嫌ですだって!と言いながら、ハナコが慌てて一子の置き手紙を三吉の所へ持って来る。

それを聞いた三吉は、泉湯の謀略だな!と激怒する。

その頃、全身包帯だらけの姿になった浅利が、加納の家の玄関チャイムを鳴らしていた。

応対に出て来た加納は、君が家礼の浅利さんかね?と言いながら、中に招き入れると、おとなしく写真を出したまえ!そうしないと警察に突き出すぞ!といきなり強気で脅して来る。

予想外の展開に戸惑った浅利は、警察嫌だ!と言いながら逃げ出そうとするが、追って来た加納から包帯をむしり取られ、素顔がモロ出しになる。

それを観た塙女史 は、先生!その男を逃がしてはいけません!この男、陣太郎とグルの男です!と呼びかけたので、二階に逃げ込んだ浅利を加納は、浅利が落とした松葉杖を使って壁に押し付ける。

陣太郎はどこにいる!と加納は問いつめるが、浅利は、知りません!と答えるだけだった。

三吉とハナコは恵之助を呼び出し、娘を返せ!と迫っていたが、恵之助の方も、お前の娘がたぶらかしたんじゃないか!と反論していた。

そんな大人たちに、お父さんたちが喧嘩ばかりしているからこうなったのよ!お姉ちゃんたち、心中するかも…などと二美が言い出す。

その時、電話が鳴ったので、恐る恐る三吉が出ると、相手は陣太郎で、お嬢さんのことでしょう?お二人の身体は私が預かっています。え?否、生きてますと言うではないか。

ほっとした三吉に陣太郎は、あ、それから、真知子の浮気を見つけました。6万円で話を付けましたと教える。

三吉から相手の名前を聞かれた陣太郎は、その相手?この俺!と言って電話を切る。

ハナコと、恵之助、二美は、三吉が運転する車で「早春荘」へ向かう。

一方、浅利、塙女史を乗せ、加納が運転する車も「早春荘」に乗り付け、両方の車は正面衝突寸前の所で停まる。

車から降りた全員は、真知子の部屋に飛び込むが、そこは既にもぬけの殻だった。

そんな中、一枚の手描きの地図が壁に貼ってあり、「御用の方は左記の所 陣太郎 真知子」と書き添えられていたので、全員急いでその地図に書かれた場所へと向かう。

そこは教会だった。

中に入ると、そこでは2組の結婚式が行われている所だった。

1組は、竜太郎と一子で、もう1組は、陣太郎と真知子のカップルだった。

協会内に乱入した一同はそれを観て騒然となるが、そんな中、御静かに!神様の御前です!と塙女史が叫んだので、全員取りあえず着席することにする。

万事休す!と娘の姿を見た三吉が嘆くと、仕方ないよ、父ちゃん…とハナコが諦めたように慰める。

三吉は真知子のウェディングドレス姿を見て、真知子!と思わず口走るが、あんた、あの人知ってるの?と隣に座ったハナコから聞かれたので、知らないととぼける。

中央に進み出た神父(藤田まこと)が、神への誓いを二組のカップルに確認し、アーメンと言うと、全員もアーメンと言う中、1人三吉だけは、ラーメン…とぼける。

塙女史は感激したかのように胸で十字を切り、ハナコは泣き出す。

そして、三吉と恵之助は、互いに気まずそうに見合うが、やがて自然に表情が緩んで行き、最後は愉快そうに笑い合う。

加納は、隣に座っていた塙女史の手の上に、自分の手をそっと置く。

そんな中、陣野助と真知子は一足先に出て行こうとしたので、三吉や加納がその後を追おうとすると、さっと振り向いた陣太郎が、若い2人を祝福してあげて下さいと声をかけたので、やむなく全員引き返し、竜之介と一子の結婚式にそのまま参列することにする。

教会の中は暗くなり、ステンドグラスの灯が映える。

外に出た陣太郎と真知子は、舞うように手を取り合って、互いに微笑み合うのだった。


 

 

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