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争闘阿修羅街

戦前のアクションスターハヤフサヒデト主演のアクション映画

ヒロイン役と並んでもその小柄さが目だつ俳優ながら、なかなかのイケメンとバイク運転術、そして命知らずのアクション根性で、全盛期のジャッキー・チェンばりの無茶なアクションに挑んでいる。

後の「怪傑ハヤブサ」(1949)の原型のような雰囲気もある。

ビルの屋上から張られた数百メートルのロープを、滑車も使わず(?)素手で握りしめて降りているように見えるお馴染みのサーカス芸のようなアクションや、ビルの屋上から屋上へと八双飛びのように飛び移る技、さらに今回は、迫って来る自動車の車輪の間に寝そべって身体を滑り込ませ、走る車にしがみつき、上半身でバンパーからボンネットに這い上がると言うインディ・ジョーンズ顔負けの荒技にまで挑戦している。

自動車のボンネットに這い上がると言うアイデアは、おそらく、「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」(1981)のインディ・ジョーンズアクションも、古い連続活劇かなにかをヒントにしていると思われるので、この作品でのアイデアも、何か外国映画をヒントにしたのではないかと思う。

もし、本作がオリジナルのアイデアだったとしたら凄いのだが…

話自体は古風なスパイもののような内容で、日本人科学者が発明した新製品をおそらく海外のスパイが盗もうとすると言うありふれたものなのだが、気の強いヒロインと主役ヒデトが出会った瞬間からいがみ合って互いに意地悪をしかけると言う子供じみた男女関係がもう一つの見物になっている。

そこに、大岡怪童と大山デブ子と言う戦前人気があったらしい男女デブ俳優のそろい踏みで、コミカルな部分を担当している。

大岡怪童は、デブにも関わらず身体は敏捷だったようで、コミカルな動きも自由自在。

デブ子の方もいかにものんきそうなデブキャラをパターン通り演じており、両者とも、子供に人気だったに違いないと思う。

映画自体も子供が大好きそうな単純な追いかけっこだし、男女関係も子供っぽく描かれていることから、最初から子供客を意識して作られていたのかも知れない。

無声映画で、途中で出て来る字幕もなかなか読みづらいのだが、内容が単純なこともあり、特に難解と言うことはない。

日本映画は戦後、このハヤフサヒデトの後を継ぐ、身体を張ったアクション映画があまり育たなかったのが残念な気がする。

無茶と言えば無茶で、一歩間違えたら、大怪我どころではすまない状況だったようにも見えるが、役者の安全意識などがあまり確立していなかった時代が生んだアクションと言うことだったのかも知れない。

余談だが、この当時の横文字表記は右から左だと思っていて、タイトルなどはその書き方なのだが、劇中に登場する「編集室」などの文字は、今と同じ、左から右に書かれている。

この書き分けはどう言う理由からだったのか?

当時から併用されていたことなのか?

戦前のことは分からないことだらけだ。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1938年、大都映画、吉村操原作+脚本、八代毅監督作品。

ビルの中にある新聞社の編集室

編集長の所にへこへこしながらやって来たのは、チビのヒデト(ハヤフサヒデト)とデブのデブ山(大岡怪童)

その2人を見るや、窓の外を挿し、もう昼だと叱る編集長。

遅刻してバツが悪い2人は、自分たちはまだ半人前なので、2人で一人前ですなどと弁解したので、ますます怒った編集長は、国家的な発明をした松村博士にその研究成果を聴いて来い!と命じる。

デブ山と2人で編集室を飛び出すと、ヒデトの運転するバイクにデブ山がニケツで股がり出発する。

ヒデトは後ろのデブ山に、松村と言う人には一度も会ったことがないんだが…と不安がるが、その時、横を追い抜いて行った乗用車が泥を跳ね上げて行ったので、ヒデトとデブ山の顔は泥だらけになる。

しかし、乗用車はそのまま走り去ってしまったので、怒ったヒデトは、再びバイクを走らせると、乗用車の前に回り込んで車を制止させる。

そして、後部席に乗っていた女性に、人に泥を撥ねといて、謝りもしないのはどう言うことだと文句を言う。

すると、小型カメラを持っていたその令嬢は、カメラを座席に置くとハンカチを差し出し、これで拭けばきれいになるでしょう?と小馬鹿にしたように言う。

あっけにとられたヒデトとデブ山は、渡されたハンカチで顔を拭くが、泥が広がっただけできれいにはならなかったので、不思議ね?あんまり変わんないわねと令嬢は嘲り、そのまま車は走り去ってしまう。

松村俊英の屋敷に着いたヒデトとデブ山は、応接間であんまり待たされるので、茶を持って来た女中に、早く博士に合わせてくれと文句を言う。

そんな2人の様子をカーテンの隙間から覗き見していたのは、さっき、彼らに泥を撥ねかけた令嬢、実は松村博士の娘章子(大河百々代)だった。

彼女は、二階から降りて来た父松村博士に、女中が客が待っていると伝えていた所に来ると、あんな連中に会うことないわ。それより、私と約束した別荘に行きましょう!と甘える。

早く発表して、それから別荘に行くよと答えるが、博士に付き添っていたメガネの助手は、技師長も別荘に連れて行き、そこで完成を急がれたらどうでしょう?と提案する。

応接間で待ちぼうけを食らわされていたヒデトは、暇つぶしに室内を写真機に収めていたが、その時、カーテンから覗き込む章子に気づいたので、あっかんべえをすると、章子も同じようにあっかんべえして来る。

その後、玄関先に出て来た章子は、手紙をヒデトのバイクに置くと、ガソリンタンクの栓を開け、ガソリンを地面に流してしまうと、父と同じ車に乗り込み出発する。

応接間の窓から外を眺めていたデブ山が、出発する車に気づき、助手から色々言い訳されていたヒデトに一杯食わされたぞ!と伝える。

急いで玄関を出て、バイクに股がったヒデトだったが、アクセルを拭かせてもエンジンがかからない。

不思議に思い、降りてハンドル付近に挟まれていた手紙に気づく。

そこには、「間抜けなあなたたちには見つかりっこないわ。12里先にガソリンスタンドがあってよ」とバカにした内容が書かれていた。

何の収穫も得られず、すごすごと編集室に戻って来た2人に、編集長は、松村博士の娘章子から届いた封筒の中に入っていた1枚の写真を見せる。

そこには、顔中泥だらけにしたヒデトとデブ山の顔が写っていた。

人の写真を撮る仕事人が人に写真を撮られてどうするんだ!と又、編集長の雷が落ち、もう1度機会をやるから、別荘に行って来いと命じられる。

慌てふためいたヒデトは転んで編集長の膝の上に乗っかってしまったので、突き飛ばされ、編集室から飛び出て行く。

山奥にある別荘の二階では、松村博士と技師長が設計図を前に熱心に討議していた。

そこに、お茶を持って行こうとしていた女中(大山デブ子)を、顔半分に火傷の痕があり、出っ歯で猫背の不気味な別荘番が止め、女中風情が二階に上がるんじゃないと睨みつけ、自分がお盆を奪い取って二階に持って行く。

お茶を受け取って一服した松村博士が、章子は?と聞くと、別荘番は、散歩に行かれましたと答える。

章子は、近くの河原で油絵を描いていた。

そこに近づいて来たのがヒデトとデブ山。

お上手ですね。僕が先生になって点を付けましょうと言葉をかけながら絵筆を借りたヒデトは、キャンバスの絵の上に「丙ノ丁」と大きく書くと、別荘で撮った、あっかんべえをする章子の写真も進呈する。

怒った章子が立上がると、弾みで絵がイーゼルごと川に落ち流されてしまう。

ヒデトは秋子をお嬢様だっこすると、川の向こうに渡してやる振りをして、途中で手を離し、章子を川の中に落としてしまう。

さすがに気の毒がったデブ山が、川の中に入り、秋子を助け起こすと向こう岸まで連れて行くが、怒った章子から突き飛ばされたので、デブ山も川の中に尻餅を付き、ずぶぬれになる。

別荘にやって来たヒデトを出迎えた松村博士は、翌こんな山奥の別荘が分かったねと感心しながらも、まだ研究発表の段階ではないんだと説明する。

しかしヒデトは、もうその手には乗りませんよと反論すると、研究が完成した時には君に真っ先に報告する約束をするよと松村博士は笑う。

そこに戻って来たのが、ずぶぬれになった章子だったので、どうしたんだ?夕立にでもあったのか?と松村博士が聞くと、同じくずぶぬれになったデブ山もやって来て、大変な、部分的な夕立が…と答える。

その夜、ベッドにヒデトと並んで寝ていたデブ山だったが、途中でベッドから落ち、寝ぼけたまま、部屋の椅子を使いあれこれポーズを変え寝ようとしていた。

一方、女中部屋で寝ていた女中は、布団の中から出した左腕が、自分がしかけたねずみ取りに挟まってしまい、痛さで飛び起きる。

その後、枕元に置いてあったサンドイッチを食いながら、再び寝ようと横になった女中だったが、何か人の気配を感じ、そっとドアを開けて廊下を覗くと、そこにはナイフを持ったあの不気味な別荘番がおり、いきなり振り向いて睨んだので、恐怖のあまり女中は気絶してしまう。

ナイフを握った別荘番は、そのまま階段を登って二階に向かう。

女中は目が覚めると、旦那様!大変です!と大声を上げたので、就寝中だった章子も松村博士も目覚める。

二階にやって来た松村博士と章子は、絨毯の上にこぼれていた水と割れたコップ、そして、ソファの上でうつぶせに死んでいる技師長を発見する。

驚いた松村博士は、おい、新聞記者を呼んで来てくれと女中に頼む。

女中はすぐさま、ゲストルームのベッドで寝ていた2人に、事件です!と知らせるが、寝ぼけ眼で先に起きたデブ山は、こんな山奥の事件なんて記事にならないよと笑う。

すると女中が、殺人事件でも?と言ったので、それを聞いたヒデトとデブ山は飛び起きる。

別荘番が技師長を殺して逃げたんですと女中が説明すると、すぐにヒデトとデブ山はバイクに乗って、逃げた別荘番を追うことにする。

その頃、松村博士の元に見知らぬ仲間を連れてやって来たメガネの助手は、いきなり章子を捕まえ連れさそうとしたので、気でも狂ったのか?と博士は驚く。

すると助手は、別荘番は自分の子分に成り済まさせていたんだ。後々面倒だから、このじいさんも一緒に連れて行け!と子分は命じる。

その頃、別荘番を見つけたヒデトとデブ山は、別荘番の片足にロープを結びつけ、そのロープの端をバイクに乗ったデブ山が肩にかけて引きずって来る。

別荘に戻って来ると、デブの女中が待ち構えており、目の前を走り去った車を指差しながら、今の車に旦那様とお嬢様がさらわれました!と知らせる。

驚いたヒデトとデブ山は、ロープの先を女中に握らせるとバイクを走らせ車の後を追う。

線路の真ん中をバイクで走るヒデト。

その頃、別荘番が立ち上がり迫って来たので、怯えた女中は逃げようとするが、ロープを引っ張ったので、別荘番は足をすくわれ転んでしまう。

それに気づいた女中は、急に強気になり、何度も立上がってくる別荘番の足のロープを引っ張って転ばす。

別荘番は変装用の別派の入れ歯を外すと、凄い形相で睨んで来たので、さすがに怯えた女中は、ロープをその場に放り出して逃げる。

別荘番は下を見ながらロープをたぐっていたので、その先を持っていた女中がいつの間にかいなくなっていることに、ロープの端が来るまで気づかなかった。

とあるビルの中の隠れ家にやって来たメガネの助手は、酒を飲みながら、別荘番が来るのを待っていたが、ビルの下にやって来たのはバイクに乗ったヒデトとデブ山だったので、それを窓から観た子分から聞くと、自分は博士と娘を連れて先に港へ行っているから、お前たちは、別荘番が到着したら後から合流しろと子分に命じて部屋を後にする。

ヒデトとデブ山がビルの一室に入って来ると、待ち構えていた子分たちが一斉に襲いかかる。

ヒデトは、得意の柔道とボクシングで、次々と子分を殴ったり投げ飛ばして行く。

その時、敵に殴られて窓際に倒れ込んだデブ山は、下の道を走り出す車を発見、大変だ!お嬢さんと博士が来るまで連れ去られた!とヒデトに教える。

ヒデトは、デブ山に後から付いて来い!と叫ぶと、自分はビルの屋上に向かい、そこから遠方の別のビルに張り渡されていたロープを握り、滑るように落下して行く。

さらに、ビルの屋上から屋上へとジャンプを続け、先回りをして逃げ去った車を追跡する。

デブ山は、屋上で、賊の子分たちが去って行った後に残されていたカバンを拾い後を追う。

さらに、川の上に張ってあったロープを伝い、対岸のビルの上に移動するが、その際、大量のビラを抱えていた男とぶつかってしまったので、ビラが川の中に四散する。

ヒデトもバランスを崩し川の中に落下、川縁に上がると、道路の真ん中に走り出て縦に寝そべると、向かって来た助手の車の車輪の間に身体を足先から入れ、腕力で上半身をボンネットに持ち上げる。

車を降りた松村博士と章子は、設計図が入ったカバンを失い嘆いていたが、そこにデブ山がバイクで駆けつけ、持って来たカバンを渡すと喜ぶ。

デブ山は、子分たちと戦っているヒデトの勇姿を撮ろうと写真機を構えるが、戦っている子分とぶつかり、写真機を落としてしまう。

ヒデトは、メガネの助手とその子分相手に、パンチと背負い投げの連続で孤軍奮闘していた。

デブ山も参戦しようとするが、頭に石がぶつかって来てあっさり気絶する。

敵を全員叩きのめしたヒデトは、子分たちの身体の下に埋もれていたデブ山を助け起こすが、意識朦朧としていたデブ山は何度も倒れる。

その後、ヒデトとデブ山がバイクで去って行く姿を、誘拐された車の横に立ち、複雑な表情で見送る章子の肩に、松村博士はそっと手を置いて慰める。

すると、帰ったと思ったヒデトのバイクが戻って来て、立っていた章子と松村博士に泥を撥ねて行く。

博士と章子の顔は泥だらけになるが、更に戻って来たヒデトがハンカチを渡しながら、これで拭けば元通りだろう?と笑って嫌味を言う。

悔しがった章子が手で顔を拭ったので、泥がかえって広がってしまう。

そんな章子に近づき、お姫様だっこしてやったヒデトは、近くの噴水の水に章子の頭を押し付ける。

顔中水浸しになった章子は膨れるが、その時デブ山が、肝心の写真を一枚も撮ってなかった!と気づく。

するとヒデトが、大詰めは俺がトラさてやると良い、又、章子をお姫様だっこしてポーズを取る。

複雑な表情でそれを撮ろうとしたデブ山だったが、何故か転んでしまう。

それを観て笑う松村博士。

その後、車の横でデブ山と松村博士は、近くの公園の芝生ですっかり良いムードになって身を寄せ合うヒデトと章子の姿を遠くから羨ましそうに眺めるのだった。


 

 

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