白夜館

 

 

 

幻想館

 

青春の風

吉永小百合、山本陽子、和泉雅子と言った日活3人娘に、お馴染みの浜田光夫が絡んで繰り広げるドタバタ調のラブコメ映画。

「花の三銃士」と言う小説が原作らしく、フェンシングをテーマにした話なのかな?と思っていると、ほとんど関係なかったりする。

今観ると、ひげ面の杉良太郎や、逆に口ひげのない藤竜也などと言った、意外な若い頃のスターと対面出来る面白さもあるが、当時の反応はどうだったのだろう?

気になるのは、この手のラブコメの当時の客層である。

若い美女たち目当ての青年たちがメインだったとすると、当時、この手の少女マンガを読んでいるようなドタバタ恋愛劇は受けたのだろうか?と言う素朴な疑問が起きる。

今でこそ、この手のラブコメに慣れた男性層も大勢いるし、映画館に詰め掛ける少女たちも大勢いるのだが、はたして当時はどうだったのか?

若い女性層がメインの客層だったとすると、当時、その層が、どのくらいの数、日活映画を観に来ていたのかが気になる。

軽い娯楽映画としては出来も悪くなく、若い男女とも楽しめそうな楽しい内容なのだが、意外とこの手の作品に限って両方の層から関心を持たれないケースもないではないからだ。

この手のウエルメイドなプログラムピクチャーが、当時は十分に客を集められなかったことが、日活を傾かせた遠因だったのではないかとも思う。

60年代後半ともなれば、TVアイドルの方が大衆の憧れの的になり、もはや映画メインのアイドルが育ち難くなっていた時代だったのではないかと言う気がする。

この映画のヒロイン役を演じている小百合さんは、ベリーショートの髪を軽くカールさせた軽快な髪型である。

劇中のキャラクターの性格も、男勝りの勝ち気な上に、嫉妬深く、気の弱い男にもあれこれ口を出して来る未婚の世話女房タイプ。

これを20前後の頃の小百合さんが演じるのだから、どう考えても可愛くないはずがない…のだが、何故か今ひとつ魅力的に見えない。

正直、この時期の小百合さんは、実年齢以上にベテラン風の落ち着きが備わってしまっているからかもしれない。

この作品でのヒロイントリオの中で一番可愛く輝いて見えるのは山本陽子さんである。

山本さんが一番後輩で、年も若かったからかな?と思って調べてみたら、何と3人の中では一番年上だったので驚いた。

キャラ設定もわがままなお嬢さんと言うことで、着物姿なども披露しており、特別に子供っぽく描かれている訳でもないのだが、一番若々しく見えるのだ。

その分、小百合さんと和泉雅子さんは、お姉さんっぽいと言うか、大人びて見えてしまう所がある。

大人びて見えるからとか、コメディタッチの役を演じているから魅力的ではないと言うことではないだろうが、何か、この作品での小百合さんと和泉雅子さんは今ひとつこちらの心に響いて来ない部分がある。

小百合さんが演じているヒロインは別に嫌なキャラクターではないし、どこか「ペリーポピンズ」のような雰囲気もあり、魅力的になりそうなのだが…、不思議だ。

ひょっとしたら、山本陽子さんのあまりの瑞々しさが、予想以上に落ち着きが出てしまっている小百合さんを喰ってしまったと言うことかもしれない。

外国人の子供ジョージの部屋に、「サンダーバード」の劇場版(1967)に登場した宇宙船「ゼロX号」のプラモデルの大きな箱が置いてあるのが時代を感じさせるし、「二十四の瞳」でも知られる小豆島が出て来ると言うのも珍しいような気がする。

浜田光夫さんのおとぼけ演技振りも楽しい。

ちなみに、小百合さんが演じる光子のニックネームは「ピカちゃん」、「いつでも夢を」での愛称と同じである。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1968年、日活、京都伸夫「花の三銃士」原作、才賀明脚色、西村昭五郎監督作品。

神戸港

松蔭女子学院

フェンシング部で活躍していたピカちゃんこと楠本光子(吉永小百合)、ネコちゃんこと小林峯子(山本陽子)、ラブちゃんこと風見愛子(和泉雅子)は、それぞれマスクを脱ぐと、部室へ戻るが、光子がその窓の所に子ネズミががいることに気づくと、全員悲鳴をあげる。

タイトル(小豆島の中の階段を登る郵便配達員の様子)

一年後…

光子は、小豆島の自宅の縁側で、父親で画家の楠本洋策(小沢栄太郎)と将棋をやっていた。

せっかちな光子は、自分が優勢な事もあって、うちのいただきや!まだ考えてるの?などとのんびり屋の父親の熟考する態度にいら立っていたがが、光子はせっかちでいかんとお茶を運んで来た母親の由起(坪内美詠子)にぼやいてみせる。

その時玄関に誰か来たので、光子が出てみると郵便配達(千代田弘)が速達を持って来たことに気づく。

速達の相手は、神戸のクーパーからで、ハウスキーパーを1人紹介して欲しいと言うものだった。

週5日制で、月3万の報酬と言う条件は悪くなかったので、早速、洋策と光子は、私たち、島に来たばかりだし…と戸惑いながらも、何人か心当たりの娘を候補者として言い合うが、それを聞いていた光子は、片っ端から難癖をつけて行き、自分が一番ぴったりの人を知っている。美人で賢くて…、神戸のことを良く知っているし、その方のご両親も大変理解のある方だし…などと褒め讃え、そしたら、うちが行ったらあかへん?等といきなり言いだす。

かくして再び懐かしの神戸に戻って来た光子は、早速「Santica Town」で愛子と再会すると、「ピーコック」で4000円のバッグを買う彼女の買い物に付き合う。

どうして1人で戻って来たのか聞かれた光子は、島の暮らしが退屈でたまらなかったのよ!と本音を漏らしたので、親不孝な子やな~…と愛子は呆れる。

2人は、近くの「UC上島コーヒーショップ」で一服することにする。

愛子は、光子がよりによって前に自分が住んでいた家のハウスキーパーに志願したこと自体に驚いていた。

しかし光子は、住み込みなので衣食住不自由ないし…などとお気軽な気分で答える。

しかも、シュークリームのお代わりまでする大食漢振りなので、あんた筆無精やけど、ネコちゃん、見習いなさい。兄さんに良く手紙を寄越しているわよと愛子は教える。

ちょうどそんな「Santica」が、最近は元町と肩を並べるくらい賑わって来ましたなどと美人の加山令子(橘和子)にガイドをしながらやって来たのが、愛子の兄である風見圭介(浜田光夫)だった。

圭介は、偶然にも、光子と愛子がいた「UC上島コーヒーショップ」に入って来たので、それに気づいた愛子がお兄ちゃん!と呼びかける。

圭介は、きょろきょろして、妹を発見すると、一緒に光子もいることに気づき、光子はんやないですか!と嬉しそうに近づいて来る。

圭介はすぐに、令子を待たせているテーブルに戻ったので、妹の愛子は、兄は今、朝日アクラリウムと言う会社に勤めていると光子に教えると、自分はもう行かなければいけないと断り、店を後にする。

その直後、又光子のテーブルに近づいて来た圭介は、愛子がいなくなったことに気づき戸惑う。

あの方を放っといて良いの?と光子が嫌味を言うと、あの方は社長も姪御さんで、東京から来たので頼まれて案内しているだけだと圭介は慌てて弁解し、何しに来たのかと聞く。

光子が、クーパーさんのハウスキーパーですと答えると、僕は反対です。僕は今でも光子さんが好きなんです!と圭介は言い出す。

しかし光子は、ネコちゃんからいつも手紙もらっているんでしょう?と嫌味で返し、早う行ってあげんと社長はんに叱られますと言うと、戻りかけた圭介に、忘れ物!と言いながら、ちゃっかり自分たちの飲み食いしたビル(請求書)を渡す。

勤めているレンタカー会社に戻って来た愛子に、畑中主任(川地民夫)が、もう1人お客さんが来てるよと教えてくれるが、そのお客とは、何とネコちゃんこと峯子だった。

峯子が言うには、お父さんと喧嘩をして家出して来たらしい。

新しい勤め先であるクーパーの家、実は前に自分が住んでいた屋敷に向かう坂を上っていた光子は、途中で「いかるが牛乳」の配達車が追い抜いて行ったので、運転していた馴染みのゴロちゃん(長浜鉄平)に声をかける。

楠本先生のお嬢さん!とゴロちゃんは驚き、今度はハウスキーパーとして前の屋敷に戻って来たので宜しく!と聞くと更に驚く。

屋敷で光子を出迎えてくれたのは、クーパーの妻エリザベス夫人(イーデス・ハンソン)だった。

家の中を案内される光子は、かつての父親のアトリエに来て、感激していた。

自分の部屋として当てがわれた部屋も、前は納戸だったんですよなどと説明しながら、光子は懐かしさで一杯になり、不満を言うこともなかった。

そんな中、物音に気づいたエリザベス夫人と光子は、おなかが空いて食べ物を探していた息子のジョージだと気づく。

夫人はジョージの行儀の悪さを叱ると共に、新しいハウスキーパーとして光子を紹介するが、ジョージは、フン!と鼻であしらって自分の部屋に戻って行く。

そんなジョージを、エリザベス夫人は、アメリカンスクールの2年生なんだけど、1人っ子なので小さい頃からわがままなのと教える。

自室に戻ったジョージは、机でマンガを読んでいたが、いきなり光子が入って来たので、慌ててアメリカンスクールの教科書を拡げ、マンガを下に隠す。

しかし、おなかが空いたとさっき言っていたジョージを思い、菓子パンをこっそり持って来てやった光子が、好奇心からアメリカンスクールの教科書を手に取って観たので、下に隠されていたマンガを見つけてしまう。

すると光子は、それは「忍者影丸」ね!と言い、お姉ちゃん、学校時代フェンシングの選手だったのよと言いながら、ジョージが持っていた玩具の刀でポーズを取ってみせる。

その時、表でクラクションの音が聞こえ、ジョージがパパだ!と喜んだので、慌てて光子は玄関を出て、帰宅したクーパー(E・H・エリック)に挨拶に行く。

クーパーは、良く知っている光子との再会を喜び、抱き寄せると額にキスをするが、それを玄関から観ていたエリザベス夫人が、ダーリン!と不機嫌そうに声をかけたので、クーパーは慌てて光子から離れる。

外出した光子に、ピカちゃんじゃないの!と声をかけて来た者がいるので振り向くと、旧友の峯子だったので光子は驚く。

父親から無理矢理変な詩人相手にお見合いを勧められたので、家出して来たと説明した峯子は、今、圭介、愛子兄妹のアパートにいるのだと言うので、光子は愛子のアパートに向かう。

すると、髪をセットしながら、どなたですか?などと顔を出して来たのは圭介だった。

部屋の奥には、まだ布団が敷きっぱなしで、圭介もパジャマ姿のまま。

上がり込んだ光子は、壁にかかっていたコートに目を付けると、ええコートやね。これラブちゃんの?と聞く。

そして、外国人の家庭と言っても、日本の家庭と同じようなものよとクーパー家の内情を教えた光子は、圭介君、何かうちに話があるのと違う?と聞いてみる。

すると圭介は、言うても構いません。僕今度正社員になるんです。それで、光子さんに正式に結婚の申し込みをしようと思うんたんですけど、止めました。光子さんの給料が3万円、僕は正社員になっても2万2000円にしかなりませんから…などと言うので、うちはあんたのそう言う所が嫌なんや!と弱気な圭介を叱りつける。

そこに峯子がかえって来たので、慌てた圭介は、あんな、ネコちゃんが俺んちに置いてくれないと、布引の滝に飛び込むから言うさかい…と光子に弁解する。

すると、峯子はいきなり、圭介さん、令子さんとお見合いしたんでしょう?等と言いだしたので、それを聞いた光子はかっとなり、うち、帰ります!と言うと、外に飛び出す。

慌てた圭介は、パジャマ姿のまま外まで追って来て、社長に言われて仕方なくやっただけなんだと懸命に言い訳するが、もう騙されません!会社なんて、辞めさせられたら辞めさせられたでええやないの!そないにまでして正社員にならんといいんや。圭介君!男になりさない!そんな人に私に求婚する資格はありません!と言い捨てて、足早に帰って行く。

そこまで言われた圭介は一大決心をすると、アパートに戻り、峯子に、今日限り、この家を出て下さい、あなたが出て行かないなら、僕の方から出て行きますから…と頼む。

すると峯子はしょげるどころか、ほんなら四国へ帰ります、お見合いして、はっきり断って来ます。こうなったら女の意地や!うちかてピカちゃんには負けとうないわ!と、かえってファイトを燃やしてしまう。

帰宅途中だった光子は、ジョージが一人ヨーヨーをして寂しそうにしている姿を見かけ、どうしたの?と声をかける。

ずるとジョージは、僕、将棋、分からへんもん…と言う。

見ると、近所の子供たちはみんな集まって将棋に熱中していた。

ジョージを連れて屋敷に戻ることにした光子は、将棋を教えてやると言い、お姉ちゃんに習ったら、すぐあんな子たちに勝てるようになりますと励ます。

屋敷に入る時、玄関の前に、薄汚い浮浪者のような格好の男がうろついているのに光子は気づかなかった。

帰宅すると、エリザベス夫人は、今夜は、ダーリンが友達とポーカーですってと迷惑そうに伝え、準備をするように指示する。

その時、玄関チャイムが鳴ったので、光子が出てみると、汚いなりにひげ面の男が立っていたので驚くと、光子さんですね!岩上岩太(杉良太郎)です!楠本先生にガンさんが来たと言って下さいとその男が言うではないか。

光子は、そう言えば3年前、自宅だったこの屋敷にやって来たガンさんのことを思い出し、どこに行ってたんです?と懐かしそうに聞くと、今まで沖縄に行っていたと言う。

そこにやって来たエリザベス夫人は、誰?フーテン?とガンさんの格好を観て迷惑そうに聞いて来る。

絵描きさんですとガンさんを紹介した光子は、ガンさんには、こちらの奥さんですとエリザベス夫人を紹介し、今、私、メイドしてるんです。両親は小豆島に引っ越したんですと教える。

それを聞いたガンさんは困惑し、今夜この家に泊めて頂けませんか?と頼んで来たので、1晩くらいやったら奥さんに頼んでみます。その代わり、庭掃除くらいやってもらわなければ行けないですよと光子が答えると、沖縄では墓掘りまでやりましたから!とガンさんは笑う。

その後、光子は約束通り、ジョージに将棋を教える。

ジョージは、庭で犬小屋の掃除をしているガンさんのことを変な人だねと光子に囁きかける。

すると、ピカちゃん!凍り持って来て頂戴!とエリザベス夫人の声が聞こえたので、光子は慌てて、子供部屋を飛び出して行く。

そこでは、クーパー夫妻と友人に混じって、ガンさんもちゃっかりポーカーゲームの仲間に入っており、酒を飲みながら、フルハウスで勝ってしまう。

翌朝、アパートで兄の圭介に、ネコちゃんは四国へ帰ってそうやね?と愛子が聞くと、想う人には想われず、想わぬ人に想われて…か…と、圭介は哀しそうに呟く。

女としてはネコちゃんの方が有望やないかと思うてるんやけど…と愛子は勧めるが、お前かて妹ならもっと協力してくらなくちゃ…と圭介は情けなさそうに愛子に頼む。

愛子は、そしたらお兄ちゃん、思い切って家を出てみたら?追いかけるばかりじゃなく、今度は向うから追いかけさせるのや。ピカちゃんはそう言う男に弱いんや!とアドバイスする。

すると、圭介は、急に「王将」の歌を歌い始める。

その頃、ジーンズ姿の光子の方は、屋敷の中を浪花節をうなりながら掃除機をかけていた。

すると、エリザベス夫人が呼んで、あんた、帯の絞め方分かる?と言いながら、自分で着物を来ていたので、着物はちょっと…と困りながらも、やってみます!と言って帯留めを手伝う。

エリザベス夫人は、そんな光子に、あんな歌を大きな声で歌わないで頂戴と言うので、浪花節は立派な日本の歌です!と光子が抗議すると、ジョージが真似てして歌って困るからだと言う。

着物を着終わったエリザベス夫人は、庭で犬のドンの世話をしながら、義理と人情のしがらみで~♪などと唸っていたジョージを呼び、一緒に出かけて行く。

坂道を下って行くエリザベス夫人とジョージとすれ違う形で、光子を訪ねて来たのは愛子だった。

奥さんは学校で集まりがあるんやと教えて愛子を出迎えた光子は、壁にかかっていた絵を、ガンさんがくれたんや。獣のような匂いがし、神秘的な目をしていて、圭介さんなんかよりたくましいんやと言う光子。

圭介君は?と光子が聞くので、家を出て旅に出たんや。行方不明になったんや、会社を辞めて…と答える愛子。

すると、アホや…、そんな真似して…と光子が呆れたので、心配?と聞き返した愛子は、琵琶湖の養鶏所をやっている友達の家に行ってるらしいで…と打ち明ける。

圭介に、養鶏所をやっている友人の梅津健吉(藤竜也)が、ひよこの雌と雄の見分け方を教えていると、健吉の姉の千枝(渋沢詩子)が、甘いもん買って来ましたからどうぞと圭介だけを奥の間へ誘う。

千枝は若くして夫に先立たれた未亡人だった。

たくさんの栗まんじゅうを圭介に勧めながら、圭介さん、決まった方、いてはりますのなどといきなり聞いて来る。

いてません。好きな人はいるけど、こっちが鬼ごっこの鬼にしかなれず、追っかけるばかりですと圭介が答えると、彼女を鬼にさせる方法教えてあげましょうか?と答えた千枝は、これや!といきなり近づき、圭介の手を握ると、浮気!と耳打ちする。

彼女、必死になってあんたを取り返しにくるわよと千枝はにじり寄って来る。

その頃、光子は、「丹波ちくさん」と書かれたトラックの助手席に乗せてもらい、圭介がいる養鶏場に向かっていた。

一方、圭介に迫っていた千枝は、テーブルの茶を圭介の正座した膝にこぼしてしまう。

慌てる圭介に、千枝は謝りながらも、これ脱ぎよし等と言い、ズボンを引きずり降ろそうとする。

その時、「若狭養鶏場」に光子が到着する。

健吉に連れられ、奥の間にやって来た光子は、そこでズボンを脱がされ、上着にパンツ一丁と言う珍妙な格好で座っていた圭介を目撃する。

そこへ、ズボンを持った千枝が出て来たので、怒った光子は養鶏場を飛び出して行く。

圭介は、パンツ姿のまま慌てて光子を追いかけて来る。

あの人、誰です?と光子がそっぽを向いて聞くと、この家の友人の姉さんですと答えた圭介は、僕がセクサーになったら他の養鶏場を持たせてくれる言うてくれてるんです。セクサー言うのはひよこの雄と雌を見分ける仕事ですと必死に言い訳する。

うちのために仕事辞めた聞いたから気の毒うなってやって来たのに、今後はひよこのお尻を見るなんて…と光子が怒るので、セクサーは立派な仕事ですと圭介も反論し、光子さん、結婚して下さい!と路上で申し込む。

しかし、光子は、そんな格好でプロポーズするなんて!と怒るので、人間は見かけではありません。中味です!と圭介は言い張る。

それでも光子は、お断りします!あんたはあの未亡人と結婚して、セクサーでもなれば良いじゃない!それ以上つきまとうと声を上げますよ!などと言うので、圭介も、どうぞと言うと、光子は本当に、お巡りさ~ん!痴漢です!と大声を張り上げたので、たまたま近くを自転車で通りかかった老巡査(玉村駿太郎)は魂消て転んでしまう。

その後、光子は、レンタカー会社で、カップル(市村博、佐藤サト子)にあれこれ説明をしていて送り出していた愛子に会いに来る。

うち、明日から旅に出るわ。休暇もろうて島に帰ります!と光子は伝え、今のカップルが、婚前旅行だと聞いて、世の中には幸せな人もいるもんやね~とため息をつく。

うち求婚されたんや。でも妹のあんたには悪いけど、あの人、サイテーやなと言うので、愛子も、それじゃあ、しゃあないね…と諦め顔。

うち、小豆島へ帰って巡礼でもやって観ようと思うの…、今までの生活の汚れを落として来る!と息巻く光子は、浪花節を歌いながら犬小屋の掃除をしていたダーリンをエリザベス夫人が叱っていた屋敷に戻る。

光子から訳を聞いたエリザベス夫人は、巡礼なら仕方ないわねと、あっさり休暇を許してくれる。

ジョージと将棋を教える光子は、きっと帰って来ると約束し、寂しがるジョージに秘密を教えてあげると言うと、子供部屋のレンガ壁の一つが抜けて、秘密の隠し場所になることを教える。

そして、お姉ちゃん、きっと帰って来ると、指切りげんまんも教えてやるのだった。

その頃、レンター会社では、畑中主任が後輩で週刊誌記者の田所大作(川口恒)と愛子を前に、この人の友達が今度、四国巡礼の旅をするらしいので、会社PRと絡めた企画としてどうだろう?現代的なものと伝統的なものの組み合わせが面白いと思うんだが?と話していた、その話を聞いていた愛子は、うちが行ったらあきませんか?うち、ピカちゃんのことが気になるし、モデルも1人より2人、うち美人なので写真写りもええ思いますけど?などと図々しく主任に売り込む。

連絡船で久々に小豆島に戻って来た光子は、海岸でキャンバスを前に絵を描いていた父を見つけ、近づいて行く。

まさか幽霊じゃないだろうな?といきなり戻って来た光子の顔を見た楠本洋策は驚き、何かやって首になったか、嫌になって逃げて来たか…、どうせ長続きせんやろうとママと話しとったんやと言うので、光子は、1週間の休暇をもらっただけです。パパも寂しかったでしょう?パパかて寂しかったと言いなさい!などと明るく答える。

帰宅した光子は、やっぱり美味しいわね、薪で炊いたご飯などと言いながら、ぱくぱく昼食を食べる。

ガンさんが、半年分もの薪を割って行ってくれたんで助かった。ガンさんは四国へ行ったよと洋策は言う。

おかずを取りに光子が台所へ行った間、母親の由起は、あの子、一体何を死に帰って来たんでしょう?何かあのでしょうか?と心配するので、あんなにはしゃいどるじゃないかと洋策が言うと、あの子は特にはしゃぐような子じゃないんですよと由起は心配する。

苦労性だね、ママは…と呆れた洋策は、その後、光子と共に釣りに行き、ママが心配していることを光子に伝え、ところでお前、圭介君のことはどうなった?お前が神戸に行ったのは、一つは圭介君の為やと思うとるんだがねと聞いてみる。

お前ももう21だ。自分のことは自分で考えられるはずだ。一時の感情に流されてはいかん。結婚の相手は長続きする奴選ぶんだ…と言い聞かしていた洋策だったが、光子の竿に魚がかかったので、それを引く手伝いをするうちに逃げられてしまい、ほら、お前がぼやぼやしとるから、魚にまで逃げられてしもうた!とぼやく。

一方、家で台所仕事をしていた由起は、玄関先で、巡礼のご詠歌が聞こえて来たので、お布施を渡そうと出てみると、笠を上げて顔を見せた巡礼が、おばさん!うちよと脅かす。

巡礼姿でそこにいたのは愛子だった。

1人?と由起が聞くと、1人じゃないのよと愛子は言い、側で写真を撮っている田所を紹介する。

そこに、洋策と一緒に釣りから戻って来た光子も愛子を観て驚く。

家に上げられた愛子と田所は、週刊誌に載せるPR用に光子と共に巡礼に行きたいと説明し、この人、お兄ちゃんと喧嘩をして帰って来たのよ。今頃巡礼でもしているのかと思ったら、釣りなんかして…と愛子が呆れてみせると、聞いていた洋策は、ほお、圭介君と喧嘩をね~…と含み笑いしながら光子の方を見る。

田所は壁にかかった絵を褒める。

四国にはうちの支店もあるので…と愛子は巡礼に行く説明をするが、黙って聞いていた光子は、うち、行きません!とだだをこね始める。

しかし洋策は、せっかくラブちゃんが心配して来てくれたんやし、人の親切を無駄にしてはいけませんと言い聞かせる。

かくして光子は、愛子や田所と一緒に四国へ巡礼に出かけることになる。

港にママと見送りに来た洋策に、パパありがとう。うちもう21や。四国に渡ってから、自分のことを考えてみるわと言い残し、船上の人になる。

出航した連絡船を見送る由起が、来たばかりなのに…と寂しがるので、この方があの子の為に良いんだよ。会いたかったらいつでも会えるんだから…と洋策は言い聞かす。

その頃、神戸のジョージは、光子から教えてもらったレンガの隠し場所からこっそり将棋の駒を取り出すと、1人で将棋を並べていた。

四国に着いた愛子と光子は、田所が運転する真っ赤なオープンカーで手際良く番所を廻っては、2人してポーズを取り、写真撮影のモデルもこなして行く。

途中、はしゃぎ過ぎ、勝手にミカンの木に上って撮影していると、果樹園主から怒鳴られ、慌てて降りたりもする。

その頃、一足遅れで、小豆島の光子の家を訪れていた圭介は、出迎えた両親から、光子は四国へ渡ったと聞き、自分も直ぐに追いかけます。今なら次の連絡船に間に合う。こうなったら男の意地ですからと言い出す。

その後、てっきり、旧友峯子のいる「ホテル奥道後」に光子が来ていると思い込んでやって来た圭介は、出迎えた峯子から、まだ2人は来ていないと聞かされがっかりする。

しかし、峯子の方は圭介の訪問を喜び、お金は頂きませんから…。そのうち、光子はんも顔を見せるでしょうと言い、半ば強引に部屋に案内する。

お見合いの方はどないしました?と圭介が聞くと、圭介はんとの約束通り、きっぱりお断りしましたと峯子が言うので、圭介は、そんな約束してませんけど…と狼狽する。

抽象画を鑑賞していた父小林庄造(殿山泰司)の元に戻って来た峯子は、誰や知らんけど、若い男客がいる部屋に1人で行ったらあかんと父から注意されるが、そのことを父親に注進に来ていた忠さん(河上喜史郎)に、梅の間に氷を届けといてと頼んで追い払う。

庄造は、鑑賞していた絵は、別館の先生が描いたんやと感心していた。

その別館の先生とは、ガンさんこと岩上岩太のことで、温泉の湯船の中で歌ったり、愉快そうに水を跳ね上げたりしており、たまたま一緒に入っていた圭介は水をかけられ困惑する。

けったいな人なんやな。獣みたいな人連れて来て…、うちをあんなコジキみたいな人と結婚させたいんか?と峯子は庄造に聞く。

旅館の経営が出来る男などなんぼでもいる。だが芸術家は世界中で立った1人しか出来んとは庄造は答える。

その時、又、お嬢さんにお客はんが…と言いに来たので、来よったな…と峯子は考える風な顔つきになる。

峯子の出迎えを受けた巡礼姿の光子と愛子は、連れがもう1人いたんだけど、原稿の締め切りがあるから先に帰ったと説明する。

すると、峯子は、そそくさと2人を牡丹の間に案内すると言い出す。

その牡丹の間とは、本官から一番離れた布団部屋のような部屋だった。

さすがに窓の外の景色も見えない部屋に驚いた光子と愛子だったが、峯子は、ご予算は?と他人行儀に聞いて来ると、その汚い服を脱いで下さい、それが最近の流行でっか?などと嫌味を言って、部屋を後にする。

峯子の態度に切れた2人だったが、こうなったら、絶対勘定払わへんど!と愛子は決意する。

その後、露天風呂から上がって部屋に戻る途中、なんぼケチンボでもネコちゃんはこの旅館のお嬢はんや。あんな人より、あんたみたいな気の強い女の方が兄には向いてるんや。兄もそんなに悪い男とは思わへんのやと愛子は光子に言い聞かす。

ところが、途中で道に迷ってしまった2人は、近くにいた仲居に部屋と峯子はどこか尋ねるが、お嬢はんなら梅の間のお客はんとロープウェイに乗るとお出かけになりましたと言うではないか。

ロープウェイで圭介を白雲楼に案内して来ていた峯子は、人目を気にして離れようとする圭介を観て、急に、目にゴミが入ったと言いだす。

そこに到着したのが光子と愛子だったが、ゴミはどこですか?と言いながら、峯子の顔に自分の顔を近づけているた圭介を発見し驚く。

一方、峯子の方は、愛子と光子を観ても、お散歩ですか?といけしゃあしゃあとした態度を見せる。

僕、セクサー辞めて、ピカちゃん追って来たんやと圭介は説明するが、光子は相変わらず怒っているので、焼きもち焼いたらみっともないわと峯子は嫌味を言う。

そこまで言われた光子は、こうなったら、あんたかて覚悟あるやろね?決闘や!と言い出すと、近くの垣根から木の枝を2本抜き取り、その片方を峯子に渡すと、ラブちゃん、レフリー頼むわと言う。

光子と峯子はその場でフェンシングポーズを取るが、それを観た圭介は、決闘なんてやめて下さいとおろおろするだけ。

積極的に突いて出た光子だったが、その木の枝はまっ二つに折れてしまう。

決闘に負けたと感じた光子は、いたたまれなくなってその場を逃げ出すが、圭介と愛子、峯子も慌ててその後を追う。

下りのロープウェイの中でも、光子の機嫌は収まらず、そのままホテルの中まで逃げて来た光子だったが、その時、肩が当たって壁に飾ってあった抽象画が落ちたので、拾い上げた光子はその絵を観て、ガンさんや!と喜ぶ。

光子たちは峯子に、ガンさんが住んでいると言う別館に案内してもらうが、そこは階段を延々と上らなければ行けない山の上にあった。

ようやく別館に到着すると、開け放った部屋の中で絵を描いている男がいた。

しかし、振り向くと、見覚えのない顔だったので、光子は愕然とするが、それはヒゲを剃ったガンさんだった。

光子は、全く今までのイメージとは違う爽やかな顔のガンさんにショックを受けるが、逆に、素顔のガンさんを観た愛子は、この人のどこが野性的な匂いで神秘的な目や?と呆れ、峯子の方は、すごいハンサムやわ!と釘付けになる。

フェリーで四国を離れることにした光子は、同行の愛子と圭介に、ライオンがウサギになってしまうたわ…、ネコとウサギやったら、ちょうどお似合いですわ…と呟く。

フェリーの中は新婚カップルだらけで当てられていたが、そんな中、圭介は再び、光子さん!僕と結婚して下さい!と申し込む。

ところがその時、風見さんと声をかけて来たのは、いつか神戸で一緒だった令子だった。

驚いた圭介だったが、令子は今、新婚旅行中なのだと言う。

その夫(園田健夫)らしき男が呼んだので、直ぐに令子は立ち去って行くが、光子はふてくされて離れて行ってしまい、残された愛子は、ほんまについてへんね、兄ちゃんは…と、圭介に同情する。

クーパーの屋敷に戻って来た光子は、家の中に人の気配がないことに驚く。

自室に入ってベッドに腰を降ろした光子は、壁に掛けていたガンさんの絵に、イーッと唇を突き出してみせる。

その時、外から、義理と人情のしがらみに~♪と聞き覚えのある浪花節が聞こえて来たので、行ってみると、クーパーが1人で犬のドンの世話をしている姿を発見する。

エリザベス夫人とジョージは、友人のグリーン博士が帰国することになったので、羽田まで見送りに行っているのだと言う。

今夜はピカちゃんと2人きりねとクーパーから言われた光子は、何かしら胸騒ぎを感じ、警戒する。

その夜、早々に自室に戻った光子は、部屋の内側から鍵をかけ、防衛用にバットを握りしめてベッドに入るが、すぐにドアをノックする男に気づく。

クーパーが、もう寝ましたか?と声をかけて来たので、はい、もう寝ました!と答えた光子だったが、お腹が減って眠れないと言うので、パンがキッチンにあります!と返事だけするが、暗い台所にやって来たクーパーは見当たらないと言う。

仕方なく起き上がった光子は部屋を出てキッチンへ行くと、暗闇の中にクーパーが立ちふさがっていたので、電気のスイッチがそっちにありますから退いて下さいと言いながら、相手の身体を押しのけようとしたので、クーパーが転んでしまう。

足をちょっと踏んだだけなのにこれは信じがたい!とクーパーは嘆き、しっかりして下さいと助け起こそうとした光子だったが、立上がった瞬間ふらついたクーパーは、光子の方に覆いかぶさって来る。

その時、帰って来たエリザベス夫人とジョージが観たのは、ソファーの上に倒れ込んだ光子と、その上に覆いかぶさっているようなクーパーの姿だった。

何してるんですか!私がいないと思って!ピカちゃんも、可愛いと思ってたけど、これが日本のやり方なのね!パールハーバーですよ!とエリザベス夫人は文句を言って来る。

誤解です!誰がこんな旦那さんと…、そんなに私が信じられないんですか?と光子は反論するが、興奮したエリザベス夫人は、この泥棒ネコ!と罵声を浴びせて来る。

しかし、勝ち気な光子も負けてはおらず、自分の思い通りにならんとヒステリーを起こして!それがレディファーストですか!と言い返してしまったので、首!と言われてしまう。

こんな家、こちらからお断りです!と光子が言うと、エリザベス夫人はついビンタして来る。

それを観たジョージはいきなりエリザベス夫人にしがみつき、「アイ ヘイト マミー!」と叫ぶ。

翌朝、玄関先まで追って来たクーパーは、荷物をまとめて出て行く光子に、どうしても出て行くんですか。ピカちゃん?家内も夕べのことは反省しているようだし…と困ったように聞く。

しかし光子は意外とさっぱりした顔つきで、うち、あんなこと言う資格なかったんです。自分が反対の立場だったら、やっぱり同じように怒ったでしょうね。夕べのジョージ君の言葉で分かったんですと答える。

その時、犬小屋の側で何かを燃やしていたジョージが、光子が近づくと、ドンを引っ張り外へ出て行ったので、光子はそのたき火の燃えカスを調べてみる。

それは将棋の駒だったので、光子はショックを受ける。

屋敷を後にしてしばらく坂を下っていた光子は、壁の角でどんと踞っているジョージを発見する。

光子は、ジョージ君!と呼び掛け、焼けこげたコマを差し出しながら、どうしたの、これ?と聞く。

僕…、将棋なんか…、僕…、一緒にいたらあかんね…とジョージは言うので、ジョージ君、わがままするような子になったらあきまへん。パパとママの言うこと聞いて良い子になってね。きっとママかて、良いままになってくれるわと光子は諭す。

又、会えるね?ピカちゃんと聞いて来たジョージは、指切りげんまんをせがんで来たので、光子は答えてやる。

するとジョージは、連れていた犬のドンを差し出し、僕の代わりと言うと、逃げるように屋敷に戻って行ってしまう。

ジョージ君、さよなら!と見送った後、困った光子だったが、仕方なく、ドンを連れて歩き出す。

その後ろ姿を、物陰に隠れていたジョージはいつまでも見送っていた。

光子は、犬を小豆島に連れて帰る訳にも行かず、愛子の所を訪ね事情を話す。

愛子も引き取れないようで、圭介は今日も新しい仕事に出かけて行ったと言う。

その時、田所がいきなり訪ねて来て、ごめんね、1枚1000円もする音楽会の切符買うてしもうたんよと愛子が言うので、デートの邪魔をしていると知った光子は、ほんまにうち、ついてへん…とぼやきながら、ぼとぼとドンを連れて愛子のアパートを後にする。

その時、こちらは「ワンワンパトカー」でございます。まだ、狂犬病の注射をまだすませてない犬はいませんでしょうか?と聞こ覚えのある声がスピーカーに乗って聞こえて来る。

近くに止っていた車に近づいてみると、やっぱりマイクを握ってしゃべっていたのは圭介だったので、新しい仕事ってこれだったの?と光子は声をかける。

すると圭介も喜び、光子さん、島に帰るつもりなんですか?と聞きかけ、自分が抱いていた犬に気づくと、この犬、雌やけど、僕とは何の関係もありませんと慌てて否定する。

呆れた光子がドンを圭介に押し付け、立ち去ろうとすると、光子さん、良い仕事があります。このワンワンパトカーの看護婦ですと圭介が言い出す。

からかわれたと感じた光子は返事もしないで、近くのバス停へ向かいかけるが、その背後から、圭介は、光子さん、島に帰らんといて下さい!例えどこへ行こうと、僕は追いかけて行きます。看護婦の給料は2万で、僕は2万5000円、2人会わせたら何とかなります!とスピーカーを使って呼びかけて来る。

その声を振り払うように、「上山手二町目」の停留所にやって来たバスに乗り込もうとした光子だったが、その後もしつこくスピーカーで呼びかけて来る圭介の声を聞いているうちに、バスのステップで動けなくなってしまう。

バスガール(西原泰江)が、どうなさるんですか?と聞いて来たので、まんま、しようないんや!と呟いた光子は、バスを降り、道路を渡って、圭介の車の方へ向かいかける所でストップモーションになる。


 

 

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