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お兄哥さんとお姐さん

1961年12月8日封切の時代劇で、同年9月30日公開だった「悪名」に続く、勝新、田宮二郎のコンビ作である。

渡世人を演じている勝新の方は「座頭市物語」(1962)が始まる直前の作品で、まだ白塗りの二枚目風の雰囲気が残っている。

武士崩れで、根っからのヤクザではないと言う設定通り、どこか品の良い渡世人と言った感じ。

対する田宮二郎の方は、時代劇出演自体が珍しいが、残念ながら「悪名」のモートルの貞ほど目だつ役どころではない。

どちらかと言うとゲスト出演のような雰囲気で、最初の方と後半にちらり顔を出しているだけ。

終始、ニコニコとしているだけで、田宮二郎の立ち回りはない。

勝新の方も、主役にしては出番はそう多くなく、男勝りのヒロイン役を演じている万里昌代とダブル主演のような雰囲気すらある。

タイトルもそう言う所を意図した物かもしれないが、万里昌代の方もそんなに目だっている…と言うほどでもない。

ただ、この万里昌代演ずるヒロインの造形がそれなりに面白いのが、この作品の見所かもしれない。

新東宝時代から、その濃い…と言うか、目鼻立ちのはっきりした美人の万里さんは、ビジュアル的に目立つ存在である為、かえって時代劇などでは使い難いタイプだったのではないかとも想像する。

結局、お色気演出とか、こう言った男勝りのキャラと言った路線でいくしかなかった所もあったのかもしれない。

その父親でヤクザの親分を演じているのは志村喬だが、片岡千恵蔵と組んだ「八州遊侠伝 男の盃」(1963)での岡っ引きとどこか印象が近い、どこまでも善良で子供思い、人柄が温厚な親分を演じている。

敵役を演じているのは稲葉義男で、この人は「七人の侍」の1人としても有名だが、こうした腹黒そうな悪役もハマっている。

全体的には、気軽に観る添え物タイプの通俗時代劇と言った所で、ものすごく大掛かりなアクションなどはないのだが、そこそこ楽しめる出来にはなっている。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1961年、大映、川口松太郎原作、辻久一脚色、黒田義之監督作品。

小舟が通り過ぎて行く河原をバックにタイトル

渡り舟の渡し場近くの街道の横の草むらに身を隠していた出入り姿の3人のチンピラたちが、人通りが絶えたのをきっかけに立上がり、側で先ほどから歌を歌っていた子守りの娘を突き飛ばして渡場へ向かおうとする。

いきなり倒された子守り娘は泣き始めるが、そのチンピラ3人の前に立ちふさがったのが渡世人風の男宮木根の三次郎(勝新太郎)だった。

チンピラは道を塞いだ三次郎に、この仕度が目に入らねえか!と凄んでみせるが、この娘さんに謝るんだと三次郎の目力に負け、渋々、押し倒したチンピラが泣いている娘に詫びを言う。

そして、これで良いのか?と聞くと、両手をついて謝るんだよ!と三次郎が睨むので、チンピラはやむを得ず、その場に土下座して娘に詫びる。

三次郎はまだぐずっていた娘に、ねえや、堪忍してやるかい?と優しく声をかけると、早く行きな!とチンピラたちに告げる。

チンピラたちは、その面忘れねえぞ!と捨て台詞を残し、立ち去って行く。

子守り娘は、おじちゃんありがとうと礼を言い、こちらも離れて行く。

その直後、お前さん、蓮沼から助っ人に来てくれたんじゃねえかい?と三次郎に声をかけて来たのは、地元を仕切る熊の沢の八五郎の子分、巳之吉(伊達三郎)だった。

今、若い者を手玉に取ったその腕はただ者じゃねえ。どうだ?うちの組の助っ人になっちゃくれまいか?5つ時に川向こうの玉村の仙右衛門相手に出入りがあるんだが、礼金も出すぜと巳之吉は誘うが、それを聞いた三次郎は、今はまだ7つ半、向こう側の値段も聞いてみないとね…と笑いながら渡場の方へ向かう。

やがて、三次郎は、渡し船に乗って川を渡るが、同じ船の先頭に乗っていた役人を見かけ、あれは八州様で?石井多七郎(田宮二郎)とおっしゃるのでは?と、お付きのものらしき侍に聞く。

良く知っておるのと感心したお付きの者は、今夜は玉村へ?と三次郎が聞くと、鍵屋にお泊まりになると教えてくれる。

玉村に着いた三次郎は一軒の飲み屋に入って一杯飲みだすが、先客二人が仙右衛門の事で口喧嘩をし始める。

どうやら、熊の沢の八五郎から喧嘩を申し込まれたらしいのに、仙右衛門が応じないのは情けないか立派な態度かと言う諍いらしかった。

それでも、一番悪いのは熊の沢の八五郎の方だと言うのは飲み屋の女お滝(近江輝子)も喧嘩している男たちも同感らしかった。

やがて、とっくりが飛んで来て、お滝が謝って来たので、三次郎は、八五郎の汚い腹の内は分かっていると言ったお滝の話の詳細を聞いてみる。

何でも、八五郎と言うヤクザは、代官の妾を当てがわれたのを笠に着て、仙右衛門の娘のお仙さんを嫁にしようとしているのだと言う。

それでも、何とか、仙右衛門が我慢しているのでこれまで大きな諍いにはならなかったと言う。

しかし、当の仙右衛門の家では、若い衆が喧嘩を売られて買わないのはおかしいといきり立っていた。

その若い衆から、親分に何とか言ってくれとけしかけられていたのは、兄貴分の彦兵ヱ(原聖四郎)だった。

そんな中、女だてらに帯に長ドスを差し、家を出ようとしかけていた長女のお仙(万里昌代)を止めたのは、妹のおきぬ(小桜純子)

座敷でそれを観た玉村の仙右衛門(志村喬)は、何だ、お仙!その様は!と叱りつける。

しかし、幼い頃から男勝りだったお仙は、三代続いた玉村の家に泥を塗りたくない!と言い返して来る。

仙右衛門は、そんな反抗的なお仙を殴りつける。

勝ち気なお仙は、今度のことは私のことが原因だから…と言うので、仙右衛門は、おめえは江戸へ行けと咳き込みながら命じる。

しかし、脅されて江戸へ行くなんてしゃくだわとお仙は引こうとしない。

木場の川甚夫婦が引き取って下さるそうだから、そこで女の道を学んで来いとが言い聞かすと、お父っつぁんも気が弱くなったわね。病気のせいかしら…などとお仙は悔しがる。

そこにやって来た彦兵ヱは、もう若えのを押さえきれねえと仙右衛門に言いに来る。

それでも仙右衛門は、おめえら、そんなに親分子分の縁を切りたいのか!と叱りつける。

さすがに、それ以上言っても無駄だと悟ったのか、お仙は、お父っつぁん、分かりました。私、江戸へ行きますと折れる。

それを聞いた仙右衛門は安堵したように、茂作(葛木香一)を呼ぶと、直ぐに船の仕度を命じ、彦兵ヱには、江戸までお仙を送って行ってくれと頼む。

その頃、川向で出入りを待ちかねていた熊の沢一家は、あまりに静かなので、仙右衛門の奴、逃げる仕度をしているのか?などと怪しんでいたが、それを聞いていた巳之吉は、お仙を逃がすつもりだろうと読み、熊の沢の八五郎(稲葉義男)は、5つになったら川渡りの殴り込みだ!お仙は生け捕りだぞ!捕まえて来た奴には5両、否、10両出す!と子分たちに命じる。

その頃、仙右衛門は、旅支度を終えたお仙に、江戸で世話になる川崎屋甚三宛に書いた口上を手渡し、道中気をつけてな…と送り出していた。

お仙は、妹のおきぬに、お父っつぁん頼んだわよと頼むが、おきぬの方は、しっかり花嫁修業して来てねなどと生意気なことを言い返したので、お仙は、妹のくせにそんなことを言って!と睨みつける。

そしてお仙は、お父っつぁん、私、行く気になれない。江戸へ行くと、もうお父っつぁんに会えなくなるような気がするのなどと言い出したので、仙右衛門は、演技でもねえ、俺はおめえの花嫁姿を観るまでは死ねねえ。川甚夫婦に可愛がってもらうんだぞと笑いながら言い聞かす。

その後、川に向かったお仙と彦兵ヱだったが、船頭役の茂作が、途中で弁当を忘れて来たと言って取りに帰る。

小舟を繋いでいた河原には人気がなかったので、どうやら熊の沢の連中には気づかれなかったらしいと彦兵ヱは安堵するが、その途端、小舟の上に置かれていた筵の下に隠れていた熊の沢一家の子分たちが姿を現す。

周囲の草むらからもゾロゾロと出て来た熊の沢一家は、お仙と彦兵ヱを取り囲む。

その時、どこからとも現れてお仙たちをかばったのは三次郎だった。

彦兵ヱは恩に着ますぜと三次郎に礼を言うと、お仙を連れて小舟に飛び乗る。

そこに、弁当を持った茂助が戻って来て、竿を握るが、慌てているせいで、舫綱を取り忘れ、一向に船が前に進まない。

熊の沢一家を目で制しながら、船が出るのを待っていた三次郎は、なかなか船が出ず、舫綱が結んだままであることに気づくと、その綱をすっぱり斬り落とす。

ようやく船は進み始めるが、その時、お仙の簪が船着き場に落ちてしまう。

それに気づいたお仙は慌てて拾おうとするが、簪を握れないまま、船が離れて行ってしまう。

その直後、簪に気づいた三次郎が拾い上げ、お仙に声をかけようとするが、もう小舟は進んでしまっていた。

熊の沢一家は邪魔が入ったので、その場を逃げ出していたが、三次郎は、峰打ちして気絶していた子分を蹴って起こすと、その場から立ち去らせる。

三次郎も立ち去った後にやって来たのがおきぬと恋仲の幸三(小林勝彦)で、2人は姉たちを見送りに来たのだが、その時、5つの鐘が聞こえて来る。

その鐘を聞いた熊の沢の八五郎たちは、川を渡って殴り込め!と命じるが、そこに、引け!川を渡ってはならんぞ!関八州の石井多七郎様のお言い付けじゃ!と言う伝令が駆けつける。

料亭で、本来なら喧嘩両成敗で両者とも罰する所だが、今回の仙右衛門の振る舞いに免じて許してつかわすと説明する石井多七郎を前に、玉村の仙右衛門と熊の沢の八五郎の手打ち式が執り行われることになる。

分別盛りの大人が、猫の額ほどの土地を巡って争うなど嘆かわしい。今日は目出たい日だから、両者とも大いに飲み明かそうと笑顔で言った石井は、芸者たちを部屋に呼び込む。

そして、八五郎はいまだに一人身だそうだが、仙右衛門の方には娘が2人をいるそうだな?どうだ、これを縁に、嫁に取らんか?と石井は八五郎に話しかけるが、姉が19で妹の方は17とあっては、年が違い過ぎますと八五郎は答えるしかなかった。

それを聞いた石井は、諦めるか?と笑いかけ、自分はさっさと席を立ち上がり、部屋を後にする。

石井が向かったのは離れで、そこには三次郎が待っていた。

手打ちは巧く行ったか?迷惑をかけてすまんな…と三次郎は気安気に石井に話しかける。

お前が、関八州に化けているとはな…と三次郎が感心すると、石井の方も、お前が上州くんだりにまで来るとはな…と奇遇を喜び、しかし、江戸は良いぞ。江戸に帰る気はないか?と聞いて来る。

俺がお役入り決まって松島に行った時、挨拶が悪いと言われた。それ以来、御直参は嫌になった。連中が要求するのは女と金だけ…、俺は我慢するが、ぶん殴っちまったと三次郎は侍を辞めた理由を打ち明ける。

その頃、座敷に取り残された形になった八五郎は、馴染みの芸者お妻(毛利郁子)に、石井様はどうしたんだ?観て来てくれと頼む。

京都の形勢が騒がしくなって来た。御主の腕が求められていると石井は三次郎に侍に戻るよう説得していたが、手前の腕で喰って行く方が良いぞと三次郎は答えるだけだった。

どうして今度の喧嘩に首を突っ込んだ?と石井が聞くと、熊の沢の八五郎って奴は、代官の妾を取っただけでは飽き足らず、仙右衛門の娘にまで手を出そうとする悪人と知ったからだと三次郎は答える。

こんな所で何をしてらっしゃるんです?と声をかけ、そこにやって来たのがお妻だった。

その直後、石井を探しに来た八五郎は、離れから戻って来たお妻と廊下で会い、あの三次郎とか言う旅人は元直参崩れで、石井様とは顔なじみらしいと教えられ、そう言うことだったのか…と、今回の手打ちに至ったいきさつを悟る。

八五郎が離れに行ってみると、もう三次郎の姿は消えていた。

翌日、旅を続けていたお仙は、簪を拾ってくれたとも知らず、夕べ自分たちを助けてくれた旅人の事が気にかかり、誰だろう、あの人?会ってみたいな…と呟き、同行していた彦兵ヱから、そう来なくっちゃ!ぐっと女らしくなりましたよとからかわれ,
さらに、来ましたぜ!あそこ!良く似ている!と言うので、前方から来る旅人(丸凡太)を観ると、似ても似つかぬ間抜け顔の男だったので、彦さんのいじわる!とお仙は怒る。

その後、仙右衛門の縄張りにある賭場では、客が壺振りにサイコロを見せてくれと言い出し、壺振りが素直に差し出すと、丁ばかり出るイカサマサイじゃねえか!とその場でサイコロを振って見せ因縁を付けて来る。

客が巧妙にサイコロをすり替えたトリックだったのだが、他の客たちも八五郎の手のものたちだったので、多勢に無勢、壺振りをしていた仙右衛門の子分はそのまま外に連れ出され、そこで待ち構えていた八五郎から、ここで命を捨てるか、賭場を捨てるかどっちにする?と迫られる。

仙右衛門の子分は、まだ死にたくねえのでよろしくお願い致しますと土下座をして来たので、八五郎はそれを観て笑いながら、盃やるぜと答える。

ある日、お妻が飲み屋で飯をかき込んでいた。

そんなお妻にお滝が、あんたは八五郎親分の後ろ盾があるんで良いねと皮肉を言って相手をしていたが、そこに入って来たのが三次郎だった。

信州をちょっと廻って来た。伊豆の方もその内廻って観ようと思うなどと言いながら、お文(種井信子)相手に酒を飲みだすが、三次郎に気づいたお妻は、早々に店を飛び出していく。

熊の沢はどうした?と三次郎が聞くと、あれ以来、恥をかかされたと言って、仙右衛門さんの子分を引込みにかかっているんですよとお滝は教える。

幸三も八五郎から呼びだされ、50両で子分にならないか?と誘われていたが、お日様が西から昇り、石が川に浮いたら考えやしょうと答え帰って行く。

そこに駆け込んで来たのがお妻で、いつかの侍崩れの旅烏が来たよと八五郎に教える。

飲み屋にいた三次郎は、まだ5つなので本所まで行けるだろうと言い出し店を出るが、そんな三次郎に玉村の仙右衛門親分がお目にかかりたいと申しておりますと声をかけてきた子分がいた。

三次郎が黙って付いて行くと、子分は人気のない寂しい道に連れて来るので、三次郎が怪しんでいると、案の定、八五郎の子分が待ち伏せていた。

ちょうど、駕篭に乗り家に帰って来ていた仙右衛門は、銃声を聞き、急いで同行の子分と一緒に音のしたその場所に駆けつけると、三次郎が撃たれて倒れていたので、急所を外れてるぜと励ましながら助け起こして家に連れ帰る。

その頃、江戸の木場に来ていたお仙の方は、川甚の若い衆からからかわれながらも、お茶とお花の稽古などに励んでいた。

翌朝、仙右衛門の家で朝起きた三次郎は、仙右衛門に会い、この旅は手前の不調法で、ご迷惑をおかけ致しやしたと礼を言うと、直ぐに発つと申し出る。

すると、今度の件の手配りは代官に頼んである。それより、この前の出入りの時は何やら世話になったそうで…、石井様から聞いたよと、逆に仙右衛門は礼を言い、今回の件は熊の沢の耳に入ったと思う。おめえさんを止めねえのはそのためだと答える。

そして、これは路銀の足しにしてくんねえと金を用意させたので、ありがたくおもらいもうしますと三次郎は金を受け取ると、近頃、熊の沢が色々こちらにちょっかいを出していると聞いております…と尋ねる。

すると仙右衛門は、わしはそれで良いと思っている。博打打ちが三代続くのは珍しい。わしは、お前は身体が弱いのでお前の代で組を散らしてしまえと言う先代の遺言を守っているんだ。おきぬもヤクザの女房にするつもりはねえと三次郎に打ち明ける。

客人、又こちらに来ることがあれば寄って下さいよ。話し相手になってもらいてえんだ。あんた、言葉遣いからすると根っからのヤクザとも見えないと仙右衛門が言うと、三次郎も畏まって、ありがたくお聞きしますと頭を下げる。

途中まで三次郎を見送ったおきぬと幸三が、どちらに行きなさるんで?と尋ねると、久しぶりに江戸の空でも観たくなりましたと三次郎が答えたので、だったら、木場の川崎屋に姉がいますんで、会いに行ってやって下さいとおきぬが伝える。

三次郎は、お二人の幸せを旅の空から祈っておりますと言い残し、立ち去って行く。(勝新の歌う歌が重なる)

そして1年…

木場の川崎屋で花嫁修業をしていたはずのお仙は、すっかり男姿になり筏乗りを買って出たので、男衆は面白がり、俺が角乗りの仕方を教えてやるなどと言ってお仙にまとわりついて来る。

お仙は怒り、喧嘩になりかけた所にやって来たのが、川崎屋の主人川崎屋甚三(南部彰三)とその妻のお辰(橘公子)で、若い衆を諌めると、幸三さんが見えてるよとお仙に教える。

幸三は、家に戻って来たお仙の事を、今も手かぎを振り回して大喧嘩…とお辰が笑いながら教えたので、お嬢さんは国でも剣術を習っていなすったから…とかばうと、妹も父親も元気である。親分は身体が弱い分、人一倍身体に気をつけているので人より長生きしますよとお仙に伝える。

幸三は、おきぬを嫁に欲しいのだが、親分がおきぬは堅気にやると言っているので…と言い出したので、私に頼んで欲しいんだね?と察したお仙は、言ってあげる代わりに、ここで私が喧嘩しているなんて言っちゃいけないよと答える。

その頃、仙右衛門の家では、子分衆が次々と盃を返してえと申し出て来ている所で、側にいたおきぬは、長い間世話になっていながら良くもぬけぬけと…と薄情な子分たちに呆れていた。

しかし、仙右衛門は止めるどころか、達者でな…と子分たちをねぎらう。

そこにやって来た彦兵ヱが、以前、旅人を鉄砲で撃った下手人が分かった。お滝から聞いたんだが、権六が自分で自慢げに話していたらしいと言いに来る。

すぐさま、熊の沢の家に向かった彦兵ヱは、権六を差し出せ!と迫るが、応対に出て来た巳之吉は、権六を取れるもんなら取ってみろ!と嘲り、奥から出て来た八五郎は、かねて用意してあったらしい喧嘩状を投げ出すと、時間は暮六つ、場所は利根川の中州だ!と一方的に言い渡す。

その後、井戸で水汲みをしていたおきぬの元に、江戸から幸三が帰って来たので、あれから14人も盃を返して行ったのに熊の沢から喧嘩状が渡されたのと窮状を訴える。

驚いた幸三は、取りあえず家にいた仙右衛門に江戸から帰った挨拶をするが、もはや子分と言える者は彦兵ヱと幸三を含め数人しか残っていなかった。

彦兵ヱと幸三、おきぬを前にした仙右衛門は、今日限り玉村の縄張りを散らそうと思う。このままではみんな殺されてしまうと言い出す。

しかし、それを聞いた彦兵ヱやおきぬは納得できないようで、江戸の姉さんに帰って来てもらいましょう等と提案するが、おめえたちは正気なのか?暮六つまで後半時しかねえのに、どうやってそんなことができるんだ。しかも熊の沢の手勢は70人を下らない。こちらは、芳松や虎造を入れても10人足らずだ…と言い返した仙右衛門は、おきぬに酒と丼を持ってこさすと、芳松と虎造を呼ばせる。

台所で酒と丼を用意したおきぬは、思わず、姉さん…と呟く。

芳松(大杉潤)と虎造(井手野憲治)も交え、彦兵ヱ、幸三、おきぬを前にした仙右衛門は、俺が一家を散らすんだ。仙台が草葉の陰から頼んでいるんだ。1人1人は面倒だ。これで盃を返すぜと言い、丼に酒を注ぐと、まずは自分から口を付けてみんなに回す。

まず受け取った彦兵ヱは、あっしは考えさせて頂きますと言い、酒を飲むのを拒否する。

次に受け取った子分は、あっしも考えさせて…と言いてえ所だが、こいつは親分の言う通り、頂戴致しやすと言い、丼の酒を飲む。

次に受け取った幸三は、おいらは嫌だ!と拒否する。

続く虎造と芳松は、素直に頂きますと言い、丼の酒を飲んで盃を返す。

その頃、八五郎たちは、小舟にみんな乗り込み、川を渡り始めていた。

六つだな…、この時計が別れの鐘になってしまった…と、先代が物好きで買って来た置き時計を観ながら仙右衛門は呟く。

おきぬは、お父っつぁん、私たちはこれからどうなるんです?と聞くと、縄張りは渡すが、この家には手をつけるなと掛け合うつもりだと仙右衛門は答える。

その時、八五郎一味らしい歓声が聞こえて来たので、仙右衛門は幸三に、正法寺に言ってくれ、𡸴山さんの所へおきぬを連れて行ってくれ。心配するな、掛け合うだけだ。一時もしたら帰って来いと言い聞かす。

お父っつぁん気をつけてね…と言い残し、おきぬは幸三と一緒に裏口から出て行く。

その直後、近くの川縁に到着した小舟から、八五郎一味が降りて来て、仙右衛門の家の戸をぶち破り、中に侵入して来る。

その音に気づいた仙右衛門だったが、火鉢の前でキセルを持って出迎え、じたばたするねえ!八五郎を出せ!話があるんだと告げる。

姿を現した八五郎が、さっさと言え!とあざ笑うと、仙右衛門はゆっくりキセルに煙草を詰め、吸おうとする。

その瞬間、子分たちが飛びかかり、問答無用で仙右衛門をめった斬りにしてしまう。

江戸のお仙に、仙右衛門が殺されたことを知らせに行ったおきぬだったが、あんた黙って、お父っつぁんが殺されるのを観てたのかい!とお仙は怒鳴りながら妹を殴りつける。

お父っつぁん、さぞ悔しかったろう…とお仙が嘆くと、私が悪かったんです。どこまでもお父っつぁんの側についていれば良かった!とおきぬも泣き出す。

お前なんかどこへでも行ってしまえば良い!と怒りが収まらないお仙だったが、見かねた川崎屋甚三が、もう良いじゃないか。身内は一人残らず散ってしまったのかい?となだめに来る。

そんな甚三にお仙は、おじさん!何だって私、女なんかに生まれて来ちまったんだろう!と悔しがる。

夜、川崎屋に泊まっていたおきぬは、夜中にふと目を覚ますと、横で寝ていたはずの姉の姿が見えないので、1人先に帰ってしまったと気づく。

翌朝、川崎屋にやって来たのは三次郎だった。

木場の若い衆に、こちらに上州のお仙さんと言う人がいると聞いて来たんですが…と尋ねていたが、今朝早く帰ったと言うではないか。

そこに駕篭で通りかかったのが、姉を追って帰りかけていたおきぬだった。

おきぬは三次郎に気づくと、お父っつぁんが熊の沢の八五郎に殺された。姉さんまで殺されに行くようなものだと教えると、三次郎は驚き、何とか先に帰って、ことを決着させやしょうと言うと、羽柴家に去って行く。

その頃、お仙は、男姿に身をやつして国元へ急いでいたが、途中の茶店で一服し、餅を喰っていた所、近所のチンピラ3人が目を付けて近づいて来る。

縁台のお仙の横に勝手に座ったチンピラたちは、生っ白い足をしているじゃないかなどとからかい、1人が喰っていた柿の種をお仙が食べかけていた餅の一つの上に吐き出す。

それに気づいたお仙は、彼らを無視して歩き出したので、チンピラたちは、あいつはやっぱり駆け出しだぜ!と笑う。

近くの店で木彫りの人形を眺めていたお仙に、若ぇの、可愛いだろう?おめえさん、上り旅か?下り旅か?と話しかけて来たのは、追いついた三次郎だった。

人形、買ってやるから機嫌直しなよ、お仙さん!と三次郎は取り繕おうとするが、三次郎の顔をきちんと覚えてなかったお仙人は怪しみ、お仙って誰だい?と言いながら睨みつける。

三次郎は慌てて、ちょっと思い出したんだ。大事な俺のレコさと嘘をつくが、お仙は無視して立ち去ってしまう。

仕方なく、三次郎は、先ほどのチンピラ3人に頼みてえことがあると言いながら近づくと、あの若造のドスを取って欲しいんだ。1日だけここを動かしたくねえんだと言いながら、1両出してみせる。

3人のチンピラは、先に進んでいたお仙に追いつくと、お引けえなすって!と仁義を切ってみる。

しかし、お仙は、今急いでいるんで、仁義は受けねえと断ったので、それに因縁を付けた3人が相手の刀を盗もうと手を出すと、逆にあっさりやっつけられてしまう。

あばよ!と言い残し去って行くお仙の姿と地面に転がった3人を木の陰から覗き観ていた三次郎は、口ほどにもねえ奴等だ…とがっかりする。

その夜、旅籠に泊まったお仙は仲居に、自分は他人と一緒に風呂に入るのが大嫌いなんだと、金を渡して頼む。

仲居は承知し、お仙が入浴するときは、着替え室を掃除している振りをして、他の客を入れないようにしますと約束する。

お仙は安心し、着物を脱ぎかけるが、ふと足下の乱れ箱を観ると、簪が一つ入っているではないか。

それを取り上げたお仙は、以前、自分が落とした簪に似ていると気にしながらも、姉さん、こんなものが落ちてたよと仲居に手渡す。

湯船に浸かったお仙は、江戸に発つ時助けてくれた旅人のことを思い出し、あの人がこんな時いてくれたら…と、顔もはっきり思い出せない中、呟くのだった。

その頃、外で掃除のまねごとをして他の客を追い返していた仲居の元にやって来た三次郎は、簪が落ちてなかったか?と聞き、仲居から、これですか?と渡される。

その直後、三次郎は、水商売風の女2人に風呂から出て来たお仙の姿を確認させ、な?良い男だろ?あいつを口説きたくないかい?明日の昼まで止めておいてくれたら、礼金5両出すよと頼む。

女2人は喜んでお仙に部屋にやって来ると、勝手に、酒は飲めないと言うお仙の相手をし始め、居座ろうとする。

お仙はいきなり邪魔をしに来た女2人に困惑し、もう勘弁してくれよと追い返そうとするが、酔って来た女は、何しろ5両だからね…と口を滑らせたので、お仙は、何?と警戒する。

翌朝、お仙がさっと宿を出て行ったのを、三次郎は二階の窓から観ており、またもや足止め作戦が失敗したことを悟る。

翌日、次の宿の旅籠で三次郎がくつろいでいると、店の主人が今日は混んでいるので相部屋をお願いしたいと頭を下げに来る。

三次郎が承知すると、入って来たのはお仙だったので、両者とも驚いてしまう。

それでも、お仙は慌てず、おめえ、レコには会えたのかい?と皮肉っぽく聞いて来たので、三次郎はまだだ。明日の晩辺り、待ってるかもな…と意味ありげに答える。

その夜、布団を並べて寝ていたはずのお仙は、こっそり起きて荷物をまとめ、部屋を出ようとするが、寝ていたと思っていた三次郎が、おめえ、どこに行くんだ?と声をかけ、こんな時刻に出て行くなんて…、さては護摩の灰だな!と言い出し飛びかかって来る。

そんなんじゃねえって!と抵抗していたお仙だったが、三次郎の当て身を受けたのか気絶してしまう。

お仙さん、少しの間だけ我慢してくれよなと三次郎は布団の上に倒れているお仙に詫びる。

翌日、玉村に着いた三次郎は、仙右衛門の墓を詣り、八五郎には何のお咎めもないとか…と語りかける。

どう言う手を回したんだか知らねえが、けりはきっとつけます。親分、成仏しておくんなさいと合掌して約束する。

その時、お仙が近づいて来たことに気づいた三次郎は、側の墓石の裏に隠れる。

仙右衛門の墓の前に来たお仙は、新しい花が添えられていることを不思議がりながらも、お父っつぁん!只今、帰って来ました!と報告し泣き出す。

そこにやって来たおきぬと幸三が、墓から戻って来ていたお仙とすれ違い、姉さん!と驚く。

お仙は、男姿を恥じながら、笑わないでおくれ。あんまり悔しいから、男になって戻って来たんだ。喜兵ヱはどうしてる?と聞くと、猫の額ほどの土地を守っていますと幸三が教える。

今や、身内は4人だけだった。

明日、この寺で法事をすませたら、熊の沢に仕返しをするよとお仙は妹たちに言い渡す。

その後、自宅におきぬと戻って来たお仙は、家がメチャクチャに壊れていることに驚く。

おきぬが言うには、八五郎の子分たちがよってたかって潰したそうだった。

お父っつぁんはここで殺されたんだよと、おきぬが火鉢があった座敷を指し、姉妹はその場所に向かって合掌していたが、その時、家の中に入って来る物音が聞こえたので警戒する。

八五郎一家が嗅ぎ付けてやって来たと思い込んだお仙は、やっぱり来やがったか…と灯を消して音の方へと向かう。

ひでえことになってやがる…とあばら屋のように荒れ果てた仙右衛門の屋敷内を見て回っていた三次郎は、突如、暗闇から、お仙が飛びかかって来たので慌てる。

おめえは、男姿になってはいるが、お仙さんか?と三次郎が聞くと、後ろから付いて来たおきぬが、三次郎さん!と声をかけて来る。

そして、この人はお父っつぁんが世話した人なんだよとおきぬは姉に説明する。

熊の沢に仕返しなさりてえんでしょうが、ここん所は、あっしに任せて下せえと三次郎がお仙に頭を下げるが、一宿の渡り者に頼んだら、玉村の恥になる。見ず知らずのものを巻き添えにするつもりはねえ!とお仙は息巻く。

明日、親父さんの法事をすると寺で言ってましたが、7つ時まで待っていておくんなせえ。あっしはこれから高崎まで夜道を駈けます。必ず7つまでには戻って来ますから…と言い残し、三次郎は家を出て行く。

しかし、お仙は、おきぬ、あんな奴の言うことを聞くことはないよと嘲るのだった。

その夜、高崎の関八州石井多七郎の屋敷にやって来た三次郎は、これまでのいきさつを全部打ち明け、助けを求める。

良くそんなもめ事に手を出したなと石井が感心すると、娘を堅気にしてやりてえんだ。きっと来てくれよなと頼むと、急いで玉村に引き返す。

翌日、寺にやって来たお仙の姿を観た寺男は、今や八五郎のものになった賭場に駆けつけると、その場を仕切っていた子分にお仙が帰って来たと知らせる。

すぐに、八五郎に知らせが走る。

やがて、寺では、お仙、おきぬ、幸三、彦兵ヱの4人の身内だけで法事が始まる。

住職の読経が続く中、寺に八五郎たちがやって来る。

それに気づいた彦兵ヱたちは、そっと刀と草鞋を隣のものに手渡して、いつでも飛び出して行けるように身支度する。

読経が続く本堂の外に、ずらり並んだ八五郎と子分たちに、今日はまだすまぬぞ!と住職が怒鳴りつける。

すでに身支度を終えていたお仙が立上がって、庭に飛び出そうとしたので、住職は、立ってはならぬ!と叱りつけ、読経の邪魔をする者は、地獄に堕ちるぞ!と八五郎たちをも牽制する。

しかし、待ちくたびれた八五郎は、構わねえから、かかれ!と子分たちにけしかける。

それでも住職は、お前たちの言い方をすれば、この寺はわしの縄張りだ!踏み込みたければ、わしを殺して行け!その代わり、仏罰が降り掛かるぞと脅す。

住職はお仙に、あのヤクザ者はきっと帰って来るよと言い聞かす。

それでも、立上がって八五郎たちと対峙していたお仙は、腰の刀を抜いたので、それを観た八五郎は、女たちを痛めつけちゃいけねえぜ!そっくりそのまま頂くんだ!と子分たちに言い聞かす。

辛抱しきれなくなった両者は、とうとう斬り合いを始める。

立ち向かった幸三は左手を負傷し、ピンチを迎えるが、その時、寺に飛び込んで来たのが高崎からぶっ通しで走って来た三次郎だった。

左手一本の用心棒がお仙に迫っていたのを観た三次郎は、懐に入れていた簪を投げつけ妨害する。

側の木の幹に刺さった簪を観たお仙が、この簪は!と驚くと、そりゃ、お前さんのだぜ!と三次郎が近づいて来て教える。

江戸の発つ晩、自分を救ってくれたのも三次郎だとようやく気づいたお仙は、お前さんと一緒だと千人力だ!と喜ぶ。

こんなウジ虫は俺1人で十分だ!ご住職!鳴り物と念仏は続けといて下さいよ!と三次郎は住職に声をかける。

もちろん!と答えた住職は、又読経を始める。

その読経の中、三次郎は片腕の用心棒を斬り捨てる。

さすがに分が悪くなり、逃げようとした八五郎だったが、追いすがった三次郎が、八五郎が隠れようとした竹もろとも叩き斬る。

さらに、お仙がとどめを刺す。

その時、高崎から駆けつけて来た石井が姿を見せ、三次郎、片付いたか?と笑顔で言葉をかけて来る。

事が終わり、村を後にする三次郎を見送りに来た幸三が、ありがとうござんしたと礼を言う。

おきぬも、高崎のお裁きがいつまでかかるか…と嬉しそうに言う。

その時、待って!と声をかけながら近づいて来たのがお仙で、三次郎が忘れて来た三度笠を手渡し、合羽をまるで女房のように付き添って着せてやる。

その仲睦まじい姿を観て笑うおきぬと幸三。

三次郎は、お仙さん、お二人さんもお達者で!と頭を下げ去ろうとするが、お仙は、そんな三次郎に、待ってますよ!と声をかける。

遠ざかって行く三次郎の姿に、歌が重なる。


 

 

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