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密林の怪獣群

この作品、ひょっとすると、「怪獣」と言う言葉が日本映画に使われた最初の作品かも知れない。

どうやら、「キング・コング」(1933)に触発されて作られた無声映画らしいのだが、予算も技術もない当時の大都が考えついた「和製コング」の結論は、キング・コングも怪獣も何にも登場しないナンセンスコント仕立てにすることだったらしい。

一体これのどこが「キング・コング」やねん!と思わず突っ込みたくなるような展開なのだが、よくよく考えてみると、これはまぎれもない「キング・コング」映画であることに気づく。

何と、「キング・コング」のベースに流れている「美女と野獣」のテーマはちゃんと頂いているからである。

その「キング・コング」の成就しない悲恋物語に「類人猿ターザン」の要素も若干加え、山奥に暮らしていた世間知らずの山男兄弟と、野性に憧れて山にやって来た都会のお嬢さんとの出会いと別れの話になっており、「美女と野獣」ではなく「美女とデブ」、もしくは「美女と不細工兄弟」

どんなに気持ちが優しかろうが、力持ちであろうが、木登りが巧かろうが、足が速かろうが、所詮、不細工やデブは今も昔も女にモテないと言う真実(?)を描いた涙なくしては観れない感動作(噓)

結構、喜劇仕立てなのに泣かせる(とは言い過ぎか?ちょっとしんみりしてしまう)シーンもある。

キング・コング的立場になるのが、デブな教育ママに育てられた、猿のように身が軽い兄貴を持つ、怪力と大食いと優しい気持ちが自慢のデブ弟。

俺はこんなカ○ワものだが…と、デブが女性にコクる時自虐的に言うのだが、デブ以外に特に身体に障害がある風にも見えず、「デブ=カ○ワもの」なのか?と言いたくなる。

サーカスに売られるんじゃないよ!とデブママも息子を見送る時言っているが、「デブ=見せ物」と言うことなのか?

キャストロールでは「類人猿」と出て来るのだが、見た目は、毛皮を着て暮らしている山暮らしの一家そのもの。

山を下りるときは、普通によそ行きの着物を着ているくらいだから、人間以外の何者でもない。

おそらく「類人猿ターザン」が見た目普通の人間なので、そこからの発想なのだろうが、猿に育てられたターザンとは違い、ただのデブママに育てられただけなら、どう考えても普通の肥満児だろう。

メガネをかけたデブママの過去が気になるのだが、何故か教養があり、子供たちに色々日頃から厳しく躾けているので、兄弟は言葉も話せるし字も読める普通のおっさん。

いつもは仲良しの兄弟だったのに、女性と出会ったことから、兄弟の仲に亀裂が生じる。

互いに独占欲が出て来てしまったのである。

女性はターザン好きだったし、デブは最初から好みでもないので、兄の方により親密になったのが、ますますデブ弟をいら立たせる。

嫉妬心が出て来た訳である。

こうして仲が悪くなってしまった兄弟だったが、憧れの女性が山賊たちに誘拐されたことから、自分たちの間違った欲望に気づき、互いに協力して、女性を助ける。

女性を襲撃し奪って行った山賊と言うのは、「キング・コング」での恐竜だったり、都会の人間たちの代わりなのだろう。

最後、兄は崖から墜落し命を失い、デブ弟の方も池に落っこちる…と言う「オチ」も、ちゃんと「キング・コング」をなぞっているのだ。

主人公のデブの名前は、キャストロールに「類人猿○○」と言う風に出ていたと思うが、この「○○」の部分が「大工」のように書かれていたようにも思うのだが、正確な記憶だったかどうかは自信がなく、何かのシャレになっているのではないかと想像する。

デブ弟を演じている大岡怪童、デブママを演じているのは大山デブ子、猿のように身が軽いおかっぱ頭の兄貴を演じているのは雲井三郎で、3人とも、戦前の映画で売れっ子だったようだ。

特に大岡怪童さんは、デブキャラにしては身体も良く動いているし、大山デブ子さんと共に、当時の子供たちには大人気だったと思う。

特撮と言うようなものは一切使われていないようで、デブ弟が持ち上げる巨大な岩はどう見てもハリボテだし、崖から落ちるシーンに使われているのは、明らかに人形…と言ったレベル。

茶店のハゲ店主など、どう見ても「コントのハゲヅラ(額の境目がはっきり分かる)」だったり、山男たちのメイクもコントメイクなのだが、話自体がナンセンスものなので、意図的に安っぽく作っているとも思える。

個人的には、大変面白いナンセンスものだと感じた。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1938年、大都映画、有田彰夫脚本、山内俊英監督作品。

秩父連山 正丸峠(山の風景を背景に)

武蔵野鉄道協賛の文字

キャスト・スタッフロール

山の登り口の休息所付近でポーズをとっていたのは、都会からやって来たらしき男女数名のピクニック客。

弘(大塚弘)が、持参のカメラで写真を撮っていたのだった。

その後、近くの「若松菓子店」と書かれた茶店の縁台に座り、名物の栗羊羹など食べ始めた一行だったが、これから山に登ると聞いたはげ頭の店主は、あの山には登らない方が良い。

地獄山と呼ばれており、時折、ピクニック客の死体が発見されたり、丸裸にされて発見されるのだと忠告する。

それを聞いたメガネっ子日出子(美山日出子)は、驚いて口にくわえていた羊羹を咽に詰めそうになる。

今時そんなことある?と疑わしそうに聞いて来たのは、冒険好きのお嬢様千枝子(松風千枝子)だった。

ハゲ店主は、人とも猿とも付かぬ怪しい動物が棲息しているらしいんですと噂を教える。

そこにやって来たのは、不気味な風貌の木こりで、縁台に腰掛け、女性たちが食べていた羊羹を勝手に取って喰うと、類人猿って訳ですよとハゲ店主の言葉を捕捉する。

そいつが、我々やあなたたちのような山登りの人たちに悪さをするんですと木こりが言うので、まるで、国産ターザンね!全く素晴らしいわ!と、千枝子は好奇心を刺激されたように喜ぶ。

それを聞いた木こりは、な〜に、怖がることはありませんよ。私が案内しましょうと言い出したので、ハゲ店主が、止めた方が良いと言い聞かせる。

結局、弘と千枝子のカップルだけが木こりに案内され山を登る事にし、他のメンバーたちは店主の忠告に従い、茶店で2人の帰りを待つことにする。

そんな茶店の様子を物陰から覗いている怪し気な男もいた。

山奥の一軒家、囲炉裏で鳥を焼いていたのは、メガネをかけたデブママ親(大山デブ子)と、おかっぱ頭の兄貴(雲井三郎)と、母親譲りのデブ弟(大岡怪童)の不細工家族だった。

焼き上がった鳥を、茶碗の中の飯を手づかみで食べ、鳥を奪い合うように食べようとした兄弟を叱りつけ、少し鶏肉をちぎって兄弟に与えたデブママは、残りの鳥全部を自分の皿に置き、油断なく飯を食べ始める。

その鳥の固まりを取ろうとしたデブ弟は、デブママから手を叩かれたので、親子なのに水臭いことするなよと文句を言う。

すると、デブママは、親しき中にも礼儀ありよとたしなめるが、思い直して、鳥の足の部分だけちぎって自分の皿に残すと、後の固まりは全部デブ弟に渡し、孝行したい時に親はなし、せいぜい養生するんだよと言い聞かす。

その頃、木こりに案内され、山を登っていた弘と千枝子は、怪しい山賊たちに尾行されていた。

その中には、先ほど茶屋で様子を観ていた男もおり、口笛を吹いて、仲間を集める。

一方、食事を終え、小屋の外に出て来ていたデブ弟は、おかっぱ兄に、俺たち一生山の中で暮らさなければ行けないのかな〜と真面目に聞いていた。

運命なんだ…と諦め顔のおかっぱ兄貴は、鉈の背で頭を殴ろうと悪戯しかかって来るデブ弟の鉈を取り上げ、逆襲する振りをして、互いに笑い合う。

仲は極めて良い兄弟だったのだ。

その頃、弘と千枝子は、突如出現した山賊たちに襲撃される。

デブ弟は、今、女の声が聞こえなかったか?と兄に聞くが、頭がおかしくなったんじゃないか?こんな山奥に女なんかいる訳がないじゃないかとおかっぱ兄貴は笑い飛ばす。

弘は、山賊相手に必死に戦っていたが、案内して来た木こりも、愉快そうに捕まる千枝子の様子を側から観ており、彼も又、グルだったのだ。

その時、おかっぱ兄の方も、女の悲鳴を聞き、デブ弟の言う通りだと知ると、急いでその声の方へと向かう。

おかっぱ兄は身のこなしが軽く、高い木をするすると猿のようによじ上ると、ロープを別の木に引っ掻け、ターザンのように飛び移る。

一方、デブ弟は必死に走って移動していたので、木の上から兄が向かう方向を大声で教えてやる。

千枝子を連れ去ろうとしていた山賊たちの前に駆けつけたおかっぱ兄は、この辺を地獄山などと噂し、自分たちでやった悪事を俺たち兄弟のせいにしていたのはお前等だな!と責めると、いきなり山賊たちに飛びかかって行く。

一足遅れて現場に到着したデブ弟も、生まれつきの怪力と手製のパチンコで小石を飛ばし、次々に山賊たちを追い払う。

兄弟は、気絶していた千枝子を小屋に連れて来て寝かせると、2人とも急に髪をなでたりして色気づく。

千枝子が目を覚ましたので、にっこり笑って、その顔を覗き込んだ2人は、傷が直ったら村に送ってやると声をかけるが、その言葉に安堵したのか、得体の知れない男たちへの恐怖心にかられたのか、千枝子はまた気絶してしまう。

数日後、起き上がれるようになった千枝子に、おかっぱ兄が猿の真似をし、その首に付いた紐をデブ弟が持ち、猿回しの芸を披露してやる。

喜んだ千枝子は、芸を見せてもらったお礼にと、リュックの中に入れて来たお菓子やサイダーなどを出して兄弟に渡す。

兄弟は、栓を抜くと泡が吹き出して来たサイダーには驚きながらも、その初めての味に喜ぶ。

何もかもが珍しい兄弟だったが、好奇心の赴くままデブ弟は、菓子箱と一緒に落ちていた「メンソレータム」も開けて嘗め、あまりの味に顔をしかめる。

弟からそれを受け取って嘗めたおかっぱ兄も顔をしかめる。

他所様の前で、なんてことするんだい!と叱りつけたデブママも、箱から出したキャラメル全部を、包み紙のまま口の中に放り込み、慌てて吐き出すと、恥ずかしそうに一個ずつ紙を剥き、口に入れて微笑む。

その後、千枝子は、水着姿で近くの渓流で泳ぎ始める。

そんな千枝子の様子を岩の上から眺めていたデブ弟に近づいて来たおかっぱ兄は、何を考えてる?どう考えても何も出来ないんだ。あの人につまらねえことしたら承知しないぞ!と言い聞かせる。

川の中から言い争っている兄弟の姿に気づいた千枝子の顔から、それまでの笑顔が消える。

ある日、兄弟と千枝子は、川で釣りをして楽しんでいたが、千枝子はおかっぱ兄の方に身体を寄せて、命を助けて頂き、感謝しているの…などと甘えかかったので、あんた等を襲った奴等は俺が退治してやる!山の為にも!と兄弟は誓うが、デブ弟の方は、自分がのけ者にされていると感じ、徐々にひがみだす。

そんな中、千枝子は、弘さんの安否が気にかかるわ…と呟く。

その弘は、頭に傷を負っていたが、茶店まで自力でたどり着くと、頭に包帯を巻き、そこで待っていた仲間やハゲ店主たちに、千枝子が山賊に誘拐されたので、助け出さないと…と話していた。

しかし、話を聞き終えたハゲ店主は、手遅れだ…と言うと、キセルの煙草に火を点けようと囲炉裏に顔を近づける。

横に座っていた店主の息子らしい男が、大きなせんべいを食おうと、お盆を持ち上げたので、頭を上げかけたハゲ店主は、後頭部をお盆の底で強打してしまう。

その頃、山賊たちも山の中の根城で、娘を奪われたと知った親分が、だらしねえ!と家来たちを叱りつけていた。

何とか私たちの力で取り戻しに行きましょう!と茶屋では、集まっていた仲間たちが話し合っていた。

一方、山賊たちの方も、俺たちのことを村人に告げ口されたら一大事だ。奴等の住処を探し出せ!と親分が命じていた。

ある日、千枝子がスケッチを描いて楽しんでいると、デブ弟が怪物のような顔真似をしてふざけて来る。

そして、笑ってくれた千枝子の横に腰掛けると、俺のこと好きかい?と聞く。

最初はちょっと怖かったけど、伸び伸びとして屈託なく、明るい所が好きよと答えた千枝子だったが、お兄さんの方も好きよと言うと、兄貴は乱暴なんだ!良い人じゃない!お嬢さん、俺はこんなカ○ワものだけど、力もあって気持ちも優しい。きっとあんたを幸せに出来ると告白するが、そこにやって来たおかっぱ兄貴が、どこで覚えたセリフか知らないが、ふざけたことをぬかすな!お嬢さんは俺のもんだ!とデブ弟につっかかって来たので、誰が兄貴なんか!とデブ弟の方も切れ、兄弟つかみ合いの喧嘩になる。

それをそばで観てしまった千枝子は悲しむ。

お嬢さんの口からどっちが好きかはっきり言ってもらおう!とおかっぱ兄貴が言うと、千枝子は困り、私ここでの生活が楽しかった。お二人とはいつまでもお友達でいて欲しかったの…と、男が一番聞きたくないセリフを言うと、持っていたスケッチを自ら破り捨て、私たちの憧れていたあなたたちではもうないのね!と悔しがる。

そんな3人の様子を見つけたのが山賊の1人で、慌てて塒に帰ると、親分に報告する。

我々の糧道の邪魔をする奴め!と怒りに顔を染めた親分は、仲間たちを召集させる。

ホラ貝が吹かれ、8人の家来たちが集まったので、親分は整列させ、番号!と叫ぶ。

しかし、教育がない子分たちは、1、2、3の順番も満足に言えず、親分を苛つかせるのだった。

小屋に帰って来た兄弟は、千枝子の姿がいないので、どこに隠した!と互いを疑い、つかみ合いの喧嘩になる。

その時、デブ弟が、窓辺に置かれていた千枝子の置き手紙を発見する。

「山を下ります。楽しい思い出を持って 千枝子」と書かれていた。

千枝子は1人で山道を下山していたが、その途中で山賊一味に襲撃され誘拐される。

それを目撃していたのがデブママで、急いで小屋に戻ると、大変よ!お嬢さんがさらわれた!と喧嘩していた兄弟に教える。

すると、おかっぱ兄貴とデブ弟は、互いの目をしっかり見つめ合い、互いに小屋を飛び出すと、山賊たちを急襲する。

その頃、警官を伴った茶屋のハゲ店主と弘や仲間たちが山を登って来ていた。

おかっぱ兄貴とデブ弟は、力を合わせて山賊と戦う。

親分と子分1人が千枝子を連れて逃げたので、それを観たデブ弟は、兄貴!お嬢さんを救ってくれ!後は俺がやる!とおかっぱ兄貴に声をかけると、自ら、巨大な岩を渾身の力で頭上に持ち上げる。

塒に到着した親分と子分は、千枝子を襲おうと迫るが、必死に小屋の中を逃げ回るうちに、千枝子は気絶してしまう。

そこに飛び込んで来たのがおかっぱ兄貴で、親分と子分を追い払うと、千枝子を助け出す。

逃げ出した親分を追って来たおかっぱ兄貴は子分相手に戦い続けていたが、力自慢の親分に投げ飛ばされ、崖下に滑り落ちてしまう。

それに気づいたデブ弟は、パチンコで石を投じる。

その石が頭に当たった親分はバランスを崩し、自分も崖下に滑り落ち、おかっぱ兄貴の死体の側に留まる。

駆けつけて来たデブママは、崖下の兄の死骸にすがりつき嘆く。

助けられた千枝子とデブ弟も、その様子を哀し気に見守っていた。

その時、デブ弟の背後に、茶屋の店主や警官と一緒に仲間たちが現場に到着したので、思わず千枝子は手を差し伸べる。

それを自分に手を止し伸びられたと勘違いしたデブ弟も、嬉しそうに手を差し伸べ、駆け寄って来た千枝子を抱きとめようとするが、千枝子は、弘さん!と呼び掛け、デブ弟の横を通り過ぎると、弘に抱きつく。

それを観たデブ弟は、死んだおかっぱ兄貴の手をとって、兄貴!バカな大工(?)を許してくれ!と声をかける。

それを観ていた茶屋の禿げ店主が合掌する。

俺たちには俺たちの世界があったのに、分不相応な夢を持ってしまった。天罰だ!天が俺たちに罰を与えたのだ!デブ弟は嘆く。

こうして、哀しい思い出は過ぎ去り、再び初夏が訪れた時…

デブ弟は、旅用の着物を来て、デブママから弁当を受け取り、2、3年の辛抱だから…と言い聞かせ、山を下りて行く。

そんなデブ弟にデブママは、東京に出ても、決してサーカスの見せ物なんかに売られるんじゃねえぞ!と声をかける。

大丈夫だよ!兄貴も見守ってくれているよ!立派な人間になって戻って来るよ〜!とデブ弟は、遠ざかった母親に返事をする。

身体、大事にしろよ〜。転んだって起きて、立派に生きるんだよ〜!とデブママの声は続いていた。

そんな母親を振り返りながら手を振って歩いていたデブ弟は、池に落っこちてしまうのだった。


 

 

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