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國士無双

伊丹十三監督の父親伊丹万作監督作品で、若き日の千恵蔵御大主演のナンセンス時代劇。

戦後の、いかにも顔の大きさだけが目だつおじさんになった千恵蔵ではなく、若々しい美青年時代の作品ながら、この当時すでに、御大は自分のプロダクションを持って映画を製作していたと言うのがまず凄い。

内容は、現在の時代劇コントの原型のような、コテコテのコメディなのも意外である。

御大が明るく歌う「鴛鴦歌合戦」(1939)もぶっ飛んでいるが、こちらも負けずおとらず、戦前の作品とは思えぬモダン振りである。

考えてみたら、「丹下左膳餘話 百萬兩の壺」(1935)だってモダンなコメディ時代劇なので、戦前の時代劇の方が戦後より自由に作られていたようにも思える。

戦火が間近に迫った暗い世相だったことが、逆にこうしたあっけらかんとした明るさを生んだのかもしれない。

それにしても、昔、ドリフのコントなどで良く観た武芸者コント、囲炉裏端に座している達人のような老人が、どこからでも打込んで来なさいと新参者に言い放ち、鍋の木蓋を盾のように構えて待ち構える中、新参者が殴り掛かると、あっさり打たれてしまうと言うコント芸の原型がここにあったことを始めて知った。

戦後のコント作家が考えたアイデアと思っていたものが、実ははるか昔、戦前からある古典的ギャグだったのだ。

他にも、偽者に化け、料亭で只酒を飲むシーンでの御大のヒゲのギャグなども今でも十分通じるものだろう。

字幕に出て来る言葉もやけにモダンだし、音声はなくても、面白さは今でも健在である。

どうやら、現在残っているフィルムは断片的な部分であって、あちこち欠落しているような印象だし、後半部分もかなりが失われているようだ。

山田五十鈴さんなどは若過ぎて画面上では判別出来ないし、白髪の仙人役らしい伴淳も気づき難い。

その点、偽者なのにヤケに大物風の千恵蔵御大と、とぼけた本物を演じている「あのね…のおっさん」こと高勢実乗はすぐに分かる。

冒頭で、文無しの風来坊風だった御大が、何故か偽者になると、急に身なりがきれいになり大小も下げているのはどう言う経緯があってのことなのか良く分からないが、何かシーンが欠落しているのか、単なるナンセンス表現なのか、はっきりしないのも又面白い。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1932年、片岡千惠藏プロダクション、伊勢野重任原作+脚本、伊丹万作監督作品。

雰囲気、 秘密会話(の文字)

2人の浪人者尾羽内烏之亟(瀬川路三郎)と伊賀左馬亮(渥美秀一郎)が外で話している。

旨い酒が飲みたい…と1人が呟けば、意図も容易いこと…ともう1人が答え、御主、伊勢伊勢守を知っているかと聞いて来る。

相手がぽかんとしていると、西国随一の剣の達人で鬼神と呼ばれている伊勢伊勢守の事を知らんか?と重ねて聞いて来る。

今、その伊勢守が当地に滞在中だそうだ。我々は偽者を仕立て上げ、我らはその門弟になるのだと言う。

メンタルテスト(の文字)

2人の侍は、近くで見つけた青年(片岡千恵蔵)に、お前、今まで何をしていた?と聞く。

その青年は、寝たり起きたりしていた…ととぼけたことを言う。

侍になる気はないか?と聞き、名を尋ねると、俺はヨコと言うと青年は答える。

伊勢伊勢守になってみないか?と勧めると、うん、俺も相当になったな…と青年はうぬぼれる。

被害の事実(の文字)

ヨコは、伊勢伊勢守の偽者に化け、付け髭をつけて料亭に出向く。

有名人だと言うので、芸者たちも総動員で飲めや歌えの宴会が始まる。

伊勢守の門弟に化けた件の2人も、もくろみ通り下座に座り、大いに飲み明かすのだったが、ふと気がつくと、偽伊勢守が懐から安そうなタバコ入れを出してタバコを吸おうとするので、顔とジェスチャーで止めろ、懐へ戻せと伝える。

やがて、もう1人の偽門弟が、偽伊勢守の右のヒゲがなくなっていることに気づき慌てる。

芸者たちに気取られぬよう、何とか身振り手振りでそのことを偽伊勢守に伝えようとするが、偽伊勢守は気づかない。

料理に箸を伸ばした偽伊勢守は、椀の煮物の上に落ちている付け髭を発見、慌てて鼻の右下に貼付けるが、慌てているので、上下が逆であった。

それに気づいたもう1人の偽門弟は、慌ててヒゲの向きが逆だとジェスチャーで伝えようとするが、やはり勘の鈍い偽伊勢守は意味が分からず、左の方の付け髭までも逆に付け、まるでカイゼルヒゲのように、両方のヒゲは上にふんぞり返る。

その後、本物の伊勢伊勢守が門弟たちとやって来る途中、伊勢守の娘お八重(山田五十鈴)は、3人の暴漢に誘拐されていた。

そこに行き会わせた偽伊勢守は、森の中の道に紐を張り渡し、お八重を抱えて逃げて来た賊たちを引っ掛ける。

つんのめって倒れる賊の手から離れ、飛び出したお八重をがっちり両の手で受け取る偽伊勢守。

そこへやって来た本物の伊勢守(高勢実乗)は、娘を助けられた礼として一献差し上げたいので、一緒に家まで来てくれぬかと偽伊勢守に声をかける。

しかし、偽伊勢守はそれには及ばんと断るので、それでは当方の気がすまぬ。頼むから来てくれ!と本物の伊勢守は頼む。

しかし、偽伊勢守がそれには及ばんと何度も断るので、こうなったら武士の意地だ。力にかけても連れて行ってみせると本物は力み始める。

それでもなお、偽伊勢守は、それには及ばんと繰り返すだけ。

どうしてもか?どうしても来ぬか?と本物は迫るが、偽者はやっぱり、それには及ばんと断り続ける。

ならば、せめてお名前だけでも聞かせて頂きたいと本物が聞くと、名前は伊勢伊勢守と言うと答えて来るではないか。

一瞬、耳を疑い、自分の耳の穴をかっ穿じってみる本物。

もういっぺん聞かせてくれないか?と言うので、偽者は又しても、伊勢伊勢守だと答える。

何か勘違いしているようだが…、もう1度しっかり考えて答えてくれと本物は言うが、いくら考えてもわしは伊勢伊勢守だと偽者が答えるので、癇癪を起こした本物は、わしこそが西国随一の剣の達人で無双流剣法の元祖、武芸十八番!と朗々と口上を述べるが、偽者は、お話中だが、そんな話を聞いている暇はないとあきれ顔。

もう少しじゃ!と睨みつけた本物は、お八重に、どこまで話した?と確認後、わしが鬼神と言われた伊勢伊勢守だ!と口上を話し終えると、さては同類か?と偽者は淡々と答える。

本物が改名を迫り、剣を抜いて立ち会いを求めると、そちらこそが改名せぬかと臆せず偽者は言い、地面に落ちていた木の枝の中からまっすぐなものを選んで拾い上げる。

ちょっと待て!刀を取れと本物は戸惑うが、偽者が従おうとしないので、それで良いと言い、斬り掛かろうとする。

しかし、偽者にあっさり交わされ、木の棒で頭を殴られる。

怒った本物は刀を振り回し相手を斬ろうとするが、勢い余って木の幹に刃が刺さり抜けなくなる。

必死に抜こうとする本物に同情した偽者が、自ら手を貸し刀を抜いてやる。

それでも背後からかかって来た本物を投げ飛ばした偽者は、木の棒で相手の頭をチョンと叩いた後立ち去って行く。

すっかりコケにされた本物は号泣し始める。

弟子たちが手ぬぐいを差し出したので、それで涙と鼻水を拭くと、本物が偽者に負けるなど、歴史始まって以来。わしは3年山にこもる!と宣言する。

臥薪嘗胆

山にこもっていた本物の伊勢伊勢守は、山小屋に暮らしていた白髪の仙人(伴淳三郎)に会う。

弟子にしてくれと頭を下げる本物伊勢守に、いかなる所へでもう打込んで来なさいと言い放った白髪の仙人は、囲炉裏にかけてあった鍋の木蓋を取ると、それを盾のように構えて待つ。

その直後、本物伊勢守が木の棒で頭を叩くと、何の抵抗もなく殴られた白髪の仙人はあっけなく気絶してしまったので、慌てた伊勢守は必死に介抱してやる。

気がついた仙人は、伊勢守を前にすると平身低頭し、それ以来、すっかり伊勢守の弟子のようになり、飯炊き、薪割り、腰揉みと何でもするようになる。

3年経過

終(現存するフィルムの1本はここで唐突に終わっている)

(以下、無類の映画好きだった松田春翠氏が、戦後収集した本作の断片であるとの、松田ライブラリーの川喜田かしこ氏の解説文が出る)

旨い酒が飲みたい…と1人が呟けば、意図も容易いこと…ともう1人が答え、御主、伊勢伊勢守を知っているかと聞いて来る。

相手がぽかんとしていると、西国随一の剣の達人で鬼神と呼ばれている伊勢伊勢守の事を知らんか?と重ねて聞いて来る。

今、その伊勢守が当地に滞在中だそうだ。我々は偽者を仕立て上げ、我らはその門弟になるのだと言う。

メンタルテスト(の文字)

2人の侍は、近くで見つけた青年(片岡千恵蔵)に、お前、今まで何をしていた?と聞く。

その青年は、寝たり起きたりしていた…ととぼけたことを言う。

侍になる気はないか?と聞き、名を尋ねると、俺はヨコと言うと青年は答える。

伊勢伊勢守になってみないか?と勧めると、うん、俺も相当になったな…と青年はうぬぼれる。

(場面は飛び)お八重を助けて、本物の伊勢守から偽者が名前を聞かれるシーン

一瞬、耳を疑い、自分の耳の穴をかっ穿じってみる本物。

もういっぺん聞かせてくれないか?と言うので、偽者は又しても、伊勢伊勢守だと答える。

何か勘違いしているようだが…、もう1度しっかり考えて答えてくれと本物は言うが、いくら考えてもわしは伊勢伊勢守だと偽者が答えるので、癇癪を起こした本物は、わしこそが西国随一の剣の達人で無双流剣法の元祖、武芸十八番!と朗々と口上を述べるが、偽者は、お話中だが、そんな話を聞いている暇はないとあきれ顔。

もう少しじゃ!と睨みつけた本物は、お八重に、どこまで話した?と確認後、わしが鬼神と言われた伊勢伊勢守だ!と口上を話し終えると、さては同類か?と偽者は淡々と答える。

怒って剣を抜き、斬りつけた本物だったが、勢い余って、刀が木の幹に食い込み取れなくなる。

呆れた偽者が代わって剣を抜いてやり、本物に手渡した後、背後から飛びかかって来た相手を投げ飛ばして木の棒で頭を叩くと立ち去って行く。

泣き出した本物に手ぬぐいを渡す門弟。

それで涙と鼻水を拭った本物は、本物が偽者に負けた例は、古今東西歴史にない。わしは3寝年、山にこもると宣言。

臥薪嘗胆

山の中にやって来た本物伊勢守は、山小屋に住んでいた白髪の仙人と出会う。

その仙人に頭を下げた本物は、何処なり共打込んで参れ!と言われ、仙人が、木蓋を盾のように身構えたので、その頭頂部を木の棒で殴りつけると、あっさり相手は気絶してしまう。

慌てて介抱してやると、気がついた仙人は本物伊勢守にすっかり怖じ気づき、平身低頭、弟子のようになり、それ以来、伊勢守の身の回りのことは全部してくれることになる。

お陰で本物伊勢守は、山の中でも気楽な毎日を過ごすようになる。

かくして3年経過…

下界に下りて来た本物伊勢守は、道場を開いていた偽者と再会、道場内で再勝負を挑むが、少しも腕が上達していなかったので、またもやあっさり偽者に負けてしまうのであった。


 

 

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