白夜館

 

 

 

幻想館

 

渡る世間は鬼ばかり ボロ家の春秋

佐田啓二、有馬稲子主演の貧乏ラブコメ映画で、タイトルには「ボロ家の春秋」としか出て来ず、「渡る世間は鬼ばかり」の文字は出て来ない。

松竹の貧乏映画と聞くと、何だか、60年代後半頃から70年代頃に量産されていた、低予算の貧乏臭くかつ泥臭い喜劇のようなものを連想するが、これは50年代の作品なので、同じ貧乏テーマでも製作費はそれなりにかけているようで、安っぽく見えない。

高度成長期の初期の頃の時代背景らしく、徐々に文化的な生活と言うビジョンが庶民にも見え始める中、現実は苦しい毎日…と言うギャップを皮肉ったものである。

東宝の「万事お金」(1964)で星由里子が演じたような、貧乏暮らしが嫌で、恋愛も含め「万事お金」と言う風に計算高く生きる娘の原型がここにもある。

ヒロイン役の有馬稲子は、貧しい学校の事務員をしながらも、時にはロカビリーも聴きに行くあっけらかんとした現代娘であり、色っぽい二号サカエを演じる小山明子は、とことん色仕掛けで男を利用する図太いタイプ。

ボロ家の主のように居座っている三好栄子は、学はなさそうで無口ながら、ひたすら耐え続ける昔ながらの女房の典型のように描かれている。

古畑団長の妻ネギは、何を考えているのか分からないような不思議ちゃん。

女性陣だけではなく、男性陣のキャラも強烈で、一見まじめな好青年風に見えながらも、ひたすらお人好しの佐田啓二すらある種の変人に見える。

ボロ家を舞台にした話だし、ロケ風景も郊外のように見えるので、一見「下町人情喜劇」か?と勘違いしそうなのだが、良く見ていると新宿近辺の話なのである。

下町ものに良く登場するガテン系のような人は一切出て来ない。

浪子が五味を連れて行くのは、歌舞伎町のロカビリー喫茶なのだから、今で言えば都会の真ん中の話である。

しかし、50年代のコマ劇場と新宿ミラノの間の広場が見られると言うのも驚きである。

今や再開発中で大きく様変わりしているとは言え、広場の周囲を映画館が取り囲んでいた様子は当時から変わらないように見える。

松竹映画らしく、カメラは「新宿ミラノ」と「グランド松竹」と言う系列館の方だけを写しているのだが、看板に書いてある「戦場にかける橋」(1957)なども時代を現している。

新宿に路面電車が走っていたと言うのも初めて知ったような気がする。

電車の全面に書かれている行く先が「新宿」と言うことは、路線としては一番端だったと言うことだろう。

高層ビルなどがまだ一切ない時代であるのは分かるが、何だか、電車道のすぐ脇も、平屋建ての飲屋街のような雰囲気で、今の新宿からは想像もできないひなびた様子なのが興味深い。

そう言うことも含め、時代背景で良く分からない部分もある。

例えば、浪子が勤めている学校(観た感じ、小学校か中学校のよう)が経営不審で廃校になると言う描写。

当時は、戦後の子供、今で言う団塊の世代で溢れんばかりに子供がいた時代だったのではないか?

その義務教育の学校で、しかも新宿近辺にある学校が経営不振になると言う状況が良く分からない。

都心のドーナツ化現象で、二十三区内の子供が少なくなって…などと言う時代の遥か昔の話なのだから。

分からないと言えば、ヒロイン浪子のファッションも良く分からない。

有馬さんは細い身体にしては胸が大きく、大きく胸が開いたデザインの服を一張羅のように着ているのだが、その衿の根本部分を安全ピンで留めて開かないようにしているのだ。

この安全ピンの意味が分からない。

ヒロインの貧乏を表現するために、衿が破れていて仮留めしているのではない。

最初から衿が開いているデザインなのである。

デザインが気に入り買ってはみたけれど、職業柄や彼女の性格上、はしたない感じに見えないよう、急遽安全ピンで塞いだ…と言うことなのかもしれないのだが、見ていると、衣装さんが用意した服を有馬さんが実際に着てみたら、かなり胸元が大きく見えてしまうことに気づき、急遽、安全ピンのアイデアを出した…と言う風にも見えなくない。

有馬さんの、可愛らしいのに、終始不機嫌と言うか、ふて腐れているように見えるキャラクターにマッチしてはいるのだが。

桂小金治扮する中国人が、少林寺拳法の達人と言うのも不思議な感じで、この時代から、少林寺拳法は中国生まれの拳法と言う認識が日本であったと言うことが分かる。

それにしても、天下のイケメン佐田啓二さんが、強力な虫下しを飲まされ、トイレに駆け込むなどと言ったコテコテの下ネタをやっているのも驚き。

息子の中井貴一さんが時々CMなどでやっているハイテンション演技でこそないが、そのまじめそうな雰囲気が、こうしたドタバタに振り回されていると言うギャップが独特の面白さを産んでいるのも確か。

夭折した方ながら、色んなタイプの映画に出られていたんだな〜と、改めて感心する。

この時代の松竹作品は、今見ても面白い。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1958年、松竹、梅崎春生「渡る世間は鬼ばかり ボロ家の春秋」原作、椎名利夫脚色、中村登監督作品。

新宿行きの路面電車の中、椅子に腰掛けていた五味司郎太(佐田啓二)は、目の前に立っていた中年男が酔っているのを狙い、隣に立っていたサラリーマン風の男(大泉滉)が、札入れを掏ろうとしているのに気づいたので、それとなく、酔った男足を蹴ったりして知らせるが酔った男は気づかない。

掏った方の男が新宿駅で降りたので、今の男が財布を!と沙汰は教え、ポケットに手を入れて札入れがなくなっている男はようやく掏られたことに気づき、五味と一緒に電車を飛び降りると、スリの後を追いかける。

スリは、2人が追って来たことに気づくと慌てて逃げ出すが、先回りした五味と被害者に挟まれ、観念したのか、掏った札入れを黙って差し出して被害者に渡すと、自分は何ごともなかったかのように去って行く、

その後、掏られた被害者不破数馬(多々良純)に誘われ、小料理屋の二階で酒を御馳走になることになった五味は、遠慮せずに痛飲する。

不破が、札入れを掏られたと思えば良いのだ!などと景気良く勧めたからだった。

不破は、俺の先祖は不破数右衛門!播州赤穂浪士の1人で槍を取ったら日本一!などと、既に何度もしつこく聞かされた自己紹介を又繰り返そうとする。

そこへ、店の女お香代(大津絢子)がやって来て、お勘定をと催促する直前、急に不破は眠くなったように横になる。

結局、御勘定書は五味が受け取る羽目になったので、何度も不破を揺り起こそうとするが、不破は全く目覚めない。

仕方がないので、不破の札入れを開いてみると、中は催促状や質札ばかりで現金が全く入ってない。

呆れて、不破のカバンも開けてみるが、その中も紙切れだらけだった。

結局、不破は金を持ってなかったことが分かったので、仕方なく、五味は自分で1750円の勘定を払うはめになる。

2000円五味から受け取ったお香代が、今、お釣りを…と言って立上がると、釣りはいらん!と言いながら、急に目が覚めたように起き上がった不破は、そのまま飲み屋を後にしたので、五味も仕方なく後に付いて行くしかなかった。

不破は五味をタクシーに乗せ、自分の屋敷に連れて来るが、タクシーを降りると、車代を出してくれと言う。

結局、お人好しの五味は、タクシー代まで払わされることになる。

がっかりして、ドアを叩きながら中に呼びかけている不破のいる玄関前に来るが、いくら不破が呼びかけてもドアは開かない。

不破の女房マキ(三好栄子)は、子供二人と既に寝ており、全く起きようとはしなかった。

その時、ネギー!と呼びかけながら近づいて来た男がおり、驚いて五味が振り返ると、その男は、鞭を持ち、奇妙な帽子と服を着た中年男だった。

すると、すぐに玄関ドアが開き、ネギ(瞳麗子)と言う名らしい若い娘が嬉しそうに男を出迎えたので、五味と不破も一緒に屋敷の中に入ることができたが、不破が言うには、今の古畑(日守新一)と言う男は、昔、サーカスの団長だった男で、ネギはその娘ではなく若い女房だと言う。

自分の部屋に入った古畑団長は、酔っているらしく、猫をライオンに見立てて鞭を振るったりした後、ベッドに横になる。

ネギは、室内にも関わらず、暖房がないためか、寒そうにコートを着て七輪で夜食の鍋を温めながらあくびをする。

五味が案内されただだっ広い部屋は、女房と男の子、女の子が床に並んで寝ているだけだけで、家具類のようなものは何もなかったので驚くと、不破は、僕はものに執着しないんだ!などと言いながら、さっさと自分で毛布の上に寝てしまう。

無理矢理連れて来られた五味は呆れながらも、仕方なく上着を脱いで、不破の横に寝ることにするが、不破の鼾が凄いので、側にあったお椀を不破の口の上に置いたりするが、ほとんど一睡も出来なかった。

翌朝、不機嫌そうな女房マキが作った朝食を食べながら、不破が五味に、部屋を探しているんだって?空いてる部屋があるんだと聞いて来る。

家賃は月500円、権利金40000円でどう?と言うので、そのくらいだったら出せると五味が答えると、今まで無愛想だったマキが急に笑顔になり、鍋の残りのみそ汁を全部五味のお椀に入れてくれたりする。

仕事は何?と聞かれた五味は、バイオリンをやるんで…と答えると、僕は芸術にも理解があるんだなどと言う不破は、屋敷内を案内してくれる。

ロビーと紹介された場所にあった椅子に不破が腰掛けると、椅子が壊れてしまうし、屋敷内は朝の光の中で見ると、あばら屋と呼んだ方が正しいような汚れ放題の状態だった。

そんなことには無頓着風の不破は、僕は今、会社を作ったり潰したりしているんだが、この土地は時価600万はする。5年もすれば倍だよ。懐手して金が増えるよなどと自慢げに言うと、気に入ったら権利金を急いでもらえまいか?播州から県会議員にならないかと言われているので、近々出かけなければいかんのだよなどと言う。

そして不破は、君は大成するよ。ダイヤモンドみたいな目をしてるなどとおだてて来る。

その日、五味は、恋人の魚住浪子(有馬稲子)のアパートへ行き、権利金を貸してくれないかと相談するが、一介のサラリーガールにそんな金がある訳ないじゃない!と呆れられる。

でも、机の中の通帳に貯めているじゃないかと五味が指摘すると、見たのね!と浪子は睨みつける。

貸してくれって言ってるんだから、君も損じゃないはずだよ。月に1割でどうだい?と五味が持ちかけると、私、月2万で2号をやるって言う手もあるのよなどと浪子は脅かし、「十三間坂下」と言う停留所からバスに乗り込む。

バスの乗降口まで付いて来た五味が手を打とうよと迫ると、バイオリンをカタに、10日で1割!分かった?と浪子は強気に要求して来る。

それじゃあ、僕仕事出来なくなっちゃうじゃないか!と五味は怒るが、もうバスは走り出していた。

業者からもらった「回虫 ムシクダールチョコレート」を教師同士分け合っている職員室の事務が浪子の仕事だった。

そんな浪子の所へやって来た国文学の教師野呂旅人(三井弘次)は、校長に会いたいんだが、どこにいるんだ?もう三ヶ月も給料をもらってないんだ!と窮状を訴える。

そこに、当の牧山校長(渡辺篤)がやって来て、お茶を一杯!と浪子に声をかけたので、お茶の葉がありません!と浪子は答える。

その牧山校長に近づいた野呂は、4万ほど拝借出来ないでしょうか?と申し出るが、牧山校長は、野呂先生は国文学がご専門でしたが、卒業論文は?と唐突に聞いて来る。

古代文学ですと野呂が答えると、今、文部省から、研究助成金が出るそうですから、それに申請してあげましょうか?「本朝に於ける愛欲のあり方」などと言うのは御得意なのではないですか?などと持ち上げ、書類を野呂に渡すと、牧山校長は、又どこかに出かけてしまう。

それを観ていた浪子は、急に笑い出すと、見事に肩すかしを食らいましたねと野呂をからかう。

牧山校長は、「山吹屋」と言う質屋に来ると、腕時計や小物を何点か差し出すが、全部で4万にしかならないと聞くとがっかりする。

しかし、背に腹は変えられず、4万を手にした牧山校長は、その足で「花咲会公演会」の会場に来る。

そして、楽屋で化粧をしていた女性能役者に会うと、御金持って来て下さった?と言われたので、持って来た金を渡すと、たった4万?と不満そうだったので、君ともお別れだと牧山校長が言うと、手切れ金ね…、ただで別れようと言うのね?と女性は睨みつけて来ると、今私が住んでいる家の名義、私の名前に書き換えといてねなどと言い出す。

しかし、牧山校長は、あの家はもう二重抵当に入っとるんだと無念そうに教える。

能舞台に立った女性は、般若の面をかぶっていたので、それを客席から見た牧山校長は震え上がる。

やがて、何故か、女性が舞台から転げ落ちたので、驚いた牧山校長が助けに行くと、衣装の襟元から先ほど渡した4万が入った封筒が飛び出ていたので、それを渡すと、受け取った女性からいきなりビンタされる。

五味は、見知らぬ男が屋敷にやって来たので誰かと聞くと、それは教師の野呂で、自分は不破に手付けを打ってこの家を買ったので、君はすぐに出て行ってくれ等と言い出す。

憮然とした五味も、自分も契約してこの家を借りたばかりだと主張し、互いの契約書を見せ合った結果、2人とも不破に騙されていたことに気づく。

そんな2人は、内職の人形作りに精を出していたマキの部屋に来ると、野呂はこの家は自分のものになったんだから出て行ってくれとマキにも言うが、そんな話は何も聞いてません!と無視したマキは、家主は私なんだから、あんたも家賃2000円を払ってくれ。うちの人は、野呂さんは真からの好人物だと言ってましたよなどと言いながら、旅行に出かけた不破から届いたと言うはがきを見せる。

しかし、野呂は、これは僕の家だよ!世界を相手にしても戦うからね!と納得出来ない様子だった。

そこに見知らぬ男たちがやって来る。

不破に会いに来たようだったが、1人は刑事で、もう1人の中国服を来た男は、陳根頑[チンコンカン](益田喜頓)と名乗る。

不破が不在だと知ると、ケイジは、他にも詐欺のある男ですよと言い、先に帰って行く。

残った陳は、不破に18万の貸金があると言う。

私の店で後のことを話し合いましょう。ごちそうしますと陳が言い残して帰ったので、野呂は五味に、良いね?と確認し、陳の店に行くことにするが、あいつ、どうも油断できんな点、僕の人を観る目は確かなんだなどと耳打ちして来たので、五味は呆れる。

五味は、その後、浪子を連れて陳の中華料理店「文福飯店」にやって来ると、すでに来て先に食べていた野呂が、遅いよ!と五味に文句を言いかけるが、一緒に入って来た浪子を見て驚き、君たち何?と聞いて来る。

恋人同士と浪子があっさり答える。

食事を始めた五味、浪子、野呂の前で、従業員の孫伍風[ソンゴフウ](桂小金治)と相棒が、少林寺拳法の演技を披露する。

それは、客を楽しませる余興のように見えて、実は、従業員の力の強さを見せつける無言の脅迫行為のようなものだった。

陳は、五味がバイオリンの奏者だと知ると、私、大の芸術ファンよなどと相好を崩したので、負けじと、野呂も、僕は小説も書きます!かつては同人誌に5、6作書いたと主張する。

どんな小説?と疑いぶかそうに陳が聞くと、「裸の女王様」などと野呂が答えたので、エロ小説か…と陳は蔑む。

孫が酒を持って来ると、只酒と言うことでどんどん調子に乗って飲んでいた浪子はすっかり酔っぱらい、陳はその様子に目を細める。

そして陳は、不破君のことを忘れていた。今後は私が代表して、彼と交渉したいので、賛成ならこの書類に拇印を押して欲しいと言いながら、孫が持って来た書類を野呂と五味に渡す。

その種類を目にした野呂も、もう相当酔っていたが、内容を読んでないので判など押せない!と抵抗する。

すると、酔った浪子が立ち上がり、2人ともさっさと押しちゃえ!と言いながら、野呂と五味の背後に立つと、2人の手をとって朱肉に指を付け、自ら強引に書類に親指を押し付ける。

その様子を観ていた陳と孫は、互いに顔を見合わせ笑い合う。

酔った浪子をアパートまで連れて来た五味は、布団に寝かせて、その寝顔にキスをすると、そっと借金のカタに置いていたバイオリンを持ち帰ろうとする。

すると、突然、泥棒!と言いながらムクリと起き上がる浪子。

しかも、手を差し出して、キス代500円!とまで言い出す。気づいてたのかいと五味が呆れると、200円に負けとくなどと言う。

そして、商売の上がりの2割を頂戴!とせがみながら、唇を突き出しキスをねだる浪子。

五味はキスしようと唇を近づけるが、もうお金ないよ…と情けない声を出す。

古畑団長が馴染みの店で飲んでいると、五味がバイオリンを片手にやって来て流しの仕事をし始める。

古畑の前にやって来た五味は、軽く会釈しながら、何でも弾きますと言うので、「博多おけさ」をやれと言うと出来ないと言うので、では「ろっこうしょ(?)」をやれと言うと、お経ですか?と五味が聞いて来たので、偽者だな、お前は!と古畑は断じる。

もっと勉強して来い!と古畑が叱りつけると、五味はふて腐れて店を出て行く。

すると、古畑団長は愉快そうに笑い出す。

次の店に入った五味は、五味君じゃないか!と呼ばれたので、見ると、それは恩師の音楽の先生(明石潮)だった。

チャイコフスキーのコンチェルトをやってみろ!と言われたので、はい!と素直に返事をして弾き始めると、何だその様は!なっとらん!君の心は張りがない。芸術の神聖さを犯す悪魔だ!帰れ!と言い、金を出すが、五味ははい!とだけ返事をして、金も取らず、店を出て行く。

外の暗闇に出た五味は、でもね、先生…、世の中、金ですよ。唯一の助けなんです。芸は身を助けるって言いますが、金なくして何で己が桜かな…なんですよ!と一人ぼやく。

家に帰りベッドに潜り込んだ五味だったが、朝、部屋の外から大量の鳥の声がして来る。

いつの間に持ち込まれたのか、廊下に大量の鳥箱が置かれており、そこにウズラやアヒルが何羽も入って鳴いている。

女将さん、ちょっと!とマキの部屋に呼びに行くと、マキはちょうど子供たちと朝食を食べている所だった。

マキが五味の相手をしに部屋の外へ出ると、男の子二郎(五月女殊久)と女の子は、お櫃のご飯を奪い合うように茶碗に注いで食べ始める。

部屋の外の鳥籠がうるさくて寝られないと言う五味の抗議を聴いたマキは、私は廊下は貸してません。貸したのは部屋だけです。ウズラの卵でも売らないと生きてられないんだよ!と強気で言う。

部屋に戻って来たマキは、お櫃が空になっていたので、バカ!一日分をいっぺんに喰って!と子供たちを叱り飛ばす。

その時、ふと窓から庭先を見たマキは、野呂が土を掘り返しているので、慌てて外に出ると、ここはうちの土地ですよ!と抗議をする。

俺が買った俺の土地だ!と野呂が言い返すと、私は手付けなんかもらってませんからね!と憤然とマキは抗議する。

その時、二階の窓から、五味が鳥籠を次々に放り投げて来る。

マキは逆所言うし、私たち親子を飢え死にさせるんですか!殺人罪ですよ!ともう抗議する。

そんな屋敷の裏手で、酒屋の配達人から酒を受け取っていたネギは、ネクタイをプレゼントしていた。

野呂とマキがいる所に、税務署の者と言う男(十朱久雄)がやって来て、不破さんは?と聞く。

今いないと言うと、では、この家の権利者は?と聞いて来たので、マキと野呂は互いに自分だと名乗り出るが、固定資産税がたまってるんですが…と言われると、2人共黙り込む。

部屋で、五味がコッペパンを食べていると、見知らぬ女が入って来たので、誰ですか?と聞くと、あんたこそ誰よ?今日までにこの家明け渡す約束になってるのと言い出す。

下の庭先では、自分はまだ登記の手続きもしてないので、事実上の所有者はあの人ですと野呂から指差されたマキは、家の中に逃げ込んでいた。

断固として、あの婆さんから取るべきです!と野呂が税務署員に言っていると、五味がやって来て野呂に耳打ちする。

すると、怒った野呂は、ここはわしの家なのに!とつい言ってしまう。

ロビーに入った野呂と五味と新しい女、二号サカエ(小山明子)の前に現れたのは孫で、今月分の家賃をもらいに来た。この家は押さえたと言うので、2人は唖然とする。

あんたたち、拇印押したじゃないの!と言われた2人は「文福飯店」で、浪子が押してしまった書類のことを思い出す。

4000円!払うのか、払わないのか!と孫が少林寺拳法の構えをしながら睨むと、あなたのご主人、トンチンカンって言うの?とサカエが話しかけたので、トンチンカンない!陳根頑(チンコンカン)よ!と孫が訂正すると、まあ、可愛らしい!とサカエが孫の顎下をなでたので、急に孫はデレデレした顔になる。

野呂と五味はこそこそ話し合い、1人2000円ずつ払うことにする。

続いて孫は、古畑団長の部屋に入ると、2000円出す!と要求し、ドアを手刀で割って脅かす。

すると、壁にかかった猟銃を持ち出した古畑団長は、わしは家賃など払ったことももらったこともない。ないもんは払えん!こんなボロ屋で何をぎゃーぎゃー言っとるんだ!なあ、ネギ…と言いながら、窓から外に向けて一発撃ったので、さすがに孫も怯えて帰る。

その夜、部屋のベッドに入った五味だったが、廊下に並べられた鳥籠の中の取りたちがうるさくて寝付けないので、逆上してバイオリンを弾き始める。

部屋で「古代文学に於ける愛欲に付いて」と言う論文を執筆中だった野呂も、うるさくてさっぱり書けず、ああ、うるさい!と頭を抱える。

古畑団長もうるさくてたまらず、ロビーでテーブルを投げつけたりして暴れ始める。

サカエも、ここは私の家なのよ!出るもんか!と叫ぶ。

そんな中、マキとその子供2人だけはすやすやと部屋で寝ていた。

ある日、五味は浪子と濃厚なキスをしていた。

終わると浪子は、スペシャル300円と、キス代を要求し、今日食べたおかず当てましょうか?ウズラ豆でしょう?などと色気のないことを言うと、金勘定をし始める。

五味の方は、この一週間、一睡も出来ない!と不満を爆発させ、この部屋に置いてくれないか?部屋代も食事代も出すから!と頼む。

その時、向いのアパートの部屋のカップルがキスしているのが見えたので五味はしらける。

どう?若いつばめ?安くしとくよなどと五味はプライドをかなぐり捨てて頼むので、黙って聞いていた浪子は散歩しましょう。あんた、運動不足よと答える。

貧乏人同士が結婚したって幸せになれない…、コートを着て外に出た浪子は歩きながら言い、「人間の条件」の中の文章を言ったので、もうカックンだよ…と五味は気落ちする。

そんな五味にジャムパンを半分ちぎって渡した浪子は、良い所に連れて行ってあげる!と言い出す。

浪子が五味を連れて行ったのは、歌舞伎町にあるロカビリーを演奏している喫茶店だった。

店を出た2人は、「戦場にかける橋」がかかっていた「グランド松竹」や「新宿プラザ」前の広場で一休みするが、汚れてるよ…とぼやいた五味が、僕は塾を開くんだ!と突然言い出したので、賛成!と言った浪子は、たまには良いこと言うわねと褒める。

「天才 五味司郎太先生 個人教授」と大げさな文言を掏ったビラを、2人は町内のあちこちに張りまくる。

ちょっと恥ずかしがる五味に、世は正に宣伝の時代よ!と浪子は励ます。

次の日曜日から、五味は屋敷のロビーに10人以上集まった近所の子供を相手にバイオリン塾を始める。

子供の数を数えていた浪子は、1人1500円取ると…などと嬉しそうに計算を始める。

そこにやって来た野呂は、これ見てくれる?と原稿用紙を五味に見せ、小説がまるで書けない!バイオリンの講習を止めてくれたまえ!と要求する。

日曜日だけでしょう…と五味が顔をしかめると、損害賠償代として、教授料の上がりの20%!などと野呂が言い出したので、暴論だよ!と五味は憤慨する。

するとマキまで出て来て、この広間を貸した覚えはありませんよ!ここは私の家ですからね!と言いながら手を出して来たので、そんな!汚い…と五味は呆然とする。

その後、五味の部屋に来た浪子は、今度から私ここに越してくるわ。マネージャーとして上がりの20%頂くからと言い出したので、そてじゃ、俺の分は何%なんだ!と怒る五味。

ただし、お部屋は別よ!と浪子は釘を刺す。

そこへやって来た古畑団長は、浪子を見て、美人だな…、令の二号さんと良い勝負だわと褒めると、2000円ばかり融通して欲しいと言いながら、鞭を取り出す。

五味は呆れて、教授料が月末に入りますので…と言うと、頼りにしてますぞ…と笑って出て行く。

「文福飯店」では、孫が別の従業員と、大人は女に甘いから心配よと二階の部屋を見上げながら話していた。

陳の店にやって来ていたのは2号のサカエだった。

本当に力を貸してくれる?チャイナドレスを着て来たサカエは得意の色仕掛けで陳に甘えていた。

陳はすっかり色仕掛けにハマり、サカエさん、飲もう!と鼻の下を伸ばしていたが、それを邪魔するようにわざと孫がお茶を持って来たので、陳はいら立って叱りつける。

サカエは、大きく割れたチャイナドレスの裾から大胆に太ももを見せながら、陳さん、女にモテるから心配だもの…などと言い、陳は嬉しそうに、飛んでもハップン!などと否定する。

権利書は私が持っている。不破は警察が捕まえる。あそこの家の者、子供だから、騙すの簡単!と陳が笑うと、陳さん悪党ねとサカエは嬉しそうにしなだれかかる。

そこに又、孫が、注文もしてないビールを持って来たので、邪魔された陳は怒る。

数日後、八百安と書かれた小型トラックの荷台に家財道具を積んで、浪子が屋敷に引っ越して来る。

五味の部屋にやって来た浪子は、五味がサカエと身体を密着させ、バイオリンを教えている現場を目撃し唖然とする。

今日引っ越して来たのかい?と慌てて五味が浪子に近寄ろうとすると、サカエは、急に首筋が痒いと言い出し、このほくろの上掻いて〜と五味にねだる。

五味が仕方なく掻いてやると、部屋をぷいと出て行った浪子は、野呂の部屋に勝手に入り込み、いつ来たの?あの人?とサカエのことを聞く。

お妾失業中だから、男に飢えてるんだね〜…と野呂は言い、浪子の引っ越し道具を運んでやる。

野呂の部屋に置いてあったチョコを食べようと浪子が手を伸ばすと、それは強力虫下し!と教え、その内、嫌な奴に食べさせようと思って撮ってあるんだと言いながら、引き出しの中にしまい込む。

野呂の部屋の中を見て回っていた浪子が、質素な生活してるのね?と感心すると、人生はまず金だからね。結婚するまでは貯めるんだと答えた野呂は、君だけに披露するよと言いながら、招き猫型の貯金箱の前に立つと、映画に行ったつもり…と言いながら小銭を投ずる。

その内、文化住宅を建てて、TV、電機洗濯機、電機掃除機、電気冷蔵庫!電気椅子!を買うんだ!と野呂は夢を語る。

(幻想)電機マッサージ椅子に腰掛けた野呂と結婚していた浪子は、メイド付きの文化住宅に住んでおり、スイッチを入れると移動する台が近づく。

ゴルフに行ったつもり…と言いながら、紳士のようになっていた野呂は貯金箱に小銭を入れると、浪子の頬にキスして金を渡すと、外に出ようとドアを開ける。

(幻想開け)野呂の開けた部屋の外に立っていたのは五味だった。

五味は、浪子を部屋の外に呼びだすが、浪子は不機嫌そうに、何よ!そこでおっしゃいよ!安香水の匂いぷんぷんさせて!と言い、野呂の部屋を出ようとしない。

その時、野呂が、これ食べないか?ただで進呈するよこれを食べれば、腹の虫も収まるかもね…と言いながら、引き出しにしまっていた虫下しチョコレートを五味に手渡す。

その直後、屋敷内が急に真っ暗になる。

蝋燭を手にロビーに集まって来た住人たちは、確か電燈代は、古畑さんがみんなまとめて電燈会社に払ったんだろう?と団長に疑いの目を向ける。

どうやら、みんなから集めた金は、全部、古畑団長が飲んでしまったので、電気を止められたようだった。

夜も内職してるのに、これじゃあ、口が干上がっちゃうよ!とマキが文句を言う。

団長は、金を出さなかった五味に非があるように、君、これは世論だよと責めるように言う。

貸さないとも言わなかったよ、1200円ぽっち!出しますけどね…、変だな?と首を傾げる五味。

散会しよう…と野呂がみんなに言うと、実は、不破数馬君の居場所が分かった。シャレには結構、お足で速攻(?)…などと古畑団長が突然言い出したので、全員その場で固まり、互いの顔色をうかがい合う。

翌日、五味はサカエからレストランに誘われ、不破は今、赤穂にいると教えられる。

さらに、浪子さんが野呂先生によろめいているの知ってる?などとも言い、私と契約しない?などと色仕掛けで迫って来る。

その時、五味は急にお腹の調子がおかしくなり、慌てて立上がると、テーブルの紙ナプキンをひったくってトイレに向かう。

慌てていたので女子トイレのドアを開けてしまい、中にいた女性客に悲鳴を上げられる。

南無阿弥陀仏!と念じながら、五味は男子トイレの方に駆け込む。

一方、屋敷の庭先では、野呂から話しを持ちかけられていた浪子が、出張手当いただける?と聞いていた。

そこにやって来た五味は、小さな紙包みを持っており、これ何だ?と野呂に突きつける。

何かと思って、紙包みを受け取った野呂が中を覗くと、横から覗き込んだ浪子共々顔をしかめる。

どうやら、中に入っていたのはサナダムシのようだった。

腹の虫が収まらないだろうと野呂が五味をからかうと、浪子も嘲るように笑い出す。

憮然とした五味は、君たちにお裾分けしよう!君たちとは絶好だ!と言い、立ち去って行く。

播州赤穂駅に列車が到着する。

その列車から降り立った浪子が駅の前に出ると、そこにいたのは五味だった。

何しに来たんだ?と五味が聞くと、あんたこそ、何してるのよ!と浪子も聞き返す。

やっぱりね…、分かってるんだと鼻で笑う五味は立ち去って行く。

その後、不破の写真を持って町内を探しまわる浪子。

同じように不破を探しまわっていた五味は、県会議員候補大石良太郎なる候補者の応援演説を車の上でやっていた不破を発見する。

不破さん!と呼びかかられた破の方も五味に気づき、焦ったように、運転手に出発!と声をかけたので、選挙演説カーは走り出してしまう。

浪子もそれに気づき、五味と一緒に選挙カーを追いかけて走る。

折しも、赤穂浪士の祭りか何かやっているらしく、義士に扮した子供たちが列を作ってお城の門の中に入っていたので、選挙カーから降りた不破は、背をかがめて、その子供の行列の中に身を隠す。

遅れて、子供たちの列に到達した五味と浪子は、必死に不破を探しながら前列の方にやって来て、一番列の前で、しゃがみながら陣太鼓を叩いてリズムを取っていた不破を両側から挟み撃ちにする。

逃げられないと観念した不破は、最近芸術界はどうかね?などと話しかけて来るが、五味は冷静に、権利書の権利で参っただけですと答える。

旅館の部屋で不破を前にして話し合いをしようとしていた五味と浪子だったが、そこに、随分探したよなどと言いながらやって来たのは孫で、大人(たいじん)の借金どうしたの?と言いながら書類を出す。

不破がとぼけていると、孫はいきなり少林寺拳法で机をまっ二つに割ってしまう。

すると、そこにやって来たのは刑事たちで、詐欺の容疑で迎えに来たんだと言う。

それを観た不破はほっとしたように刑事に近づき、不祥不破数馬、ちょっと別荘に言って来る!と五味たちに挨拶しておとなしく連行されて行く。

とんだ詐欺師だよ…と、それを見送った五味はため息をつく。

ボロ屋の横の池では、古畑団長が釣りをしていたが、そこに近づいて来た浪子は、学校が閉鎖になるのと言いながら、学校から持ち出して来た「協力一致」と書かれた額縁を見せると、横山大観かな?などと団長が言うので、大観って絵じゃなかったかしら?と浪子は突っ込む。

ロビーには権利書を持った陳が来ており、この家は私のもの!と全員即時大挙を要求していた。

不破が逮捕された今、それに立ち向かえるものはなかった。

それに対し、私は動きませんからね!とマキが断固抵抗していた。

困惑するサカエには、あんたがボヤボヤしてるからでしょう?約束違えたのはあなたでしょう!あの男使って!と陳が噛み付く。

渡る世間は鬼ばかり!地獄から呪い殺してやりますよ!とマキが一人嘆く。

そこに出て来た古畑団長が戦いだよ!とみんなに言い聞かす。

それを観た浪子は、団長、統合元帥に似て来たわ!とおだてる。

目には目を歯には歯を!二枚が四枚!四枚が八枚!みんなが集まれば力になる!古畑団長は何かに憑かれたようにしゃべる。

浪子は野呂を焚き付けるが、野呂は手ぶらで行く訳にも行かないだろう…と躊躇する。

1人で「文福飯店」にやってきたハナエは、五味さんって、勝手に赤穂に行ったのよ…と言い訳し、胸の辺りを押さえて、急に差し込みが…、陳さん、ここ押さえて!などと甘えた口調で訴えるが、陳は、色仕掛けはもう通用しないよと相手にしない。

するとハナエは急に態度を変え、立退料頂くわ!出すもん出さないと、ここ首を吊ってやるから!と脅かす。

それに気づいた孫がやって来る。

その時、アヒルを持って「文福飯店」にやって来たのは野呂、五味、古畑団長、浪子たちだった。

彼らは、孫ともう1人の従業員に二階から運ばれて来たサカエを見る。

サカエは、一階の床に大の字に寝そべると、さあ!殺すなら殺せ〜!と叫びだす。

五味たちが自分を見ていることに気づくと、見せもんじゃないんだよ!と凄んでみせる。

そんなハナエに近づいて、どうせ立退料を負けてもらおうとしているだけじゃないか!と言い放ったのは浪子は、ハナエと取っ組み合いの喧嘩を始める。

浪子は少林寺拳法の格好などし、止めには言った野呂ははね飛ばされる始末。

それを観て笑う五味。

君は最初から虫が好かなかったんだ。イワシの薫製みたいな顔して…と五味は野呂を嘲る。

女同士の喧嘩を見ていた古畑団長は、何たる浅ましさ!この世の地獄だ…と嘆き、恋人を大切にしなさい。あんたの純情、どこへやったか?色と欲とは身を滅ぼすんだぞと嘆くと、損に案内させ、二階にいる陳に会いに行く。

孫は、得意の少林寺拳法のポーズでイヤ〜ッ!と団長に殴り掛かろうとするが、カモン!ボーイ!と古畑が睨みつけると、しゅんとして陳の部屋に案内する。

そこにいた陳と対面した古畑団長は、君に聞こう。東洋は東洋人の手に!大東亜共栄圏!日々是好日!分かるかな?分からない?などと一方的に言い、相手を煙にまいてしまう。

君にとってはあのボロ屋がなくても困るまいが、我々には困るんだ!貧乏子だくさん!などと団長は訴えるが、それをあっけにとられて聞いていた陳は、分からないんですが…と戸惑うだけだった。

そんな「文福飯店」に駈け込んで来たのはマキだった。

奥さん逃げちゃったんだ。駆け落ちだよ。酒屋の使用人とだよと、階段を降りて来た古畑団長に置き手紙を渡しながら教える。

手紙を読んだ団長は号泣しだす。

そんな団長たちに、孫は、出て行け!と命じる。

ボロ屋の自室に戻って来た古畑団長は、酒を飲んで荒れ、コンロを蹴倒したのにも気づかなかった。

マキは、広い部屋の中で首を吊ろうとしていたが、ロープに首をかけ、飛び降りた途端、ロープをまいていた横木が崩れてしまう。

浪子は五味の部屋に来て、この貯金が何百万に化けるなんて夢の又夢…などと愚痴った後、自分の部屋に戻ろうとロビーに来る。

その時、古畑団長の部屋から火が出ていることに気づき、火事よ〜!と絶叫する。

ロビーのソファーで寝ていた古畑自身もその声で目を覚まし、部屋が燃えていることに気づくと、十字を切って祈りだす。

住人全員が飛び出して来て、協力してバケツリレーで火を消し止める。

古畑団長は、他の住人たちに、申し訳ない!すまない!と詫びる。

翌朝、マキは、野呂が持っていた米を使っておにぎりの炊き出しをする。

私、拍子抜けしちゃったわ…、何で火を消したんだろう?こんなボロ家…と呟くが、それを聞いていたマキは、これは「私たちの家」ですからね。みんな良い人ばかりなんだね…と感激したように答える。

そうね、千早城ね!楠木正成として陳大人に立ち向かおう!崇高なるヒューマニズムで行こう!と雄叫びをあげた野呂は、すっかり打ちのめされている古畑団長を見て、ああ、何たる悲惨…と同情する。

住人たちは、一致団結してボロ家の正面にバリケードを築く。

後ろを固めろ!五味は、女性たちに指示を出す。

そこに、陳が孫や大勢の手下たちを引き連れやって来る。

叩き出してしまえ!孫が手下たちに命じる。

(「天国と地獄」の音楽をバックに)ボロ家の住民と陳一味の壮絶な戦いが始まる。

野呂は手下の頭に大切な招き猫型の貯金箱をぶつけ壊してしまう。

浪子はバイオリンで孫の頭を殴って壊してしまい、次の瞬間、借金のカタをなくしたことに気づく。

古畑団長は猟銃を持ち出し、ぶっ殺すぞ!と手下たちに向ける。

その時、警察が来た!との声がしたので、陳一味は全員逃げ出す。

ロビーにやって来たのは東京都建築課の人間で、この建物は老朽化が激しくて危険なので取り壊しになる。元々この屋敷は帰国したドイツ人のもので、保証金はとっくに不破に渡しており、役所は1年も前から通知してあるはずだと言うではないか。

取り壊しは国の命令と言うのであれば、もう住民たちはどうすることも出来なかった。

呆然となった古畑団長は、日々是好日!と叫んで、猟銃をぶっ放す。

マキとその子供たちと古畑団長は、同じトラックの荷台に乗って引っ越して行く。

野呂はサカエと同じトラックに乗っていた。

2人は結婚することにしたそうだ。

男を何人も知っているサカエが、野呂は二枚目でしょう?などとのろけるので、トラックを見送っていた五味はあっけにとられるが、元気でな、二枚目!と野呂を送り出す。

野呂とサカエを乗せた車が出発すると、今になって考えると、誰も悪い奴はいなかったんだな…と五味は浪子に話しかける。

その時、二人の背後に立っていたボロ家が、一挙に壊れる。

何だか涙出て来ちゃった…と、それを目撃した浪子は感傷的になる。

俺、腹立ってしようがないんだ。貧乏って奴がな!と五味は呟き、俺は甲斐性なしだったけど、金持ちの息子でも見つけるんだな…と五味が言うと、浪子は、私、バスで行くから…、さよなら!と言って別れて行く。

家財道具を乗せた大八車を引きながら五味もゴミ屋を後にする。

坂道を苦労して上っていると、突如、脇から浪子が飛び出して来て、五味の前に立ちはだかると、ずっと前に貸した4万円返してよ!と手を差し出す。

唖然とする五味に、返さないつもり?じゃあ、それまで一緒にいることにするわ!と浪子は言い出し、キスをしようと顔を近づけて来る。

反射的に五味も顔を近づけるが、金ないよ…と断り、浪子が頷いたので、そのまま抱きしめてキスをする。

手を離してしまったので、大八車は坂道を滑って戻って行くが、浪子を抱きしめている五味が気づく様子もなかった。


 

 

inserted by FC2 system