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明日はいっぱいの果実

当時15才くらいの鰐淵晴子主演のナンセンス風刺劇

今、映画好きが懐かしい映画として観ると、オリンピック前の東京の様子が写っているのが貴重なだけではなく、ストーリー的にもそれなりに楽しめる作品なのだが、公開時に一般大衆にすんなり受けたかどうかは疑問。

山田太一さんの脚本で、当時としては新しい感覚の内容だったのではないかと思うが、大衆が全員新しいもの好きとは限らないからだ。

ヒロイン役の鰐淵晴子は、さすがに「ノンちゃん雲にのる」(1955)の頃よりは成長しているが、まだ娘と言うには幼い感じで、濃い顔立ちの美少女と言った所。

この作品では、そんな「大人と子供の中間期」のような微妙な世代の少女をユーモラスに描いている。

一方では恋に恋するお年頃でありながらも、世の中の矛盾や大人たちの不正や堕落は許せない純な所をまだ持っている。

そんなヒロインは、大人が見ても応援したくなるような元気さと可愛さがある。

ヒロインの言葉も一々可愛いし、憎めない。

その純なヒロインの前では、大人たちはたじたじである。

ところで、この作品は「帰国第一回作品」とキネ旬データなどには紹介されているが、当時を知らないので事情が良く分からない。

しばらく母の国オーストリアにでも行っていたのだろうか?

それとも、バイオリンの演奏旅行をしていたのか?

脇を固める伊藤雄之助、大泉滉、左卜全らの人を喰ったようなおとぼけ芝居も楽しいし、セリフをしゃべっている巨漢羅生門のお巡りさん役も珍しい。

ちょい役で登場する小坂一也は、友情出演のようなものだったのだろうか?

要所要所に楽しいアップテンポの音楽が流れ、浮き浮きしてしまう映画である。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1960年、松竹、 山田太一脚本、斎藤正夫脚本+監督作品。

グラフィカルな太い線の渦巻き模様を背景にタイトル

戦後、日本は飛躍的に発展して来たが、一方で極端な貧困があるのも否定出来ない。(工業地帯を背景に)

反映と貧困と言う2つの顔…

ヘルメットをかぶって逃げる大和ハル子(鰐淵晴子)と富士山演習場で砲撃訓練する自衛隊の写真が交互に重なり、ミサイルを撃つ自衛隊の写真の後、その弾薬の残骸を拾い集める村人の中央に、不発ミサイルを拾い上げるハル子の姿もあった。

彼らは弾を拾い稼ぐと後は寝るだけの単調な生活だったが、そうした村の暮らしに不満は募り、離村農民は後を立たなかった。

若者たちのみんな東京に出たがっていた。

村を通過する機関車の運転士は、前方の線路上で手を振っているハル子を発見、急ブレーキをかける。

運転席に近づいて来たハル子は、ねえ、乗せてってよ、昔馴染みなんだから…などと運転士に話しかけるが、汽車は駅から乗るもんだ。バスじゃねえんだから…と運転士が呆れて注意すると、ハル子は、又前方の線路上に向かい、線路の上に横たわって、どうする?と運転士に悪戯っぽく問いかける。

その内、後ろの客車から、どうした?と騒ぐ客たちが窓から覗いているので、運転士は根負けし、乗れと手で合図してハル子を運転席に乗せると、規則違反なんだからおめえ小さくなっているんだぞと言い聞かす。

しかし、ハル子は運連席から身を乗り出し、リンゴをかじりながら外の景色を楽しみだすと、運転士にもリンゴを渡す。

やがて、別の大きな貨車に乗り込んだハル子だったが、ブタを輸送するコンテナだったので、子豚を抱いて考える。

次の駅で止まった時、ブタを輸送するコンテナから抜け出し、1両後ろのコンテナに忍び込んだハル子だったが、そこにもう1人別の娘が乗り込んでいたので互いに驚く。

その娘那須ナツ子(姫ゆり子)も家出して来たらしく、自分の名前を名乗ったハル子が、東京には兄ちゃんがいるんだと説明し、あんたは?と聞くと、自分には親も兄弟もない天涯孤独だなどと言う。

ハル子が、友達になっても良いよと言うと、ナツ子も同じように思ってたなどと答えるので、兄ちゃんの所に一緒に行けば良いよとハル子は誘う。

迷惑じゃないかい?とナツ子が気兼ねすると、こうして運命が2人を結びつけたんだからとハル子は言う。

友達がいきなり出来、喜んだナツ子だったが、私、堕落したくないの…と気骨を見せる。

2人は到着した上野駅の前に座り、一緒に大きなおにぎりを頬張っていたが、通行人がじろじろと見るので、東京ではおにぎりなんか食べないのかな?私たち、田舎者に見えるんじゃない?早く都会人になりたいから…などと話し合い、急に恥ずかしくなったのか、食べていたおにぎりを捨ててしまう。

お兄ちゃんはどこに住んでいるの?とナツ子が聞くと、三鷹よ、10里もないんだってとハル子は平然と答える。

そんな2人の前に立ちふさがった男が、家で娘だろ?君たち!と話しかけて来たので、2人は脱兎のごとく逃げ出す。

しかし、結局2人は、相模慎太郎(杉浦直樹)と言うその男と一緒に喫茶「フルーツ」に入っていた。

ナツ子とハル子は、相模の職業が何なのかさっぱり分からず、あれこれ当て推量してみるが相良は笑いながら、何か困ったことがあったら連絡してくれと言いながら、紙ナプキンに自分の電話番号を書いてくれる。

警察官ではなさそうなので、ちょっぴり安心したハル子は、三鷹って遠い?歩いて行きたいんだけど…と聞くと、驚いた相模は、電車で行った方が良いと言う。

じゃあ、思い切って奮発しちゃおうかな!と決意したハル子とナツ子は、電車で三鷹に向かう。

兄の下宿を探していたハル子は、道路工事中の穴に落っこちたりしながらも何とか見つけ出す。

ところが出て来た大家のおばさんは、兄は留守も良いとこで、1ヶ月も帰って来ないと言うではないか。

おまけに、部屋代は3ヶ月分もたまっていると言うので、がっかりしたハル子とナツ子は、兄が行っていた大学を訪ねてみる。

兄の知り合いのラグビー部員は、グラウンドで会った2人に、あいつは学生運動をやっていたから、外国に飛んで行ったかも知れないななどと無責任なことを言うだけ。

途方に暮れた2人だったが、ハル子が考えがあると言いだし、月末には家賃払うと言って、兄ちゃんの部屋に泊めてもらおうと提案する。

無事、兄の下宿に泊めてもらうことになった2人は、夕食用に、窓際に七輪を置き、鍋で料理を始めるが、ものすごい煙が出だしたため、他の住人たちは慌てて窓を一斉に閉める。

さらに、消防署の望楼の監視員がこのハル子の部屋から出ている大量の七輪の煙を発見する。

ナツ子と夕食を食べ始めたハル子は、お兄ちゃん、ソ連に行ったんじゃない?とナツ子が言うので、私に黙ってソ連なんかに行くわけないわ!と否定する。

ナツ子は、明日、東京見物に行っても良いかな?と言い出し、ハル子が良い顔をしないので、じゃあ、お兄ちゃん探しながら東京見物しようなどと言い直す。

その時、消防車のサイレンが近づいて来たので、火事みたいだね、不注意だねなどと人ごとのように話していた。

翌日、ジャン・ポール・ベルモントの写真を凝視していたサングラスの男が、近くに停めてあったバイクの荷台に靴を乗せ、新聞紙で磨いた後、そのバイクに乗って出発する。

その男は、マネキンの衣装を見ていたハル子とナツコを見つけ、いつ東京に来たんだ?などと話しかける。

ハル子の兄の友人の伊藤隆(桂小金治)、通称タカだった。

タカは、ハル子が村から出て来たと知ると、あんな村にいたら人間腐っちゃうよなどと言い、どっかで飯でも食うか!と誘う。

ハル子たちを、パトカーが対向車とすれ違えないくらい狭い道の前にある喫茶、食事「ビクトリア」に連れて来たタカは、トイレに入ると、紳士が手を洗うのを待ち構え、その背後に廻って後頭部を殴りつけ、大便所に連れ込んで、財布を盗むと、何喰わぬ顔で、ハル子たちが待つテーブルにやって来て、高い料理を食う。

タカは今、屑鉄拾いをやって10人ばかり人を使っていると言うので、ナツ子は、アカ好きなの?と聞くと、俺、勇ましいの好きだろ?とタカはハル子に説明する。

さらに、「ビクトリア」を出た所で、今盗んだ金の一部を小遣いとしてハル子に手渡す。

タカがすっかり成功していると思い込んだハル子は、人間やっぱち努力次第ねと感心する。

「週刊実話自身」ビル編集部では、相模慎太郎が持ち込んだ、若い娘の写真を撮って記事にしたいと言う企画を聞いた編集長(伊藤雄之助)が、君は女性雑誌でも作ってるつもりか?と皮肉を言っていた。

その夜、ハル子とナツ子は、下宿の窓から夜空の月を見上げ、とってもきれいね…などとロマンチックな気分に浸っていた。

ナツ子は、いっそのこと屑鉄の仲間に入れてもらったら?給料もらえば、ここの部屋代払えるし…と言い出す。

翌日、公園で会ったタカにそのことを相談すると、もっと女らしい商売しろよ…などと、ブランコに乗ったタカは乗り気ではない様子。

ハル子とナツ子は、ブランコを押してやりながら頼む。

そこにひげ面の青年が、課長!とタカを呼びながら駆けつけて来ると、連絡があったようです。厚木方面だって…と伝える。

それを聞いたタカとヒゲ男森家三平(山下洵一郎)が走って行ったので、ハル子とナツ子もその後を追い、タカとヒゲ男の乗ったバイクの後ろに強引に乗って同行する。

高速を走るうちに、軽トラの荷台に乗った仲間らしき連中に追いつく。

タカは、120kmで飛ばしたからな!と仲間たちに伝える。

目的の場所に来た三平は、ナツ子とハル子に誰か来たら口笛を吹いて知らせろと命じるが、ハル子は、口笛なんて吹けないもん!とすねる。

タカたちは、人気のない山間の道の端に身を隠し、やって来る車を見張っていた。

道の真ん中には仲間の色っぽい女が立ち、1台のトラックが近づいて来ると、スカートをたくし上げ、ガーターベルトが付いた黒いストッキングを全部さらけ出してみせる。

それに気づいた運転手と助手は、トラックを停め、鼻の下を伸ばして女を見つめる。

その時、トラックの運転席に近づいたタカたちが、運転手と助手を窓から殴って気絶させ、外へと運び出す。

その頃、近くで見張り役を頼まれていたナツ子は、何だか変だと思わない?様子見てこよっか?と言い出すが、ダメよ!不真面目ねとハル子は注意する。

やがて、トラックを奪ったタカたちは、近くの造成地にやって来ると、その場で盗んで来たトラックを解体し始める。

その時、ナツ子が吹く口笛の音が聞こえたので、誰か来たらしいと焦った三平が様子を観に行くと、道を曲がって近くの山に芝狩りに行く老婆(草香田鶴子)だったので、曲がる奴は良いんだよ!と注意した三平は、ナツ子とハル子を解体場所に連れて行く。

ハル子は、そこにあったトラックの残骸を観て、すごい!スクラップ!やっぱり東京ね!と感激する。

タカから、運ぶよう指示された2人は、これは車のドアみたいねなどと言いながら、車のドアを運ぶ。

その後、東京に戻ったハル子は、「グランプリ座」と言う名画座の裏にあるタカたちの塒に酒を買って持って来る。

そして、仲間たち(小瀬朗、林家珍平、吉野憲司、南郷佑児、富永ユキ、平山芙美子)に酒を注いで廻る。

中には、ヤクの代わりにと言い、酒を注射器で腕に注射する男までいる始末。

そんな中、三平は部屋の中央で首吊りをしていた。

首吊りをすることで快感があるのだと言い、その日は、首吊りに耐える時間1分20秒の新記録を樹立。

すると、仲間の女がハル子たちに持つび釣りをやってみろと勧めて来る。

ハル子はまともな女性のやることじゃないよと断るが、タカから特別扱いされているハル子が気に入らないらしい女は、そんな心がけだから、女はいつも馬鹿にされるんもよ!いっちょ、ヤキを入れてやろうか!などとしつこく絡んで来る。

するとハル子は、私がやろうか?弾潜って来たくらいだから平気などと言い出し、首を吊ってみせたので、見ていたナツ子は失神してしまう。

それを抱きとめて寝かせた三平がキスをしようと顔を近づけると、ナツ子は薄目を開ける。

さっきまで泡吹いてたぜ…と三平が照れ隠しで言うと、あんたが介抱してくれたんだ!あんた、そんな顔して、わりかしね…とナツ子は感激する。

その頃、ハル子の方は、スクリーンの後ろから、フランス映画のラブシーンをうっとり見つめていた。

すっかりのぼせたハル子はそのままフラフラ外に歩き出し、彼女のせいで往来の車が衝突しても気づかない様子だった。

ハル子は、以前番号をもらっていた相模慎太郎に公衆電話から電話を入れ、私、勤めちゃった!屑鉄屋よ!と自慢げに報告すると、あなたとデートしても良いと思うの。嬉しい?などと上から目線で誘う。

相模は彼女たちのことはあんまり覚えていなかったので、どっちの方だっけ?と聞くと、上品な方よとハル子は答える。

いつかの喫茶店で良いだろう?と相模は答え、急いで編集長の所へ向かい、記事になりそうですと報告する。

しかし、編集長はセックスを予感させるようなものだろうね?などと答えるだけだった。

タカの仲間たちは、町に出て来たハル子とナツ子の姿を見て、セックスアピールゼロ!田子作だねなどと馬鹿にするが、それを聞いていた三平は、デパートの女性服売り場に向かうと、麦わら帽やマネキンが着ていた服を盗んで来る。

三平が盗んで来た最新ファッションを来たハル子とナツ子には仲間たちもびっくり!

テアトル東京の側でたむろしていた男共は、パナマ帽にボーダー柄のシャツ、ジーンズをはいたハル子に、ドライブに行かない?などと誘って来る。

三平さんと一緒に行かない?と誘って来たナツ子に、ハル子は、上野の相模さんに会いに行こうと思うのと言って別行動を取ることにする。

喫茶店「フルーツ」でハル子と再会した相模は、見違えちゃったよとハル子のファッションを褒める。

なっちゃんの恋人が買ってくれたのと答えたハル子は、私は空いてるけど…と自ら誘う。

そんなハル子に、頼みたいことがあるんだと話しだした相模は、写真のモデルになってもらいたいと打ち明ける。

あなた写真家?裸になるの?と驚いたハル子だったが、そんなんじゃないと知ると気軽に引き受けることにする。

相模は、クラシックカーの前でポーズを取らせたり、浅草に連れて行ったり、東京駅前で煙草をすわせてみたりする。

ハル子は、慣れない煙草にむせてしまう。

開いている勝鬨橋や上野のデパートの上でポーズを取らせた相模は、お礼として可愛い犬のぬいぐるみを買ってくれたので、得しちゃったな!とハル子は無邪気に喜ぶ。

デパートの屋上の望遠鏡から東京をのぞいてみたハル子は、駐留軍はどこにいるの?等と聞く。

靖国神社に来た時、ここには凄いものがあると言いだした相模は、とある灯籠の前に来て、この廻りを3回廻ると、消えちゃうのさなどと言う。

どこに行くの?とハル子が聞くと、フィリピンのジャングルだったり、沖縄の山の中、ガダルカナルだったりするかも…などと言いながら、相模は自ら灯籠の周りを回りだす。

やがて、相模の姿が消えてしまったように思えたので、ハル子は灯籠の後ろを覗いて見るが、そこには犬が1匹繋がれているだけだった。

不思議そうにしていたハル子だったが、すぐに隠れていた相模が姿を現して脅かす。

その頃、三平はナツ子を連れ込み旅館「若竹」に連れて来ていたが、ナツ子は連れ込みを知っており入るのを拒む。

タカは、グループの女とパチンコをしていたが、女は、役にも立たないハル子たちをいつまでも優遇しているタカの態度に文句を言う。

ハル子の兄は学生運動をしていたのさ。あいつは俺のことを成功したと思い込んでいるんだ。それを追い返しも出来ないだろう…とタカは言い聞かす。

相模は、車で三鷹まで送ると言ってくれるが、ハル子は1人になって考え事をしたいので電車で帰ると言う。

暗くなった頃、三鷹に戻って来たハル子だったが、人気のない電柱の所でキスをしていた三平とナツ子を目撃、三平がそのまま帰ると、あんたのしていること感心しないねとナツ子に注意する。

私、17よ!何よ、4ヶ月遅く生まれたくらいで偉そうに!とナツ子が言い返すと、3ヶ月よ!とハル子も反論する。

2人は下宿の部屋に戻ると、そっぽを向いて同じ毛布で寝るが、今日は色んな所に連れて行ってもらったの。兵隊の神社にも行ったわ。写真も一杯撮ったし!デートってイカすねとハル子が勝手にしゃべっていると、ナツ子も起きていたと分かり、2人は直ぐに仲直りして身体をくっつけて寝る。

翌日、タカは、塒の中にある黒板を使い、次の仕事の説明をする。

今度の場所は公会堂前で、ハル子は逆立ちをしろなどと言いだしたので、ハル子は逆立ちなん化出来ないもん!と又膨れる。

その後、ハル子は外で逆立ちの練習を少しした後、公会堂の入口前で逆立ちのまねごとを始める。

何ごとかとおじさんが立ち止まって観ると、近くでハル子を見守っていた仲間たちが、巧いもんですね。オリンピック選手ですってなどと噓を言ったので、すぐに野次馬がハル子の廻りに集まって来る。

その隙に、仲間たちは、公会堂前の自転車置き場に置いてあった自転車を解体して持ち去ってしまう。

そこに現れたタカが、「勝つことではなく、参加することに意義がある。 クーベルタン」などともっともらしく解説し、ハル子を連れ去って行ったので、野次馬たちも解散するが、その頃には、自転車はほとんど消え失せていた。

その後、再び相模と出会ったハル子は、私、働くの好き!逆立ちも出来るのよ。仕事は神聖でしょう?などと夢中でおしゃべりする。

その時、駅の方に向かう群衆の中に兄の姿を見つけたハル子は、一緒に電車に飛び乗る。

しかし、兄は1つ向うの入口付近に立っており、満員なので近づくことができない。

横に立っていた青年(小坂一也)に邪魔だから退いてよ!あそこに兄ちゃんがいるのよと訴えるが、言われた青年の方も困りきってしまう。

結局、次の駅で降りた兄を追い、ハル子も降りると、コート姿で歩く兄の後を懸命に追って行く。

兄〜ちゃん!と呼びかけると、何故か兄は足を速めとあるビルの中に逃げ込んでしまう。

ハル子もその後を追って中に入るが、一足違いで兄はエレベーターに乗って上に上ってしまう。

そのエレベーターが下りて来たので、自分も乗り込み、兄が降りたと思しきかいに降りてみたハル子だったが、そこは何もテナントが入ってない空間があるだけで人の姿はなかった。

兄〜ちゃん、ハル子の兄〜ちゃん!大和清輝〜!と呼びかけるが、返事もなかった。

ハル子は、待たせていた相模と喫茶店で再会し、今の体験を打ち明ける。

怖かったわと言うハル子に、可哀想に…、その内会えるよと相模が慰めると、改心させるのよ、兄ちゃん、私には優しいんだもの…と答えたハル子は、突然、私、子供みたい?退屈しない?などと聞いて来たので、相模が否定すると、やっぱり子供扱いしてる!と怒りながら、出て来たスープをすすりだす。

相模は、君には可愛らしさと魅力があるんだよ。今流行りのトランジスタグラマーと言ったって身体が小さいだけだからねなどと弁解しながらスープをすする。

一方、写真展の会場で床に座っていた三平は、隣に座っていたナツ子に、ところで、ハル子の兄貴って、お前の何なんだ?何だって、一緒に探してやったりしてるんだ?そいつ、お尋ね者って言う奴じゃないだろうな?などと聞く。

するとナツ子は、焼きもち焼かなくて良いよ。私はハル子の純情さが好きで、彼女を守っているだけなんだと答える。

車でハル子を仲間たちの塒の前まで送って来た相模だったが、帰ろうとしていた時、建物から飛び出してきたナツ子が、仕事よ!とハル子に声をかけ、仲間たちと共にバイクや車で反対方向に出かけて行ったのを目撃し、気になって後を尾行し始める。

高速道路を追って行くうちに、相模のクラシックカーのボンネット部分から煙が出始める。

やがて、又、人気のない道に来ると、件の女が道の真ん中に立ち、向うからやって来た選挙カーに向かって、スカートをたくし上げる。

又しても、別の場所で見張り役を命じられ、仲間はずれにされたと思ったナツ子は、馬鹿にしてるわ!と憤慨し、見て来ようか?とハル子を誘う。

又しても、運転手を殴りつけ、奪った選挙カーを造成地に持ち込んだ仲間たちは、すぐに解体作業に入るが、それを近くの草むらからハル子とナツ子はしっかり目撃してしまう。

やがて、三平は、警官隊がやって来たことに気づいたので驚いて後ろに倒れ、応援演説のテープレコーダーのスイッチが入ってしまう。

応援メッセージが早回しで再生する中、解体グループは駆けつけた警官たちに捕まってしまう。

それを唖然と見つめるハル子とナツ子の所のカメラ持参でやって来た相模は、さ、逃げようと2人に声をかける。

クラシックカーの後部座席に乗って東京へ戻るハル子とナツ子は、ソフトクリームを食べながら、タカちゃんって悪い人だったのね…とがっかりしていた。

これからどうするつもり?とそんな2人に聞きながら、タカたちの塒にやって来た相模に、ハル子は、記念写真でも撮っちゃおうか!と明るく言い出す。

ナツ子も、子供でも生まれたら、お母さんの思い出の写真として見せましょう!などとのんきに言いながらポーズを取る。

ハル子もナツ子も、互いに写真写りを気にし、角度がどうのこうのと言いたい放題。

そこへ戻って来たのがタカで、それに気づいたハル子が、みんなは?と聞いても、知るか!とふてくされている。

そして、そこでカメラを持っていた相模に気づくと、こいつは誰だ?と聞き、前から知ってる写真屋よとハル子が教えると、勝手に撮ってんじゃねえ!と癇癪を起こし、相模のカメラを奪い取る。

何するのよ!とハル子はタカを止めようとするが、突き飛ばされ、壁に頭を打ち付けて気絶してしまう。

どうせ、赤新聞かなにかに得るつもりなんだろう!と言いながら中のフィルムを抜き取ったタカは、カメラを相模に返すと、部屋から追い出す。

そして、目を開けて気ゼルしているハル子の横にふて寝をしたタカは、今夜は、ハル子の部屋に泊めてもらうぜ。つまんないことになりやがった!と一方的に言いだす。

下宿に帰り、夕食の準備をし始めたナツ子が、相模さん、案外だったわよねと、抵抗もせず帰ってしまった相模のことを皮肉ると、ハル子は、インテリは暴力を否定するものなのよと言い訳する。

部屋で寝転んで飯の出来るのを待っていたタカは、七輪の煙でむせるが、夕食がすむと、ゴチになったなと礼を言う。

前におごってもらったからねとハル子も言い、田舎に帰っても酸性土壌だから嫌だななどとタカも暗くなる。

その内、逆立ちも巧くなるさとタカが慰めると、あんたのしていること知ってるよ!スクラップ!とナツ子が言い出し、道ばたにあんなに落ちているはずないと思ったとハル子も言う。

しかし、タカは、今度から3人でやるか!などと誘って来たので、悪に染まってるねとハル子は睨みつける。

私たち、寝ちゃおうか?と言い出したハル子とナツ子は、タカがかぶっていた毛布をはぎ取って横になる。

深夜、枕元に人の気配を感じて目を覚ましたハル子は、何者かが部屋の中に座っているのに気づき悲鳴をあげる。

電気を点けると、それは三平だった。

彼も又、警察の手を逃れて逃げ延びたのだった。

食べ残しの夕食を食べさせ、食べ終わったら自首するのよと勧めるハル子。

人間らしい暮らしをしないと幸福になれないわ。夫婦生活を考えても…とナツ子も案じたので、三平はこれで改心する。ヒゲも剃るし、2人の面倒も見ながら、兄貴を捜してやるよと言い出す。

そんな3人の会話を横になって聞いていたタカは、早く寝ろよ!と迷惑そうに注意する。

翌日、三平とハル子とナツ子は、そろってゴミ拾いの格好になり、ゴミ拾いのおばさんの後を付いてゴミを拾い始める。

しかし、ゴミ拾いのおばさんは、後ろから勝手に付いて来る3人を迷惑がり追い払おうとする。

この辺は人の集まる所だからね。人探しをしてるんだと三平が説明すると、尋ね人ならチベット爺さんに聞いたら良いとおばさんは教えてくれる。

そのチベット爺さん(左卜全)は、若い時分、世界中を歩いて廻ったと豪語し、話を聞きたければ30円寄越せと言う。

ハル子が渡すと、今度は、エチオピアでシロクマに遭遇した話をしようとし、続きが聞きたければ20円くれなどと言う。

私の話から!とハル子が呆れて注意すると、兄ちゃんの名前は?と聞いて来たので、大和清輝と言うと、知らん!聞いたこともないとチベット爺さんはあっさり答える。

がっかりして、又ゴミ拾いを始める3人だったが、ナツ子は、いつの間にか三平の背負っている駕篭にタイヤが入っていたので、また盗んだんじゃないの!と疑う。

三平は慌てて否定しながら、自転車のハンドル部分を、これやるから取っとけよと言いながらナツ子に渡そうとする。

その頃。「週刊実話自身」の編集部では、編集長が、相模が持ち込んだハル子の写真を見ながら、セックスに憧れる10代と言うのはどうかね?えげつない話の方が受けるんだ!などと言うので、この話から猥談はかけませんよ!その写真を使うことはお断りします!と相模は反論していた。

すると編集長が、その子に惚れとるのか?などと聞いて来て、うちは潰れかかっとるんだ!センチも程々にして頂戴!と嘆く。

翌日、木賃宿で寝覚めた三平は、まだ寝ていたハル子が、兄ちゃん…と寝言を言ったので、毛布をかけてやり、キスをするように顔を近づける。

その時、隣で寝ていたナツ子が目覚め、何をしてるの!どうもおかしいと思った!などと焼きもちを焼きだしたので、三平は慌てて弁解するし、目覚めたハル子も、落ち着いて!まだ何もしてないんだから…となだめるが、ヒステリーを起こしたナツ子は、三平を宿から追い出してしまう。

又2人きりになっちゃた…とハル子が嘆くと、悪漢退治して清々しちゃったとナツ子は言う。

ハル子は、新しい仕事を見つけるため、新聞の求人広告を読み出す。

2人が出向いた新しい仕事は、ゴルフ練習場の球拾いだった。

ゴルフ場係員(南進一郎)は、球拾いと言っても嘗めちゃいかんよと2人に言い聞かすが、ロケット弾拾ってましたからとハル子はアピールする。

一応採用が決まり、木賃宿に戻って来た2人だったが、そこに、左目に眼帯をした怪し気な男(大泉滉)が訪ねて来る。

チベット爺さんから聞いて来たのだが、ハル子さんのお兄さんのことで話があると言い、靴を片方だけ取り出して、見覚えがありませんか?これこそはあなたのお兄さんが私に下さったものですなどと言うので、身投げでもしたのかしら?とハル子は驚き、もっと詳しい話を聞く為に、男にせがまれ、近くの食堂で飯を食べさせることにする。

たらふく飯を食ったその男は、まことに残念でした…、お兄さんは1週間前までこの町におられたのですなどと言う。

どこに行っちゃったの?ハルちゃんは命を賭けて探しているんですからね!とナツ子が食い下がると、私は人に信用されない顔をしてますからね…と自嘲したその男は、知っている男を知っていると言い出し、勘定書きを2人に手渡す。

外に出た男に付いて行くと、相手は少し掴ませないと話してくれないかもしれません。最低1000円くらい…などと男が言うので、ハル子とナツ子は、持ち合わせの金を出してみて、400円しかないわと情けなさそうに答える。

すると男は、宜しい。後の600円は私が出しといてあげましょうなどと言い400円を受け取ると、「理容美容学校」と書かれた建物の前に来て、彼はここにいます。直ぐに戻って来ますからと言い残し、1人で中に入って行く。

しかし、いくら待ってもその男が戻って来ないので、怪しんで建物のなかの事務員事情を聞くと、その男なら、何とか産業と間違えたと言って、裏口から出て行ったと言うではないか。

籠抜け詐欺師だったのだ。

騙されたと気づいた2人だったが、もはやどうすることも出来ない。

翌日、ゴルフ練習場に出かけたハル子は、球が飛んで来る場所に立って巧みに球を避けながら球拾いをするので、見ていた係員は危ないよ!それに、そんな所に立ってちゃ、お客さんも打ち難いし…と文句を言うが、客たちは平気なもので、面白がって、ハル子が立っている場所にどんどん球を打ち込んで来る。

係員は、全く最近の客ときたら…と呆れた様子。

仕事が終わった後、ハル子はまた相模に電話して、どこにいると思う?又新しい仕事を始めたんだ!と明るく話しかけるが、何故か杉浦は愛想が悪く、暇がないんだと言ってさっさと電話を切ってしまう。

木賃宿に戻って来たハル子は、どうしたのかしら?相模さん怒ってるのよと、ナツ子に打ち明ける。

電話番号を便りに、翌日、「週刊実話自身」の会社に出向いてみた2人は、ハル子の写真が「10代はセックスが我慢できない」などと嫌らしい文言と一緒に宣伝ポスターになっていたので激怒する。

屋上で2人に会った相模は、すまないと思うが、今週号は売れてるんだよ。社会が求めているんだよと言い訳する。

エゴイスト!とナツ子が抗議すると、君たちは僕に騙されたと言うかも知れない。被害者ぶるのは日本女性らしいからね。言いたいことがあったらいつでも言って来なさい。失礼するよ!と答えた相模はそそくさと部署に戻って行く。

そんな相模に、ナツ子は、バカタレ!エゴイスト!インテリヤクザ!と罵声を浴びせる。

やけになったハル子は、出版社を後にすると、なっちゃん、スクラップしようか!と突然言いだし、近くに停まって、乗っていた連中が建物に入って行った車のタイヤを外し始める。

すると、たちまち、何ごとかと野次馬が集まって来る。

姉ちゃんの方は俺が引きとっても良いんだぜなどと、握り飯を頬張りながらからかって来るおっさんまで来る始末。

やがて、怪しんだ野次馬が呼んだ警官が近づいて来る。

それに気づいたナツ子は逃げ出すが、ハル子の方は車の下に潜り込んでいたので気がつかない。

やがて、外に引っ張りだされたハル子は、警官だと知り逃げ出そうとするがあっさり捕まってしまう。

取り調べに当たった警官部長(稲川善一)は、器物破損、道路交通法違反で鑑別所行きだね…。君たち家で娘だろう?などと黙秘を続ける2人を脅すが、先ほどの野次馬が面白がって交番前に集結しており、あの籠抜けの詐欺師もチベット爺さんもその中に混じって、ハル子たちのことを見守っていた。

大柄な警官(羅生門)が出て来て、解散して下さい!見せもんじゃないんですから!と注意するが、群衆たちは言うことを聞かない。もう1人の警官も出て来て帰るように促すが、群衆は納得いかないと騒ぎだす。

部長は危険を感じ、応援を電話で要請したので、応援部隊が到着するが、それがますます群衆の興奮をあおり、群衆たちは交番の中になだれ込んで来る。

その様子を近くの屋台から見ていた男女2人は、チャンスとばかりに飛び出して行く。

群衆たちと共に押し出されるように交番から出て来たハル子は、そのまま逃げ出してしまう。

すると、先ほどの屋台の客だった男女たちのグループが近くで車を解体しているではないか。

その中にタカの姿を見つけたハル子が、タカちゃん、あんたまだやってるのね!と文句をつけると、そりゃ、商売だもの…と言いながら車の前に立ちふさがる。

タカが、車の中に入る誰かを隠しているような様子だったので、怪しんで中を覗き込もうとするハル子だったが、ぐずぐずしてると足がつくぞ!と運転席から聞こえて来た声に驚く。

そこに座っていたのは、あれほど探していた兄の大和清輝(三上真一郎)だったからだ。

彼こそが、タカたち解体グループのボスだったのだ。

予定通り引き上げるぞ!と仲間たちに声をかける兄ちゃんに、ダメじゃない!堕落しちゃ!と叱るハル子。

悪いね、ナツ子に宜しくな!とハル子に声をかけ去って行くのは三平だった。

ハル子は、兄ちゃんの乗っている車に乗り込もうとドアを開けようとする。

兄はそんなハル子に向かい、お前にはいつか会えると思ってた。俺は学生運動をやっていて学校は止めたんだと言い、これだけあれば当分暮らせるだろうと言い、持っていた札束をハル子に渡そうとする。

しかし、そんなものいらないよ!と受け取るのを拒んだハル子は、一緒に田舎に帰ろうよ!と勧めるが、俺には俺の生き方があるんだ…と言い残し、兄は車を出発させる。

ハル子は、地面に落ちていた札束を拾い上げると、待て〜!大和清輝、待て〜!と叫びながら、兄の車を追って走り出すのだった。


 

 

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