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犬神家の一族

1977年、毎日放送+大映映画+映像京都、横溝正史原作、服部桂脚本、工藤栄一監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

ビルの屋上で逆立ちしている金田一耕助(古谷一行)に、下の事務所からおばちゃん(野村昭子)が、列車に乗り遅れると声をかける。

カバンを持った金田一は、線路を駆ける。

信州那須の大財閥、犬神左兵衛(岡田英二)が、近親者に見守られ、生涯を閉じる所から物語は始まる。

彼は生涯正妻というものを娶らず、臨終の席には、三人の妾、松子(京マチ子)竹子(月丘夢路)梅子(小山明子)の、各々家族たちと、恩人野々宮大弐の孫、珠世(四季乃花恵)、そして、弁護士の古館弁護士(西村晃)が居並んでいた。

財産分与の事を一切任されていた古館弁護士の言葉によると、松子の息子で、今だ戦地ビルマから帰らない佐清(すけきよ)が揃わないと、遺産相続の内容は発表できないという。

もし、その佐清が死亡の場合は、一ヶ月後の発表とするという。

犬神家の膨大な財産の中には、縁起の良い「ヨキ(斧)」「コト(琴)」「キク(菊)」を記した家宝があった。

そんな説明を、古館弁護士が一同に聞かせている中、佐兵衛は息を引取る。

昭和22年、那須駅に降り立った金田一耕助は、古館弁護士の事務所を訪れ、依頼の手紙をもらった若林豊一郎という人物に会いたいと申し出るが、あいにく、古館の助手に当る若林は、役場に行っており不在だという。

そんな中、古館宛に犬神家から電話が入り、博多港に佐清が復員して来たので、これから松子が迎えに行くという。

その電話をそれとなく聞いていた金田一は、古館から紹介された那須ホテルという宿屋に足を向ける。

キヨという仲居さんに部屋の準備をしている間、金田一は縁側から、湖にボートを乗り出した一人の美しい女性の姿を見つける。

キヨがいうには、野々宮珠世だという。

その珠世を岸で待ち受けていた無骨な男が、珠世を乗せて出発した車が、突然、暴走し、衝突した様を望遠鏡で観ていた金田一は、慌てて自己現場に駆け付ける。

壊れた車の中から出て来た先ほどの男、猿蔵(新海丈夫)は、「ブレーキが利かなかった。以前には、珠世様の布団の中に蝮が入っていた事もあり、お嬢様は命を狙われている」という言葉を残し、あっという間に、気絶した珠世を抱えるとその場を急ぎ立ち去ってしまう。

その頃、犬神家の屋敷では、竹子の家族、夫虎之助、息子の佐武(すけたけ)、娘の小夜子(丘夏子)らが、遺産の使い道等をあれこれ想像して楽しんでいたが、竹子は、佐清の帰宅が10日も遅れるという松子からの連絡を怪んでいた。松子が、何か企んでいるのではないかと疑心暗鬼の状態になっていたのだ。

一方、那須ホテルでは、金田一に会いに来ていた若林が、便所の中で死んでいるのが発見され、金田一は重要参考人として警察署に連行されてしまう。

署長(ハナ肇)は、東京に、金田一の身元調査の電話をかけるが、大沢警視直々に返事を寄越し、金田一が名探偵であるとの意外な事実を知らさせるのだった。

若林の死因は、肺に入った毒物によるものと判明し、ホテルで吸っていたタバコに毒が仕込んであった事が推測された。

そんな中、松子が深夜、犬神邸に到着。
佐清は疲れているという理由で、遺言状の発表は翌日に行われる事になる。

新たに、古館直々に依頼人となってもらった金田一も同席し、遺言状の発表を執り行なう事になったが、その席に現れた佐清は、白いゴムマスクをかぶった異様な姿だった。

念のため、佐清の素顔を確認させてくれないかと頼んだ古館弁護士に、最初は気色ばんでいた松子も、他の出席者たちにも迫られ、結局、佐清のマスクを脱がせる事になる。

その素顔の半分は、戦争の傷跡で醜くただれていた。

古館弁護士が発表した遺言状によると、総額50億といわれる遺産の全ては、佐清、佐武、佐智の誰かと3ヶ月以内に結婚する事を条件に、野々宮珠世に送られるという。

その珠世死亡の場合は、遺産の五分の三が、青沼菊乃の子静馬に送られるとも。

これを聞いた、松子ら三姉妹は真っ青になる。

自分達にびた一文入らないばかりか、下手をすると、自分達が昔、嫉妬から焼ごてを押した事がある、佐兵衛が製糸女工に産ませた子供に大金が渡ると知ったからだ。

佐兵衛は、64年前、この地に流れ着き、宮司をしていた野々宮大弐に救われた後、製糸工場を起こし、一代で財をなした男であった。

その宮司の後を継ぐ神社に、出征兵士の手形を押した絵馬が奉納されている事を知った金田一は、ひょっとしてその中に、佐清の手形もあるのではないかと気づく。

同じ事を考えた佐武や佐智は、古館弁護士を伴い、その絵馬を回収に来る。

例の、ゴムマスクの男が、本当の佐清かどうか、手形に残された指紋を照合すれば一目瞭然だからだ。

しかし、その事を知った松子は怒り狂って、申し出を拒否する。

その後、青沼静馬と佐清は、ラモウ守備隊という同じ部隊に所属していた事を、金田一は知る。

そんな中、一人の復員兵が、那須駅に降り立つ。
その顔は、傷病兵用の大きな白マスクで覆われていた。

犬神家の屋敷では、珠世が佐清の部屋を訪れ、佐兵衛からもらった懐中時計の修理をしてくれないかと依頼していた。

その後、珠世は、佐武と展望台で出会っていた。

翌日、橘署長ら警察と金田一は、事件発生の知らせを受け、猿蔵が手入れしている菊を栽培した温室に入って行く。

そこには、佐武の生首が菊の中に置かれていた。

金田一は、その近くで舶来もののブローチを拾う。
この近辺でそんなものを身に付けているとすれば一人しかいないと、珠世が呼出される。

珠世は前夜、佐武(成瀬正)に出会い、佐清の指紋の付いた懐中時計を渡した事を証言する。
しかし、その直後、珠世に襲いかかった佐武は、側で見守っていた猿蔵によって引き離されたという。

その後、佐武の胴体部分を乗せたボートが発見される。

最愛の息子を失った竹子は、鎌を持って、佐清を襲おうとするが、寸での所で、松子に制止させる。

その後、犬神家では、佐清が手形を押すと言い出し、その手形は絵馬と共に警察の鑑識に回される事になる。

一方、警察には、前夜一晩だけ泊まった不審な復員兵の事を知らせに来た、旅館「かしわ屋」の主人の姿があった。

その客が残して行った血染めの手ぬぐいには、「博多復員友愛会」の文字が染め抜かれていた。

鑑識を引き連れ、犬神家に再びやって来た橘署長は、佐清の手形鑑定の結果を家族たちに報告する。
絵馬に記された手形と、先頃、マスクの男が押した手形は全くの同一人物のものと分かり、つまり、ゴムマスクの男は、間違いなく、本物の佐清だった事になる。

そうした中、佐武が常日頃愛用していた猟銃をこっそり盗み出した佐智(松橋登)は、佐清と珠世が一緒の所を狙って、銃を発射する。

難を逃れた佐清だったが、今度は、橘署長から、手ぬぐいを持っていないかどうかを尋ねられる。
かしわ屋に残されていた手ぬぐいは、彼の持ち物ではないかと疑われたからだが、佐清自身は別の手ぬぐいを所有していた。

その頃、珠世に近づき、一方的な愛を告白していた佐智だったが、そんな彼にこっそり小夜子が近づいて来る。実は、小夜子は、佐智の子供を体内に宿していたのであった。

佐武の通夜の日、珠世の部屋に忍び込んだ復員平の姿が発見されて、屋敷内は騒然となる。

あおの復員兵を追い掛けて捕まえたのは猿蔵だったが、彼は後ろから忍び寄って来た何者かによって頭を殴り付けられ倒される。

その後、気絶していた佐清も発見されるが、その佐清は、とあるあばら家で復員兵と密会していた。

金田一と古館弁護士は、宮司から、犬神佐兵衛と野々宮大弐が残した「犬神納経」なる書物を開示され、その内容を調べた所、犬神家に流れるおぞましい血筋の系譜や、珠世が実は、佐兵衛の孫である事が判明する。

そんな珠世を何とかものにしようと企む佐智は、湖にボート遊びに出ていた珠世を、急用があると偽って、自分のボートに乗り移らせ、その後、クロロホルムで眠らせた彼女を、犬神家の別邸へ連れ込み犯そうとするのだった。

しかし、その直後、突然現れた復員兵によって、佐智は椅子に縛り付けられてしまう。

さらに、その後、駆けつけて来た猿蔵によって、珠世は救出されるが、佐智はそのままの状態で残される事になる。

息子がいなくなった事に気づいた梅子からの連絡で、別邸へも捜査にやって来た橘署長と金田一は、椅子に縛られ、琴の糸で絞殺された佐智の死体を発見する事になる。

金田一は、佐智が着ていたと思われる上着に染み付いた奇妙な匂いに気が付く。

その後、犬神家の屋敷内をこっそり調べていた金田一は、部外者が決して近付けない秘密の部屋が三つある事に気づくのだった。

松子から、その部屋の由来を説明してもらった金田一は、彼女たち三姉妹の母親たちが、どういう無惨な一生を送ったか知る事になる。

その後、湖から突き出す男の足が発見される。

その遺体を引き上げてみると、その背中には「スケキヨ」と書かれてあり、それを逆さに読むと「ヨキケス」と読める。

金田一は、一連の犬神家の連続殺人が各々「ヨキ」「コト」「キク」の暗示になっている事に気づくのだった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

古谷一行主演による金田一シリーズの第一弾。

映画版と遜色ないほどの豪華出演陣となっている。

特に、松子役の京マチ子と竹子役の月丘夢路とは、映画「華麗なる一族」で、正妻と妾というライバル関係そのまま。

又、京マチ子=大映、月丘夢路=日活、小山明子=松竹、そして監督の工藤栄一=東映…と、正に、東宝以外の映画会社合作作品のようにも思える所もすごい。

白いゴムマスクで顔を覆った佐清(スケキヨ)と、湖から突き出した男の足が強烈な印象を残す作品だが、このテレビ版にも、当然ながら登場する。

全5回に及ぶシリーズ作品だけに、じっくり複雑な内容を描いてあり、その分、映画版より見ごたえ感があるとも言えるし、逆に、やや冗漫に感じると言えなくもない。

もともと、この原作自体が、「獄門島」や「八つ墓村」などに比べると、ややミステリーとしてインパクトに欠ける作品だけに、三姉妹を演ずる女優陣の演技合戦以外には、あまりこれといった見せ場が少ないからだと思う。

それでも、冒頭から、何度も逆立ちを披露してみせる若々しい古谷一行の姿や、凝りに凝った大映映画の美術は、今観ても魅力がある。

特に、後半登場する「合わせ鏡の部屋」の美術は圧巻。

古館弁護士役の西村晃や、金田一事務所の留守番役、野村昭子、はたまた、橘署長役のハナ肇の元気な姿も懐かしい。

惜しむらくは、極めて重要な役所である珠世役の四季乃花恵が、今観ると、やや地味に見えてしまう所くらいか?

最後の謎解きも、やや性急過ぎ、説明不足な部分が多々あるのも若干気にならないではないが、全体としては、極めて丁寧に撮られたミステリードラマの秀作だと思う。


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